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132.カニ料理とは

田舎暮らしを始めて128日目の続きの続き。




おかしいとは思ったのよ。


珍しくお土産が肉の塊や魔獣でもなく

王都で流行りだとかいう花の形を模ったお洒落でかわいい

“入浴剤”の詰め合わせだったからね。


受け取った時はかなりときめいちゃったわ。

すごく好みの香りだったしね。


そう考えると……

もうすでにここからおかしいわけよ。


あのクロノスさんが!

こんな女子受けするお土産を持参してくるなんて

今思えば罠だわ、うん。


クロノスさんはこんなキャラじゃない。

王都の流行りものなんて1ミリも興味ないはず。


それくらい無骨な人なのに……。

キラッキラの入浴剤セット持参よ!!


きっとレオナさんの入れ知恵だろう。

物凄く頑張って買ってきたのだと思う。


それくらい青天の霹靂の出来事だったのよ。


そもそも朝早くから家に来て

美味しいものを食べに行こうと

言われたのにもかかわらず……。


何故か大量のおにぎりをせがまれ

そのうえ和菓子の詰め合わせセットを

至急1つ作って欲しいと真顔で言われて……。


この時点でも疑問がいっぱいだったが

ちょっと規模の大きいピクニックでも行くのかな?


なんて思いながら肉巻きおにぎりを握っていた

数時間前の自分を叱り飛ばしたい。


まさかガチの討伐作戦に同行させられるとは

思ってもみなかったわ。


クロノスさん曰く……


「本当の事をいったら凛桜さん来てくれなかっただろう?」


そう言って獣耳を最大限に後ろにへんにょりさせて

上目遣いに見つめてきても許しませんよ。


勿論だよ。

何処に討伐作戦に喜んでついて行く人がいますか!!


それこそ仕事をなめてんのか、こら!

くらいの勢いですよ、うん。


「でもな……。

今回はこの討伐作戦には皇帝陛下からの勅命もあってな」


「…………」


凛桜は方眉を怪訝そうにピクリとあげながら

クロノスを見上げた。


「陛下はグランキオの新しい調理の仕方を知りたいそうだ」


陛下が新しいカニ料理のレシピを知りたいだと?


凛桜の訝しがる視線にどぎまぎしながら……

クロノスはなおも話を続けた。


「グランキオは今まで茹でるか焼くという調理法しかなく

その身に岩塩をかけて食べるという方法が一般的で

その他の食べ方はしてこなかったんだ」


いいんじゃないの?

それが1番ベストな食べ方だと思うけれど……。


「それはそれでうまいのだが。

果たしてこれは料理と呼べるのかという話が

宮廷料理会議で上がってな」


あー、あの人達か……。


凛桜はハンバーグとホットケーキの習得の為に

連日家に押し寄せてきたおじさま料理人達の事を

思い出していた。


気のよさそうなふくよかなおじさま獣人達だが

料理に関しては猛獣ぐらい貪欲だからな……。


「そこで凛桜さんにまた密かに白羽の矢が立ったという訳だ」


いやー、迷惑だわ。

もうそっとしておいてほしいわ。


陛下が個人的に我が家で新しいメニューを楽しむ分には

いっこうにかまわないんだけれど……

なんですぐに国家プロジェクトにしちゃうかな。


凛桜は遠い目になった……。


「何かいい案はないだろうか?」


目の前のクロノスさんは真剣そのものだ。


「………………」


拒否することもできるけれども……

そう言う訳にもいかないよねぇ……。


「生では食べないの?」


「基本的にこの国では、魚介類は生では食さない」


確かに元の世界でもあまり魚を生で食べる文化圏は

少ない気がする。


たまたま日本は寿司文化が根付いているからな。


醤油と言うソウルフードの調味料も

脈々と日本人の中に流れているし……。


本当に、茹でもしくは焼き蟹しかないのね……。


「だから凛桜さんに同行してもらい

生きのいいグランキオで何か新しい料理を

吸収してこいという密命が……」


密命って……。

こんな大掛かりな派手な作戦なのに?


「陛下も最近つとに食事に対して興味が出られてな。

今までは食べられればなんでもよい……

とおっしゃっていたのだがな。

今では毎食何が出るのか楽しみで仕方がないらしい」


そう言いながら何かを思い出しているのだろう

苦笑しながら頬をかいていた。



陛下……

だんだん鷹獣人のおじさまに毒されてきてないか。


食に対する貪欲さが増してきてますが!?


「それならそうとはじめからいってくれれば」


凛桜の視線が更にきつくクロノスをとらえようと

している時だった。


ジャリ……ジャリ……ッ。


テントの後ろ方から数人の足音が近づいてくるのが

聞こえてきた。


「やっと来たか……」


助かったと言わんばかりクロノスがそう言ったので

後ろを振り返るとテントの後ろからひょっこりと

近衛騎士団と共に若いトラ獣人の青年が顔を出していた。


誰!?


その青年達は改めて凛桜達の目の前まで来ると

丁寧にあいさつを始めた。


「初めまして凛桜様。

いつも父がお世話になっております。

本日は場所が場所なので私が代わりに馳せ参じました」


そう言ってトラ獣人の青年は軽く頭を下げた。


「リバーブ殿だ。

あのシャイア殿の御子息で同じく宮廷料理に

従事しておられる」


さらっと言ってますが、シャイア殿って誰よ……。


目が合うとトラ獣人はニコニコしながら

微笑み返してくる。


トラ獣人……トラ……っ。


ん……そう言えばいつも鷹獣人のおじさまとやってくる

あの料理長さんの事か!?


本の表紙を飾っちゃうほど有名な宮廷料理人の

あのトラ獣人のおじさまか!!


ハンバーグの肉の捏ね方が甘いと叱り飛ばした

あのトラ獣人のおじさまか!


当時は知らなかったからね……。

そんなに有名で身分が高いおじさまだとは。


と、いう事はこの方もそれなりの方か……。


はー、きっと代々宮廷料理人になる家系なのね。

そう言えばなんとなく雰囲気が似ている気がする。


「今日は、よろしくご指導のほどお願いいたします」


「はあ……」


なんかかなりエライ事になってますが!!

クロノスさん!!


「それからこいつらも呼んでおいたぞ」


そういうと食の祭典の時に手伝いに来てくれていた

タヌキ獣人の青年と犬獣人の青年が現れた。


「お久しぶりです、凛桜様」


「わあ、久しぶり!

また来てくれたの嬉しい」


「俺達も嬉しいです。

なんでもやりますので遠慮なくお申し付けください」


2人の登場で少し気持ちが和んだわ。

本当にこの2人は器用で素直だからやりやすいのよね。


再会は嬉しいけれど……

これはもう本格的にやらないとあかんやつですね。


と、いうかそんなに人手がいる感じ?


カニだよね……。


数分後……。

そんな凛桜の考えはすぐに打ち消されたのである。


「団長!!

ノアム班、1匹仕留めました」


そう言って、狼獣人の青年とリス獣人の青年が

大きな木に括り付けたカニを運んできた。


「おお、ノアム達が一番乗りか」


「………………」


カニ?

これがカニですか?


えっ?


大きな丸太に括り付けられたメタリックに光る物体が

凛桜の目の前に現れた。


赤い超合金?


赤いから3倍早いのかしら?


なんて某アニメのような事を思いながらも

あまりの大きさに目をぱちぱちさせながら

その物体を凝視していた。


「あまり大物じゃないようだな」


ポツリとクロノスがそう言った。


なんですと!!


これで小さいのか?

ちょっとした子牛くらいある大きさのカニだよ!!


しかも何度も言うけど超合金バリのピカピカに

光っている赤いカニなんですよ、奥様。


硬度が半端なさそう。

どうやって殻を剝くのだろう……。


なんか思ってたのと違う。……。


大きいとは思っていたけれども

なんか違う……。


本当に食べられるの?

こんなの沢蟹と認めん!!


そんなげんなりしている凛桜の気持ちなど知らず

クロノスは嬉しそうに尻尾を揺らして言った。


「記念すべき1匹目はどうする?」


他の人たちも興味深々の顔で見つめるのやめい。


ええっ……。

そんな期待値あげられても困るわ。


そうねぇ……。


「じゃあ……

カニ焼売というものを作ります」


「おお、なんだかよくわからんがうまそうだ」


「では、さっそくカニを茹でたいのですが

普段はどうやってますか?」


凛桜が割烹着を着ながらそう問うと

リバーブさんが答えてくれた。


「宮廷なら巨釜があるんですが……

野営ですからね。

今日は解体して茹でましょうか」


宮廷にはこのカニが入る大きさの釜があるのか

恐るべし宮廷……。


「念の為に確認なんですが……

カニを解体してしまうとそこから美味しいエキスが

ゆで汁に溶けだしてしまう可能性があるのですが

それでもかまいませんか?」


「そうなのか!?」


「そうですね、その心配がありますよね」


リバーブさんも顔を曇らせた。


と……


「あっ!」


急にタヌキ獣人の青年が何かを閃いたように叫んだ。


「団長、村の長に頼んで鍋を借りることはできませんか?

確かあの村はグランキオを食べる文化がありますよね」


「そうか!そうだな。

俺も前に訪れた時に歓迎の席で信じられないくらい

巨大な釜をみたぞ。

よし、伝令を走らせて交渉してみよう」


えっ?

このカニがまるごと入っちゃう鍋持ってんの?


凄い村だな……。


凛桜が密かに慄いているとすぐに伝令から返事が来た。


「団長、今回特別に貸してくれるそうです。

しかしその代わりに魔族の姫が作ったカニ料理を

村人にも振舞って欲しいそうです」


ブハッ……ングッ……。


思わず飲んでいる紅茶を吹き出しそうになったわ!!


こんな辺鄙な山奥までに私の存在が知られているの?

しかも魔族の姫の認識されてるし……。


「凛桜さんがかまわないなら……」


クロノスさんが困ったように眉尻をさげた。


また縋るようなみんなの視線、やめい……。


「………………」


はい、はい、もうなんでもありですね。

振舞いましょう。


貴重な大鍋を貸してくれるならカニ料理を

ガシガシ作りますわよ、えぇ。


凛桜の中で何かが吹っ切れた模様……。


数分後……

村人たちが大鍋を運んできた。


「はわ……」


やってきたのは小さいペンギン獣人達だった。


「ちっさい……可愛い」


山の中にペンギンが住んでいるの?

しかも貴重な農作物を耕して?


時には……

カニVSペンギンの戦いを繰りひろげているというのか!


「ああ見えて、あのペンギン獣人達の嘴は

グランキオの甲羅をも破壊する程の強度があるからな。

小さいと思って侮ると痛い目をみるんだ」


コッソリとクロノスさんがそう教えてくれた。


ペンギンさんたちの嘴って一体?

オリハルコンかなんかで出来てます?


「団長さんよ、俺達の貴重な鍋だ。

大事に扱ってくんな」


ひと際大きめな体で目の上に傷のあるやんちゃなペンギンが

そう言って飛び跳ねていた。


「ああ、大事に使うと約束する」


「それに別嬪な魔族の姫さんよ!

あんたが作る料理なら間違いなく美味いだろうな。

美味しいグランキオ料理を期待してるぜ、あばよ」


そう言ってやんちゃペンギンは……

凛桜に軽くウインクを投げながら森の中へと帰って行った。


やだ……ちょっと照れちゃうわ……。

イケペンギンさんだった模様。



そんな照れている凛桜の様子が面白くなかったのだろう。


「あいつ後でしばくか……」


忌々しそうにイケペンギンの後姿を軽く睨みながら

ぽつりと言っていたクロノスがいたとか……。


団長……

いつも思うのですが大人気ないです。


近くにいた部下たち全員が心の中で呟いた。


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