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130/219

130.朝早くから……

田舎暮らしを始めて128日目。




「はあ……澄んだ空気がおいしい……」


全身で森林浴を満喫しております。

マイナスイオン出まくりです。


目の前には、一面濃い緑が広がっている。


緑ってとても目に優しい色だと聞いたことがある。

確かに見ているだけで癒される気がする。


詳しいことはわからないが……

赤色に比べて波長が優しい為に目が受ける刺激が少ないらしい。


まあその中にチラホラ不思議な色の物体が

紛れて込んでいますけれどもね。


紫とシルバーのストライプ柄が先ほどから目の端に入ってきます。

どうやら規格外におおきなトカゲのような生物だ。


ヤシの木みたいな木の側面にでーんと張り付いている……。

手の先についている吸盤のようなものが怖い……。


特に何か攻撃をしかけてくるとかはないのだけれども

もうビジュアル自体が脅威!


トカゲに罪はないけれども、なんか無理。


その下には交互に赤と青に点滅する小さなキノコが

木の周りをぐるりと取り囲むように群生してる。

菌環ってやつかな。


思わず“信号ですか?”

と、ツッコミを入れてしまうほどの鮮やかな点滅具合。


きのこ自体の大きさはとてもミニサイズ。

1つの大きさが、えのきぐらいかな?


しかもよく観察すると……

傘のところにエグイくらい棘がびっしり生えている。


このキノコの輪って“フェアリーリング”って呼ばれていて

西洋では見つけたら幸運のしるしらしいけど……

とてもこの子達は可愛らしい妖精が降臨するとは思えないビジュアル。


「…………」


なんだか全く目に優しくない環境なんじゃないかと思い始めてきた。


そして改めてここは異世界なのだと再認識したわ。

某県の山の中ではけっしてお目にかかれない光景です……。


見えないだけで恐らく動物などがいるのだとは思うのだが

気配を感じられないくらいとても静かな環境だ……。


微かに揺れる葉音や優しい水音しか聞こえてこない。


目の前に沢が広がっている。

水も澄んでいて触ると冷たくて気持ちがいい。


少し離れた所には一段高くなった場所があり

小さいが緩やかな滝も流れている。


至る所に大きな岩がごつごつしていて川自体の全貌は

わからないけれども風光明媚な場所だ。


そんな静寂を破るかのように……

気持ちよさそうだが低い声が聞こえてきた。


「ギューン……キギュキューン」


小さいが滝つぼのようになっている所にシュナッピーが

肩?まで浸かっているらしく

大きな1つ目を細めながら堪能しているようだ。


「…………」


シュナッピーさんや温泉みたく浸かるのはどうかと思いますが。

勝手にととのっちゃってますか?


植物だから水が大好物なのは知っていますが

お風呂に入った時におじさま達が発する心の底からの

“あぁあぁぁぁ……”くらいの声が出ちゃってますよ。


「ギューワン……」


「…………」


「クククク……。

そうとう気持ちがいいようだな」


クロノスさんがそんな様子をみながら苦笑していた。


「ここの水の魔素は濃いですからね。

水属性の魔獣達には最高の場所なんでしょう」


カロスさんがそう言いながら深く頷いていた。


えぅ?

水に魔素とかいうものが溶け込んでるの?


よくわからないけれどもミネラルたっぷり的な?


そんな凛桜の表情をよんだのだろう。

クロノスが補足するように話だした。


「魔素というものは魔法の元みたいなものだ。

基本的には体内で作られるのだが

使用すると減ってしまうものなんだ」


ほう……。

だからか!魔王様はコウモリさんが補充調整していると

言っていたわねぇ。


「時間がたてば回復するものなのだが

手っ取り早く回復するためには……

ポーションのような薬や魔素を豊富に含んだ食べ物

そして自然界の天然鉱物や希少な植物など

多岐にわたる物質を摂取するのも1つの方法だ」


そう言えば強い魔獣であればあるほど

豊富だって言ってたな……。


「そしてこの川の水は国内屈指の

最高値の魔素を含んだ特別な水なんだ。

まあ、あまり知られていない秘密の場所なんだがな」


そういってすこし困ったように獣耳をさげた。


「だからあんなにもシュナッピーが喜んでいるのね」


「そうだな、やつにとっては最高の場所だろう」


峠の湧き水が如く……

ペットボトルかなんかに入れて持ち帰ったら駄目だろうか?


そんな話をしている所に……

クロノスさんの部下である狼獣人の青年がやってきた。


「団長、準備が整いました」


「お、そうか。

では点呼のあとに作戦開始と行くか」


「はっ……」


作戦だと!?


狼獣人の青年は胸に手をあてて一礼するとそのまま

沢の奥へと一気に飛んで姿が見えなくなった。


「じゃあ俺達も高みの見物と洒落込もうか」


そういって少し悪い顔で微笑みながら

クロノスは徐に凛桜を横抱きにして小高い崖の上へと飛んだ。


「ええええええっ!」


ちょっと……待って……えっ!


いきなり眼下に一部ではあるが川の全貌がみえた。


あ、シュナッピーが驚いた顔でこっちを見上げている!


こんな山奥なのに結構おおきな河川なんだな。

しかも至る所に岩や滝があって起伏にとんでいる。


これならば何か岩陰に潜んでいてもわからなそう……。


かなりの高さに驚きつつもしっかりと確認してしまった。



そう……

何故か今日は朝から山の中に来ていた。


全く何も説明がないまま

あれよあれよと気がついたらこんな山奥まで連れ出されていた。


クロノスさんじゃなかったら事案ですよ、まったく!!


「美味しいものを食べに行かないか」


と、デートにでも誘いに来たくらいの文言をサラッと

このイケメンに言われて断れる女子がいたら見てみたい。


言わずもがな、私も思わず素直に頷いてしまったわ。


こんなに朝早くに家におしかけられたとしてもよ、うん。


そして今現在、深い深い山の奥に至ると……。


いや、イケメンと甘い言葉には注意ですよ!

全国の女子の皆さん気をつけましょう。



この地域はうちの家がある方角とは反対側にある山らしい。


有名な山らしく、山の裾野ではいわゆるピクニックをしたり

少し標高をあげるとキャンプができたり

更に本格的に奥へ入ると騎士団が実地訓練を行ったりなど

多岐にアウトドアを楽しめる国民にも親しまれている行楽地なのだとか。


しかし一部では立ち入り禁止区域や

まだ調査がなされていない未開の土地があるのだとか。


そこが今日の目的地だった……。


クロノスさんの話だと最近この付近の村に住んでいる

住民から被害届が提出されていたらしい。


未開の土地に住民……。

いわゆる先住民的な方達かしら。


これだけ国土が広ければたくさんの種族の方がいるよね、うん。


その方達の話によると……

どうやら大きな魔獣が沢からおりてきて農作物を

食い荒らす事件が頻発しているとの事だった。


おおきな魔獣……。

被害の内容を聞くとクマかな?

とか思ってしまうのだが……。


それがどうやら“カニ”らしい。


カニ……。


恐らくクロノスさんが言っている“グランキオ”だ。


農作物を食い荒らすカニだと!!


もはやそれってカニじゃないじゃん。

カニって雑食でしたっけ?


カニって貝類やゴカイやイカなど食べてるイメージだったわ。


畑の農作物を荒らすカニって何よ。

新種のベジタリアンのカニかよ!


最初は村の男性たちでなんとか追い払っていたのだが

ここ最近では、カニ側にボス級のやつがあらわれて

もはや住民では太刀打ちできない状況になったのだとか。


そこで正式に騎士団に依頼がきたという訳だ。


本来は騎士団に依頼があがっても、すぐに受理がされることは

めったにないのだが今回は特別らしい。


それだけ緊急案件だという事だ。


住民の安全も勿論の事!

この村で採れる貴重な作物を守る為

という理由も大きいのだという事だ。


そんなに珍しい食べ物なのかしら?

ちょっと気になる。


しかしカニ側のボスって何よ!


はぁ……。

またか、またキングとやらがでたのか!?


困るのよね、キング……。


無駄に大きさが半端ないから。


カニのキングサイズってなによ?


そう言う事で、討伐と私の希望が一致したという

なんとも不思議な状況なのです。


希望なのかな……う、うん……。

カニを食べたいとは確かに言ったけれども。


それにそんな大きなカニって大味じゃないのか?

と見当違いな事も思いつつ。


凛桜は沢を見下ろしながら密かにため息をついた。


と、その前に“グランキオ”って地形からして

沢蟹の種類じゃない!?


正直なところ沢蟹って食べたことない。


ちょっと心配になりクロノスさんに聞いたところ

こちらの世界では海に生息しているカニは食べないとの事だった。


それこそ海にいるカニは、こちらでいうアサリ位の大きさで

しかも猛毒をもっている種類らしい。


そうなんだ……。

小さいのか……。


郷に入れば郷に従えということで……

では、沢カニでいいや。


いや、お願いします……。

カニ、食べたいです……。


何か違うけど……。


凛桜は再び遠い目になった。




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