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143.ベタ過ぎやしませんか?

田舎暮らしを始めて131日目の続きの続き。




「なんだと!!

キングが浮気!?」


「しーっ、クロノスさん声が大きい」


凛桜が窘めるとクロノスは慌てて口を噤んだ。


未だに縁側ではドーナツを食べながらではあるが

ノアムがクイーンママを慰めながら話を聞いている最中だ。


「俺もにわかには信じられない話なのですが……」


カロスも眉を顰めながらお茶をひと口飲んだ。


「あのキングがなぁ……」


クロノスさんも何かを思い出しているのだろう

しみじみとそう呟いた。


「他の個体と浮気ですか……」


「本当なのか?信じられないが……」


いまではすっかりクイーンママはノアムさんに心を開き

心の丈をすべて吐露しているかのようだった。


そんなノアム達の様子を見つめながらクロノスは

思わずフッと笑みをこぼした。


「しかしノアムのあの能力は何度見ても感心するな。

あいつはどんな相手でもするっと懐に入って

心を開かせてしまう天才だ」


「そうですね。

まさかあのクイーンの心まで掴むとは思わなかったですよ」


カロスも同じように微笑みながら2人の事を見ていた。


「よく若い騎士団達の相談に乗っているところは

何度かみかけてはいたが……」


「そんなの序の口ですよ。

街に降りれば花屋の主人からパン屋の看板娘まで

あらゆる人が相談を持ちかけていますしね」


「騎士団としては優秀な能力の1つかもしれないが……」


急にクロノスの声のトーンが変わった。


「あれはあいつが()()()()()()()()()()()()()

否応なしに習得せざるを得ないものだったからな」


そう言ったクロノスさんはちょっと切なそうに微笑んだ。


ノアムさん……

たくさんの異母兄弟の中で育ったっていってたな。


それに純血じゃないから……

学生時代は随分荒んでいたって言っていたよね。


きっと逐一状況をみて判断しないとやっていけない

環境だったのかな……。


貴族は純血主義で何かと柵が大きい……。


いつも明るくて人懐っこいからあまり感じないけれど

実はとても苦労人なんだよね。



数十分前の事だ……

少しクイーンママが落ち着いてきたので

ノアムさんからざっくりだが事情をきいた。


ちょうどタイミングよくクロノスさんも合流したので

ノアムさんが今わかっていることを話し出した。



先日2体で寛いでいる所にルナルドさんが来たらしい。


そしてキングパパだけを連れ出した。

なんでも特別な客人が来たそうだ。


そんなことはめったにないのだが……

すまなそうにルナルドが誘いに来たそうだ。


そしてその日何故か……

キングパパは一晩温室に帰って来なかった。


次の日の朝早くの事……

若干やつれたキングパパが戻っては来たのだが

その時に事件は起こった。


なんとパパの身体に!!

他の雌株個体の花粉がべったりついていたのだ!


しかも数本だが、ブロンズの花弁も絡まっていたとかで。


もうこれを見た瞬間……

クイーンママはブチ切れて温室をそのまま飛び出した。


後ろで何かキングパパが必死に叫んでいたが……


「ツイテキタラ……

スベテヲハイニスル!!」


と叫んで飛び出したらしい。


あー、うん……。

クイーンママならやりかねないかもね。


そしてそのままキングパパやルナルドさん家の警備を振り切って

うちの中庭へと家出という流れになります、はい。


「…………」


「物的証拠があるのは厳しいですね。

ほとんどクロですよね……」


カロスが同情するように眉をよせてクイーンを見つめていた。


「俺が見る限りキングはクイーンにベタ惚れな感じが

したけどな……わからないものだな」


「そうですね……」


クロノスさんとカロスさんは渋い顔をしながら

かりんとうを摘まんでいた。


あ……うん……。


普通にみんな夫婦喧嘩話をしているけれども……

この状況って普通なの?


えっ?

そもそも植物に婚姻という制度があるの?

私初耳なのですが……。


すくなくとも私のいた世界では……

乱暴な言い方だけれども……

植物というものは勝手に受粉して増えるというか。


特定の相手としか受粉しません!

じゃないよね……。


風とか虫が花粉を運んで実を結ぶ的な?


まあ、ルナルドさんからも特別な植物だという事は

聞いてはいましたし……。


気にいった相手としか婚姻?しないとは

うっすらと聞いてはいてけれども!!


ここまでドロドロの愛憎劇を繰り広げるくらい

複雑な愛があるとは思わなかったわ。


そもそも浮気ってなによ……。


しかも浮気相手の花粉がついていたって?


なに、その証拠。


“このワイシャツについている口紅は何よ!!

しかもベッドの脇にピアスまで落ちているし!!

あなた浮気したでしょう“


くらいの勢いだよね。


ひと昔前のドラマじゃないんだから。

こんなベタな浮気ってある?


そんなもの引っさげて本妻の元へ帰って来る

夫がいるかしら?


いや……その前に……私的にはですね……

ちょっと本気で何いっているのかわからない状況なんだけど。


私たちは一体何を聞かせられているの?


凛桜が腑に落ちない表情をしていたからだろうか

クロノスがおそるおそる話しかけてきた。


「やはり凛桜さんも女として……

キングの事を許せない感じか?」


えっ?


思いがけない角度から質問されたので

とっさに返事が出来なかった。


「そうだよな……

嫌だよな……。

愚問だったな」


そう言ってクロノスは黙り込んだ。


いや、そういう事じゃないのよ。

なんであなたが落ち込んでいるのですか。


浮気は嫌よ、うん。


そうじゃなくて、植物の浮気って何だよ!!

定義がわからないわ!!


まーもう、この際それはいいや。


私も腹をくくりました。

きちんとこの件に向き合います。


そうしないと精神状態が崩壊するからね!


凛桜はわざとらしく咳払いをすると

クロノス達に言った。


「そもそも、本当にキングパパは浮気をしたのかな?」


「えっ?」


「クイーンママだけの話だけじゃ……

本当の事は見えてこないよね」


「確かに……」


「キングパパの話も聞いてみない?

一方だけの話で結論を決めつけるのはよくないかなって」


「そうですね。

クイーンを疑う訳ではありませんが……

両方の話を聞くことは大事ですよね」


カロスも頷いた。


そこで凛桜はノアム達の元へと向かうと

クイーンママの葉っぱを優しく握って言った。


「ねえクイーンママ……

傷ついている所にこんな事をいうのは酷だと思うけれど

今回の件についてキングパパにも話を聞いてもいい?」


「…………」


クイーンママは目を零れんばかり見開いて固まった。


「確かによろしくない状態でキングパパがクイーンママの元へ

帰って来たのは事実だけれども……

何か深い事情があったのかも知れないじゃない」


凛桜がそう言うとクイーンママは……

全ての葉っぱを揺らしながら震えていた。


「…………」


しばらくして伏し目がちな眼差しがふっと上げられた。

そして震える声で一言ポツリと言った。


「コワイ……」


その後に縋る様にノアムを見つめた。


するとその視線に答えるようにノアムが

自分の胸を叩いてつとめて明るくこう告げた。


「大丈夫っスよ。

クイーンが怖いなら……

俺と凛桜さんでキングに話を聞いて来るッス」


「ネコ……」


クイーンママは凛桜とノアムの顔を不安げな瞳で

交互に見つめながら更に激しく葉っぱを揺らしていた。


きっとどうしたらいいのかわからず葛藤しているのだろう。


誰もが真実を知るのが怖い時がある。

それが愛している人の事ならなおさらだ。


その気持ちは種族とかは関係ないのだろう……。


「どんなことがあっても俺が最後まで見守るッスから」


ノアムがそう告げるとクイーンママは

少女のように恥じらって狼狽えながらも頷いた。


「ネコ……マカセタ」


「はいはい、任されたッスよ」


そう言ってまたもやとびきりの笑顔で親指をグッと立てた。


ノアムさん……恐ろしい人だ。


今まではクロノスさんが最強の天然タラシだと思っていたが

その上がいましたか……。


しかし当の本人は至ってマイペースだった。


「凛桜さん、腹減ったっス。

さっきからこのいい香りが俺を虜にしてやまないっス。

早く“ラザニエ”食いたいッス」


そう言って獣耳と尻尾を嬉しそうに横にブンブン振っていた。


「ラザニアだ、バカ猫」


カロスさんのいつもの容赦ないツッコミが入りました。


「…………」


相変わらず物の名前は覚えられないらしい……。


「そうね、これからどうするか作戦会議の前に

腹拵えといきますか」


凛桜はオーブンへと向かった。




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