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131/220

131.事前相談は大事な事ですから!

田舎暮らしを始めて128日目の続き。




「よし、点呼を取るぞ」


部下の青年達を前にクロノスさんがそう言うと何故か

下の方から力強い声がした。


「ワン!!」


「ワワン!!」


「…………」


そう、きなこと黒豆だ。


まさかの返事の主に場が微妙な空気になってるよ!!


それなのに、追い打ちをかける様に……

シュナッピーまでが勇ましい舞を踊りながら

ギャロギャロ言っている……。


ほら、クロノスさん達も困っているじゃない。


こらこら君たち。

遊びじゃないのよ。


今日は騎士団の皆さんはお仕事に来ているんだから。

邪魔しちゃ駄目よ。


って、私が言っても説得ないよね……。


むしろお前が1番何故に同伴しているのさ

くらいの勢いだろうからね。



皆さん何も言わないけれども生暖かい視線は感じるから。


敵意とかは感じないのよ、むしろウェルカム的と言うか

好意的すぎるからかえって戸惑っているというか……。


やる気満々のきなこ達を宥めようとした時だった。


「きなこ達も参加するッスか?

これは負けられないっスね、ニシシ……」


ノアムさんが周りを挑発するように楽しそうに笑った。


「おまっ……」


慌ててカロスさんが止めようとしたのをクロノスさんが

やんわりと手で制した。


「お前ら、今日はきなこ達も特別参加する。

いいな、騎士団の誇りをかけて負けるなよ。

最下位になったチームは飯抜きだからな」


そう言って悪い顔で微笑んで周りを見渡していた。


ええええええっ!!


参加させるのかい!

巨大カニと戦うの!?


騎士団の面々に動揺が走っているじゃない。


「本気か……。

黒豆にいさんときなこねえさんも

参加するなんて聞いてないぜ」


「シュナッピーも参加だろ。

これは強敵だな」


「ほら、お前らざわざわするな。

それとも何か?

自信がないとか言わねえよな?ああ?」


クロノスさんが獰猛な顔をしてそう叫ぶと

そこら中から雄叫びのような声が次々と上がった。


いや……何これ。


大事になっていませんか。

皆さんのボルテージが最高潮なんですけど……。


それにあまりの衝撃に思わず先ほどサラッと

流しちゃったけれども……。


きなこねえさんと黒豆にいさんってなによ。


地獄の番犬の次は、ねえさんにいさん呼ばわりかい。


芸人さんじゃないんだから。

後輩芸人さんが先輩芸人さんを呼ぶ呼び方だからそれ。


その前に確実にきなこ達の方があなた達より年下でしょう。

どこでそうなった?


きなこたちも満更そうな顔をするんじゃありません。


ねぇ、本気で心配になってきたんだけど。

きなこ達……本当にただの柴犬だよね。


本当はこの世界の柴犬獣人とかじゃないよね。


じいちゃんは知り合いから貰ってきたって言っていたけど

異世界の方じゃないよね、ね!


何かの呪いや魔法を掛けられていて!

元の姿に戻れないけれど実は……

最強の柴犬戦士とかじゃないよね!?


そんな凛桜の顔色を読んだのだろう。


クロノスさんが苦笑しながらも優しい声で言ってきた。


「凛桜さん、きなこたちは普通の犬だぞ。

確かに信じられないくらい賢くて戦闘能力は高いけどな」


「えっ?なんでわかったんですか」


凛桜が驚きのあまり目を見開いてクロノスをみあげると

クロノスは更に話を続けた。


「ククク……百面相していたからな凛桜さん。

この世界の者は、多少なりとも必ず魔力を帯びている。

この足元に咲いているこんな小さな花でさえもだ」


眼下に華麗な白い小花が咲いていた。


「そうなんだ……」


「きなこ達からは一欠けらも魔力は感じないからな。

間違いなく凛桜さんの世界の犬達だぞ」


そう言われてほっと胸をなでおろした凛桜だった。



「団長、点呼確認終了しました!」


どうやら2人が話している間に全て終わっていたらしい。


「よし、各自配置に着く前に最終確認するぞ」



今日の目的は、農作物を荒らす“グランキオ”退治だ。


そもそもグランキオは大人しい魔獣だそうだ。

めったに人前に姿を現すこともなく……

山深い川に群れをなしてひっそりと生息しているのだとか。


だから捕獲することが難しいが……

その身は味が濃厚でプリプリで美味しいらしい。


先住民の方は、お祭りや結婚式などおめでたい時に

村人総出で捕獲して食べるらしい。


その中でも卵が格別に美味しいらしいが

それを取るためにはそれこそ命がけの戦いになるのだとか。


まあ、そうでしょうね。

カニ側も卵は必死で守るよねぇ。


幻の食材な上に味が格別に美味しいとくれば

誰もが食べたいわけで。


貴族の間では高い値段でひっそり取引されているから

悲しい事だが密猟が絶えないんだとか。


まあ世の常よね。

儲かる話には裏の世界がつきものだし。


自然淘汰として捕獲されるのなら仕方ないことだけど

密猟となると根こそぎ持っていかれるらしい。


そうなるとそれに付随して環境破壊や

そこに住む魔獣棲息のバランスがくずれて

人里にも影響がでるわけで、まことによろしくないよね。


きっと知らないだけで本来世の中はそうやって

絶妙にバランスを取りながらまわっているのだろう。


それが崩されれば、確実にどこかに歪みがでるわけで……。


そんなグランキオ達が……

今年になって何故か大量に目撃されている。


挙句の果てに人里の農作物を荒らすなんて

前代未聞の事件だよね。


だからその原因を探りつつも何匹か捕獲して

食べようという事に……。


ねぇ、本当に食べていい状況なのこれ……。

グランキオ側にも非常事態発生してない?



「今朝も言ったがこれは訓練ではないからな。

気を引き締めて行けよ」


「はい!」


ピリっとした空気が一瞬流れた。


そうよね、お互いに命がけの戦いよね。

凛桜もそう思いながら頷いて聞いていたのだが……。


次の瞬間!

クロノスの口から思いがけない言葉が発せられた。



「だが……

それだけじゃつまらないからな!

今回は一番活躍した組にはご褒美があるぞ」


おおおおおおおお!!


また感嘆の声が至るとことから上がった。


え?へ?


「それに今回はなんと組は関係なく

1番活躍した者にも褒美が出るっスよ」


ノアムがその場でぐるりと一回転しながらそう言うと

またもや割れんばかりの歓声が上がった。


「…………」


その場のノリについていけなくて凛桜がぽかんと

口をあけてその光景をみていたからだろうか。


横で大変恐縮そうな表情のカロスさんがぽつりといった。


「なんだかすみません……」


「あ、う……うん」


2人で目を合わせながら微笑んでいると更に爆弾発言が飛び出した。


「今回一番活躍した組には……

凛桜さん特製のグランキオ料理を食べる権利が貰えるぞ」


クロノスがそう叫ぶと一瞬その場が水を打ったように静かになった。


と、次の瞬間……。


「えええええええええ!!」


「「「「「「うおおおおおおおおおおおお!!」」」」」」


凛桜の驚きの声は一瞬にして、騎士団の青年達の声に

かき消されてしまった。


「本気か!俺がんばります」


「やった!!」


「一度でいいからグランキオ食べてみたかったんだよな。

しかも凛桜さんの料理だろ」


「………………」


聞いてないよ~。


某芸人さんみたく心でツッコみながら凛桜は固まった。


が、その時後ろを振り返りハッとした。


そうか、そう言う事か!!


凛桜はその時初めて後ろの物体の存在の意義に気がついた。


なぜなら……

場違いではないのか?というくらい

凛桜とクロノスの後ろには豪華絢爛なテントが立っていた。


なんでもクロノスさんのお家のプライベートテントらしい。

さすが侯爵家……持ってるものがエグイ。


テントというよりかもうちょっとした小さな家だよ。

移動式のお家?


遊牧民族の方が住んでいるパオ的な感じ?

それの豪華版なのかしら。


中に入ると簡単な調理場なんかもあって……

その奥にはふかふかの絨毯の上におおきなクッションが

いくつも置いてあってすぐに横になれるくらいだ。


ちいさな食器棚もついているし……

中心には暖炉のようなものが設置されていた。

 

クロノスさん曰く、凛桜さんが安全で快適に過ごせるように

家からちょっと拝借してきたとの事。


それに俺はとれたてのグランキオが食べたいし

凛桜さんも食べたいだろ?

新鮮なグランキオは美味いぞ!!


と、爽やかに言っていたけれども……

こんな裏設定があったのね。


少し睨みながらクロノスを見上げると

バツが悪そうにサッと目を逸らした。


確信犯ですね、これは。


「団長、発言よろしいですか」


キツネ獣人の青年が徐に手をあげた。


「なんだ」


「因みに、1番活躍した者には何が貰えるのですか?」


その問いに微かにギクッと身体を震わせたクロノスだった。


「それはだな……」


申し訳なさそうに獣耳を下げながら

凛桜の機嫌を伺うようにチラチラと顔を見つめてきた。


はう……もう、これもそういう事なのね。


凛桜は呆れながらも代わりに答えた。


「1番活躍した人には……

くるみゆべしとくるみあんこモナコをはじめ

和菓子の詰め合わせセットを差し上げますよ」


そう言って、籠いっぱいの和菓子を皆に披露した。


「うおおおおおおおおおおおおおお!!」


今日1番の歓声が上がった。


耳がキーンとなったよ、うん。


そんなに和菓子……

いやあんこってテンションあがる

食べ物でしたっけ?


美味しいけれども!

本当にこの国の人のあんこ好きが怖い。


「あんこの和菓子の詰め合わせ……」


尋常じゃないくらい横の方の獣耳がピルピル

高速で動いている!!


何を隠そういつも冷静なカロスさんだ……。


「あんこ……独り占め……」


やだ、カロスさんが1番食いついているじゃない。

声は発してないけれども、目がバキバキだよ。


しかもうっすらと背中に青い炎のようなものが

見えるのは気のせいじゃないはず……。


本気のクマが降臨しちゃうのかしら。

こんなカロスさんを見るのはちょっと複雑よ。


凛桜はごくりと唾をのんだ。


「と、いう訳だから頑張れよ」


クロノスさんが少し声を上ずらせながらそう言ってしめた。


「では、各自配置につけ!!」


「はい!!」


それぞれの組に分かれて、青年獣人達は沢へと降りていった。


そんな様子をクロノスと共に丘から見下ろしていた凛桜が

ポツリと低い声で言った。


「クロノスさん、後でお話があります」


ですよね……。

と言わんばかり……。


クロノスは借りてきた猫のように小さくなり

獣耳としっぽをこれでもかとへにょりと下げて

ビクビクして凛桜の顔色を伺っていた。


可哀そ可愛い……。


そんな様子にふとそう思ったが……

私は怒っています。


すぐには許してあげません!!


人に相談をしない前に勝手に物事を決めてはいけないのですよ。




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