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138/219

138.発音良すぎませんか!?

田舎暮らしを始めて129日目。




「おいしい~!!

グランキオの焼売おいしい~!!」


凛桜の周りで子供のペンギン獣人達が飛び跳ねていた。


「よかった!

まだたくさんあるからいっぱい食べてね」


「あい!」


数十匹の子供ペンギン達が一斉に右手をあげて

凛桜に向かって敬礼した。


かわいいなあ……。

小さいからなお可愛さが増すわ~。


俗にいうフェアリーペンギンの種族かしら。


私たちが普段水族館でみるペンギン達より

遥かに小さいのよね。


ざっくりだけれども……

大人のペンギン獣人さんでも……

くちばしの先から尾の先まで40~50㎝くらいに思う。


「凛桜しゃま、もっと!もっと!」


数匹の赤ちゃんペンギン達が凛桜の膝の上で

口を大きく開けて催促してきた。


「フフフ……熱いからゆっくり食べてね」


箸で小さくちぎってあげてからそれぞれの口へ入れてあげた。


「うまうま~」


かわええええ!!

赤ちゃんペンギンもっふもっふ。


この時期だけはもっふもっふペンギンなのね。

凛桜はその中の1匹をぎゅっと抱きしめた。


円らな瞳も可愛すぎる!!


凛桜はデレデレになりながら手ずからグランキオ焼売を振舞っていた。




私……本日は山の奥の秘密の場所にあるという

ペンギン獣人達の集落“パンゴワン”に来ております。


グランキオをまるごと茹でる為に大鍋を借りる条件に

凛桜が作ったグランキオ料理を村人に振舞うという

約束を果たすためだ。


今朝早くクロノスさんと騎士団の精鋭数名と村にやってきた。


クロノスさん達は今……

村長さんたちと何か話し合いをしているみたい。


その間私は村人達と交流を深めております。


グランキオ討伐の一件はすべての住民に

伝わっている模様だが……

最初はみんな遠巻きに私達の事をみていた。


が、しかしその後直ぐに打ち解けてくれた。


お土産のモナコが凄く好評だったらしい。


“あの噂のモナコを最初に作った料理人だと!!”

と、急に尊敬の眼差しを頂いちゃったわ。


モナコ……やっぱりヤバいな……。

ここでもあんこパワーを発揮してくれたみたい。


それにグランキオ料理も口にあったのだろう。

一気に距離がぐっと縮まったみたいです。


料理の力は偉大だわ!

美味しい料理を食べたいという気持ちは万国共通なのね。


最初はみんな私の事を“魔族の姫様”って呼ぶから

それは勘弁してほしいと言ったわ。


だって……姫様って年じゃないじゃないし

歳だけでいったら王妃レベルだからね!


そもそも論なんだが姫でもないし、魔族でもない……。


だから凛桜さんでもいいよって言ったのだが

なんだかわからないけれども“凛桜様”で落ち着いた……。


様をつけられる身分じゃないんだけどなぁ。

そこは譲れないんだとか。


魔族の姫でクロノス様の番の方をそんな気安く呼べないんだと。


つっこみどころ満載な意見を聞かされて……

かるくひいてはいるんだけれどもね……。


あまりにも村人たちの顔と声のトーンが本気だったから

素直に頷いておいたわ。


それがきっと平和的解決。


世の中ってこうして嘘が真実にかわっていくのね、多分。


それを聞かされた時のクロノスさんのなんとも言えない

表情とノアムさん達のにやけ顔が対照的だったわ。


笑い事じゃないから本気で!


人一倍にやけた上に!

わざと私の事を姫呼ばわりしたノアムさんには

モナコを金輪際食すの禁止の刑に処する事にします!


そう言ったときのノアムさんはこの世の終わり的な

残念な顔で項垂れていたよ、うん。


信じられないくらい獣耳と尻尾がだらんと下がってた。


ノアムさんモナコ大好きだもんな。


そんな様子がちょっと可哀そ可愛かった事は内緒だ。


今日一日使い物にならなくなるから俺からも謝りますって

カロスさんにも真顔で言われちゃったくらいだ。


まあ、もう……

姫でも凛桜様でも好きに呼んでください、はい……。



ペンギンの里は本当に長閑な農村って感じ。


家も茅葺屋根っぽいし

村の至る所に井戸のようなものも見える。


広場の中心には小さな池があり

中には水連のような花がいくつも浮かんで咲いていて

とても神秘的で美しい。


それ以上に池の透明度がすばらしい。

吸い込まれそうなくらい池の底が見えるよ。


そして村を囲むように水路が流れているのも特徴的だ。


だが……

なんとなくその水が濁っている気がするのは気のせいだろうか。


池や井戸のまわりはピッカピカにきれいなのに

水路に関しては至る所に苔のようなものも生えている……。


この落差はなんだろう?


そんなことをぼんやりと考えながら水路を見つめていると

横に誰かが立つ気配がした。


「よお、魔族の姫様!

今日はありがとな。

久しぶりに子供たちのはしゃぐ声が聞けたぜ。

それにあんたの料理、期待以上に美味かったぜ」


そういって大きなペンギン獣人の青年が凛桜にむかって

ウィンクを投げてきた。


この前のイケペンギンさんだ!!


ペンギン獣人さんと言ってもこの村人たちは

ほぼペンギン本来の姿だ。


その中でもこのイケペンギンさんだけは何故か

皇帝ペンギンくらい大きいのよね。


150㎝くらいはあるかな?


普通に考えたら小さい身長だけれども

このミニペンギン達の中では異色の大きさ。


それにペンギンらしからぬ精悍な顔つきの

ペンギンさんなんだよね。


発言はちょっぴり気障なのがちょっとアレだけど……。

それが嫌味にならない稀なタイプだ。


「おっと、俺としたことが……いけねえぇ。

俺はこの村の村長の息子で“ガルシア”ってもんだ。

以後お見知りおきを!」


そう言って凛桜の手をぎゅっと握って来た。


おう、ペンギンのヒレって結構固い!!

それに間近でみると嘴が大きくて頑丈そうだ。


私が知っている普通のペンギンの嘴じゃない。

なんかこう……黄色い鉱石みたいな感じ?


ガルシアさんはそこにメタルっぽい筋が何本も入ってる。


他の大人のペンギン達には入っていないから

ガルシアさんは特別なのかも。


これならばグランキオの殻も貫通するね。


「こんにちは、ガルシアさん。

先日は大鍋を貸して頂きありがとうございました」


「おう!」


「あっ!ガルシアさまだ~」


子供たちが一斉にガルシアめがけて飛んできた。


「腹いっぱい食べたか?」


「はい、姫様……じゃなかった凛桜様のご飯美味しいです」


「そうか……よかったな」


ガルシアは嬉しそうに目を細めながら1匹1匹の言葉に

丁寧に答えながら頭を撫でていた。


「お前たち、俺はこれから姫様と大事な話があるから

その間むこうで遊んでいてくれないか?」


ガルシアがそう言うと子供たちは一瞬残念そうな顔で

凛桜をみたがすぐに頷いた。


「はーい」


「凛桜様まったね~」


ヒレを振りながら広場の方へと飛んでいった。


それに手を振りながら凛桜はガルシアに尋ねた。


「お話とは一体なんですか?」


「ああ、ちょっとついてきてくれるか」


そう言ってガルシアは村の奥の方へ歩き出した。


ガルシアの雰囲気が一変して真剣なものだったので

凛桜はそれ以上尋ねずに黙って後をついていった。


そして数分後……。

辺りは薄暗い森へと変化していっていた。


えっ、まだ奥にいくの?


大丈夫これ……。

どんどん暗くなっていってるし……

村からも離れて行っているよね。


色々事情がありまして……

あまり遠くには行けないのですが。


最近では慣れたのか?

それともまだ凛桜の身体の中にコウモリさんの魔力が

残っているせいなのか定かではないが……。


クロノスさんが近くにいれば

かなりの距離を離れていても家の外に出られるようになった。


とは言えども、半径3キロ範囲くらいだろうか。


これ以上進まれるとヤバイんじゃないの?


凛桜が勇気を振り絞って口を開こうとした瞬間

目の前が急に明るく開けた。


と、同時に……


「着いたぜ」


というガルシアの声が聞こえてきた。


眩しさに最初は目が慣れなくて辺りの状況が

わからなかったのだが……

だんだんと目が慣れてきたのだろう。


ようやくその眩しさの原因を捉えることができた。


「ここは一体……」


「俺達の村だけで栽培している果物の畑だ」


そこには一面畑が広がっていた。


そしてその畑の地面に至る所に転がっている物体が

眩い光を放っているのだ。


「これは……」


「ウォ~ラ~メランだ」


「………………」


ウォ~ラ~メランだと!?


なにそのやけに発音のいい英語のような名前。


どこからどう見ても光るスイカだよね、これ……。


形は何故か球体ではなく立体の星形だけれども。

しかも片手で持てる大きさ。


星形の光るミニスイカだ!!


どうやって切って食べるのだろうか?


そんなことよりも……表面にある縞模様といい……

確実にスイカだよね、これ!!


そしてもっと奥に目をやると無残に割れているものや

齧られたであろうものがたくさん転がっていた。


これがグランキオ達に荒らされた跡か……。

半分以上はやられているな……。


かなりの被害を被っていることが見て取れた。


「あれが見えるか?」


そういって畑の東側の一画をガルシアが指した。


そこには小さな滝がいくつ点在していた。


しかしほとんど水が流れておらず……

それ以上になにやらゴミのようなものが滝つぼに

いくつも浮かんでいる上に水が淀んでいるのが見えた。


それを切なそうに見つめながらガルシアは

ぽつりぽつりと語りだした。


「ウォ~ラ~メランは名前の通り魔素を豊富に含んだ

すんだ水が大量に必要な果物なんだ」


そう言うと手前の物を1つとってヒレを使って

真ん中からスパッと切ってその半分を凛桜に差し出した。


「食べてみてくれ」


えっ?

これをですか?


思っていたスイカと違うんだけれども!!


奇麗な星形の断面は可愛いと思う……。


でもね、中身が白いってどういう事!!


普通スイカの配色って赤い実に黒い種だよね……。

それなのに白い実に赤い種って一体!!


この白い物体を食せというのかっ!

この赤い種らしきものは食べられるものなの?


「この頂点から皮をむくと食べやすいぞ」


そう言ってガルシアさんは皮を器用にぺりぺりと剥くと

思いっきり齧り付いていた。


「…………」


その間も早く食せよという視線の圧が強い!!


「うまいぞ……安心しろ」


ガルシアさんの瞳が更に鋭く光った気がした……。


そうよね、ここの村でしか取れない為に国から

保護をうけている農作物だって言っていたよね。


えええい、女は度胸だ。


凛桜は覚悟を決めてウォ~ラ~メランを齧った。


「…………!!」


やだ、美味しい~何これ。


梨?桃?ぶどう?なんだろう……。


噛んだ瞬間じゅわっと口の中に大量の水分が!!


個体を食べているのに液体を飲んでいるような?

不思議な感覚に陥るわ。


赤い種はほのかにピリッとスパイスのような味がする。

でもこれが逆に味のアクセントになって美味しい。


果物特有の甘みが広がって堪らない。


1つの味じゃないよね……

幾つものフルーツが組み合わさった感じ。


高級なフルーツジュースを飲んでいる気分だわ。


美味しい!!

甘いけれどもしつこさもないし。


凛桜は無意識のうちに食べきっていた。


「本当に凄く瑞々しくて美味しいですね!!」


「そうか」


ガルシアさんも嬉しそうに微笑んでいた。


しかしそんな笑顔もすぐに陰りを見せた。


「これをみてくれ」


そういうと手前のものをまた更にひとつ切ってみせた。


「えっ!なんで!」


その個体の断面は白い部分に幾つもの黒い斑点が浮き出ていた。


先ほどはあんなにきれいな白い断面を見せられていた為に

なんだかちょっと異様な感じだった。


「どうしてこんな事に?」


「水が汚れたのが原因だ」


あっ!さっきの滝つぼのせい?

めちゃくちゃ汚れていたよね……。


「今では大半のものがこのようなありさまだ。

こうなってしまうともう廃棄するしかないんだ」


うわ~時間をかけて育てた作物が出荷できないなんて

精神的にも金銭的にも困るだろうな……。


そんな凛桜の表情を読み取ったのだろう

ガルシアは再び歩き出した。


そして滝つぼの前に凛桜を連れて来ると

深いため息を漏らした。


「本来ここの水源は特に澄んだ水なんだ。

なぜならばこの更に奥に“エミューリアの祠”があるんだ。

そこはこの地域の水の源……。

そしてグランキオ達の聖地でもあるんだ」


水の聖地か……。


「本来俺達の一族はその祠を守る事を約束した種族でな。

その恩恵でこのウォ~ラ~メランを作って今まで

生きてきたところもある。

しかし近年になって色々問題が出てきてな」


そういってしばらくガルシアさんは黙り込んでしまった。


どうしようこの重苦しい沈黙……。


「…………」


ふと視線をあげたガルシアさんと目があったが

フッと視線を逸らされてしまった。


そして苦しそうにガルシアさんは言葉を絞り出した。


「実は……今回のグランキオ騒動の原因を作ったのは……

何を隠そう俺達なんだ……」


えっ!そうなの?


ペンギンさん側発信なの!?


なんと答えていいかわからずに凛桜が戸惑っていると

なにやら急に後ろから数人の足音が聞こえてきた。


ん?


2人して振り返るとクロノスさん達と数人のペンギン獣人達が

村の方からやって来るのが見えた。


「きたか……」


そう言ってガルシアさんはその中の1人をただ黙って見つめていた。






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