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142/219

142.犬も食わないとよく言いますが……

田舎暮らしを始めて131日目の続き。




凛桜が縁側まで来ると何故かその物体は1人だった。

いや……1体かな?


「クイーンママ……」


少し薄めのターコイズブルーの顔とシルバーの花弁が

何故か若干萎れている感じがした。


いつも艶々のプルプルでちょっぴり妖艶な感じがして

まさにクイーンの気品を漂わせている個体なのに。


今日はとても元気がない。


それ以上に気になるのが1体で来たことだ。


キングパパとクイーンママは2体で1つという

認識が自分の中では出来上がっているからだ。


「リオ……」


クイーンママはやつれた顔で凛桜を見上げた。


シュナッピーも黒豆達も非常事態を悟ったのだろう。

どう対処していいのかわからず周りでオロオロしていた。


「今日はどうしたの?」


「…………」


相変わらずクイーンママは何も語らないまま

大きな1つ目で凛桜をただ見つめていた。


そういう事ではないと……

薄々わかってはいたが念のために聞いてみた。


「もしかしてまたお使いにきてくれた?」


「…………」


クイーンママは弱々しく頭を横にふった。


ですよね……。

やっぱり違うか……。


「クイーンママが1人でうちに来ることをきちんと

ルナルドさんには言って屋敷を出て来た?」


「…………!!」


クイーンママはギクッと身体を震わせた後に

気まずそうに目を逸らした。


「…………」


これは勝手に来ちゃった感じだな。

大丈夫かな、お屋敷でパニックになっていないかしら。


そんな凛桜の心配をよそにクイーンママは

とんでもない発言を投下してきた。


「…………カラ……」


「え?」


あまりにもか細い声だったので最初はよく聞き取れなかった。


が、決意は固いのだろう。

2度目は凛桜の目をはっきりとみながら言った。


「ルナルド二……モシ……シラセタラ……」


「知らせたら?」


「チノハテマデ……トウボウスル」


思いつめた顔でそう呟いた。


えぇえぇえええええ!!


寂しそうに目を伏せながらそう言われても!

言っている内容がエグ過ぎませんか!?


それってもはや脅し文句だからね!!


そんな事言われたら連絡できないじゃない。


あーもう、一体何があったのさ。


これはあれですよね!

完全に“家出”だわ……。


何かあったとしてもなんでうちに家出しに来ちゃうかな。


来ること自体はいいんだけれどもさ。

いや、いいのか?


駄目でしょう、限りなくアウトに近いでしょうが……。


まあ、本当に地の果てとかに最初から行ってしまって

いたらと考えたら……

それはそれでヤバイから、いいのか?


クイーンママの実力だったら……

本気で雲隠れとかされたら永久に見つからなそうだし。


そう考えたらうちにきてくれてひと安心と思うべきなのか。


ああ見えて誰かに話を聞いて貰いたかったのかしら?


話ならいくらでも聞くけどね……。

私……恋愛相談はあまり得意じゃないわよ。


ましては夫婦間の問題とかわからないけど大丈夫かしら。


でもそれ以上にここにきたら直ぐにバレてしまわないか?

1番に探しに来ちゃう場所じゃない、ここって。


果たしてこれは家出というのだろうか……。


「…………」


相変わらずクイーンママは苦悶の表情で

だんまりを決め込んでいる。


ルナルドさんにも言えないという事は

この件に関してルナルドさんもかかわっているのかしら。


だから1人で抱えきれなくてうちにきちゃった感じ?


まいったな……どうしよう。

凛桜は見えないようにこっそりため息をついた。


何かあったのだという事はわかりしました。

が、埒があかないので本題に切り込んでみたいと思います。


「えっと……今日は独りで来たのかな?

キングパパは一緒じゃないの?」


と、凛桜が訪ねた時だった。


急にクイーンママから殺気のようなオーラが発せられた。


「シラナイ!!」


とても冷たい声で吐き捨てるように言った。


へ?


キングパパの名前を出した途端……

尋常じゃないくらい雰囲気が悪くなったんだけれども。


「…………」


相変わらずクイーンママは……

禍々しいオーラを放ちながら何かぶつぶつと言っていた。


許さないとか抹消するとか……

物騒な文言がチラッチラ聞こえるのは気のせいかしら。


あー、これは完全にキングパパと何かあったな……。

夫婦喧嘩でもしたのかな?


「ギュ、ギョロォロ……」


そんな母親を初めてみて耐えられなくなったのだろう。


おそるおそる慰めるかのようにシュナッピーが

キングママにそっと寄り添っていっているのも泣ける。


そんなシュナッピーをそっと蔦で抱きしめる

クイーンママ!!

親子愛ねぇ……。


って、いやいや……

危ない……なにかよくわからないけれども……

あやうく絆されるところだった。


駄目でしょう。


とにかく何が起きているか把握しないと。


とりあえずいつものように振舞いながら

それとなく聞き出すしかないかな……。


今問い詰めても事情を話してくれるわけもないしな……。


「これからラザニアという料理を作るのだけれども

クイーンママも食べる?」


そう優しく話かけると……

クイーンママはそっと顔をあげて無言で頷いた。


「じゃあ、できるまで黒豆達と遊んでいて」


「ワカッタ……」


クイーンママはようやくブラックモードを解除してくれた。


今は何事もなかったように中庭でみんなと戯れていた。


どうしようかな……。


凛桜はラザニアの生地を形成しながら悩んでいた。


ルナルドさんに連絡できないとなると難しいな。


そのうちに察して迎えに来てくれるかな?


それはそれでうちの中庭が戦場になりそうで怖いな。


それよりも飛び出していったクイーンママを

追いかけもしないキングパパってどうなのよ!


キングパパよ……

男としてそれはどうかと思うよ、うん。


現場をみていないから何とも言えないけれども。


もしかして追いかけたのかも知れないけど

振り切って逃げられたのか。


それとも……

“ついてきたら一生帰らない”

と言われて怖気づいたのかも知れないし……。


いやー、どうしよう。


あ、そろそろ鍋のお湯が沸くわね。


オリーブオイルを大さじ1くらい垂らしたら

形成したラザニア生地を1枚ずつ加えて5分程茹でます。


いい感じにモチモチの生地が出来たわ!


よし、後は耐熱容器にホワイトソースとミートソースを

1/5量ずつ重ねて入れてから……

ラザニア1/4量を重ねます。


それを4回ほど繰り返してから……

最後にホワイトソースの上にミートソースを重ねます。


その上に蕩けるチーズをたっぷりとのせたら

220℃に予熱したオーブンで20分程焼いていきます。


凛桜はオーブンの扉を閉めると思い出したかのように

声を漏らした。


「本当にどうしよう……」


そこに元気な声が聞こえてきた。


「ちわッス、凛桜さんいるっスか?

めちゃくちゃいい匂いがするっすね」


「お邪魔します」


ノアムさんとカロスさんがやって来たみたいだ。


「あれ?クイーンも来てたんッスか」


「ネコ……。

ト、フクダンチョウ……」


「相変わらず俺はネコ呼ばわりッスか」


そんなやり取りが中庭から聞こえてきた。


凛桜もすぐさま縁側へと向かったのだが……

凛桜が中庭へと降りる前に……

ノアムさんがとんでもないことを言い出した。


「あれ?そう言えば……

キングはどうしたんッスか?

クイーン1人ッスか?

あ!もしかしてその顔!

夫婦喧嘩でもしたッスか?」


えぇぇええええええええ!!

いきなり聞いちゃう!?


凛桜は絶句の表情でノアムをみた。

カロスもまさかの発言に固まっていた。


「…………!!」


クイーンもまさかここまで直球にきいてくる奴が

いるとは思わなかったのだろう。


怒りの前に唖然としている様子だった。


「妹たちも番と喧嘩した時に

今のクイーンのような顔しているっス。

だから俺にはすぐにわかったッスよ」


ドヤ顔でそう言いながらノアムは何度も頷いていた。


本気か!?

バカなのかそれとも一周回ってある意味天才なのか。


ノアムさんの強靭なハートと観察力が

状況を変えてくれそうな事はわかった。


でも俯いてしまったクイーンママの表情がわからないので

今の所、吉と出るか凶とでるかはまだわからない。


「ノアム……お前……失礼だろう」


カロスはノアムを窘めながらもクイーンの様子を

ハラハラしながらうかがっていた。


しかしそんな空気など読むわけもなくノアムは続けた。


「話なら俺聞くッスよ。

よく妹たちにも恋愛相談や夫婦間の悩みを

相談されることが多いッスから!

場数だけは踏んでいるっスよ。

俺自身は……彼女も番もいないっスけどね」


そう言ってかなりいい笑顔で親指をグッと立てた。


確か異母兄妹がたくさんいるっていってたな。

いいお兄ちゃんしているのねぇ。


って、違うよね。

あいてはクイーンだよ!!


その前に植物の夫婦喧嘩の仲裁ってどうなのよ。


夫婦喧嘩なんかするんかい!

というツッコミの方が先なのかしら。


いやー異世界怖いわ。


だんだん感覚が麻痺していっている気がする。


「そんな悲しい顔はクイーンには似合わないっス」


えっ?

急に口説きモードのような発言やめい。


「ネコ……」


クイーンも満更じゃないかんじやめて……。


「1人で悩むよりも誰かに話した方が楽になるッスよ」


そう言ってお茶目にウィンクした。


そんな能天気な行動と発言にクイーンママは思わず

笑ってしまったらしい。


「フフフ……ネコ……。

オモシロイヤツ……」


「さあ、姉さん!どーんと俺に話してみるッス」


そう言ってノアムは胸を軽く叩いた。


「…………」


クイーンママは一瞬口を開きかけたが

シュナッピーの顔を見て戸惑いの表情を見せた。


と、それを見たカロスさんが唐突に言ってきた。


「この前来た時に頼まれていた野菜の収穫を

シュナッピー達と行ってきてもいいだろうか」


カロスさん!!

ナイスアシスタント!!


さすが副団長……場の空気をよめる男!!


「え、ええ、是非お願いします」


「いくぞ、お前たち」


「ワンワン!!」


「ギョロギュ!!」


シュナッピーは心配そうに何度もこちらを振り返っていたが

カロスに促されてそのまま畑の方へと走って行った。



こうして話しやすい環境が整ったところで

クイーンママはポツリポツリとノアムに事情を話し始めた。


「それで……」


「カエッテコナカッタ……」


「そうッスか……」


料理をしながらなので……

ところどころしか聞こえてこないがかなり深刻のようだった。


そんな2人を凛桜が見守りながら料理を作るという

なんとも不思議な時間が流れていった。





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