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128.未知との遭遇!?

田舎暮らしを始めて126日目。




「もう少し色づいたら食べごろかしら」


凛桜は魔法の土を根元に捲き終わると木を見上げながら

しばしその場に座りこみ休憩を楽しんでいた。


ここのエリアでは只今絶賛豊作中だ!

梨がこれでもかとたわわに実っていた。


「梨って美味しいよね~。

みずみずしさが堪らないわ~。

どの種類の梨かしら……。

幸水?それとも豊水かな……いや待てよ秋月かも!」


そんな事を思いながら実をまじまじと観察していたのだが

何やら奥の方から騒がしい声が聞こえてくる。


「ギャロロロロッ」


ビシッ、ビシッ!!


「キューキューン……」


ビシッ!ビシビシッ!!


「キューンンンン!!」


何やら雄叫びにも似た叫び声の後に鞭のしなる音が聞こえる。


「ワンワンンワッワン!!」


「キューン」


きなこ達の戸惑う声も聞こえてくる。


遊んでいる感じではないな……。


「…………」


また何か得体のしれないものでも果樹園に出ちゃった?


一体どうなっているんだうちの果樹園の秩序は!!

ユルユルじゃないかっ!


クロノスさんの結界の上に妖精の加護まであるのよ。

それを凌駕する生き物って一体?


そんな大物がそうやすやすと何回も出られたら困るのよ。


レアものは生涯で1回くらい遭遇出来たらいいな~

くらいの勢いでいいのよ、まったく……。


フリーゲントープのボルガさん達で

すでにお腹いっぱいなのよ。


レアな種族はご遠慮ください!

くれぐれもご遠慮ください!!


大事な事だから2回言っちゃったわ……。


凛桜は憂鬱になりながらも重い腰をあげて

更に果樹園の奥へと進んだ。



「………………」


そこには思ってもみない光景が広がっていた……。


「ギャロロロロロッ……ロロロ」


物凄い低い唸り声をあげながらシュナッピーが

威嚇している。


ある1個の物体に対して殺意を込めて睨みつけている。


「…………」


シュナッピーさんや何があったのかな?

その方と何があったのですか?


頭での理解が追いつけなくて……

凛桜はただただぽかんと口をあけていた。


「キューン」


きなこ達もなぜかそれに対して怯えているようで

獣耳と尻尾が若干後ろに下がっている。


全く状況がわからないんだけど……。


「ギュルルロオロロ……ロロロォ」


もう変な声が出ちゃってるじゃん……。

どんだけ怖いのよ。


「…………っ」


いかんいかんいかん……。


ハッと我にかえり凛桜は両手で軽く頬を

パンパンと2回叩いて気合を入れた。


まずは状況確認だ!


「なにやってるの?

それがどうかしたの?」


顔は引きつっていたかもしれないが優しく話かけると

きなこ達は一斉にこちらを向いた。


「……………!!」


凛桜の姿を見てほっとしたのだろう。


ぱあああああと笑顔になり一目散に駆けてきたかと思ったら

こともあろうに凛桜を盾にして背中に隠れた。


「えっ?ええっ?何よ」


「キューンキューン」


あのシュナッピーが怯えた様に凛桜に縋りついている。


「いや、だから何があったのよ」


大きな一つ目が涙で潤んでいた。


今までのあの威嚇は虚勢だったのか……。


「キューン……」


ええ?何が怖いの?


何やら身振り蔦ぶりで必死にその物体をさして

訴えてきている。


まさか……噓でしょ……。

これ?目の前のこれが怖いの?


蔦をひっしと凛桜の腰に巻き付けながらすり寄って鳴いている。

あのシュナッピーがですよ!?


よくみると蔦の至る所に棘が刺さっているのも見受けられる。


「…………」


「キューン……」


「ワフ……」


きなこ達もすがるような声で凛桜を見上げながら鳴いた。


「本気か……」


2匹と1体に縋られ凛桜は思わず苦笑してしまった。



どうやらここは栗の木の林らしい。


まだこんなエリアもあったのね。

全く知らなかったわ。


この果樹園の広さって一体どうなってるの?

固定資産税を考えたら真っ青になるくらいだ。


異世界で本当によかったよ、うん。


そして収穫の時期がきたのだろう。

木になっているのもあるが……

大半が地面に落ちていた。


どうやらその“()()()()()()”が怖いらしい。


まあ……そうね。

見たことがない知らない物体は怖いよね。


私も未だに庭に生えてくる見知らぬ魔界植物達は怖い。

図鑑に載ってないのも多々あるからね。


基本は“触らない”が鉄則よね。


それなの戦闘種族の性なのかしら……。


その未知の物体が怖くて攻撃をかましたら

見事に強固なイガに反撃を受けてしまったようだ。


「大丈夫だよ!

これって栗だよ。

ほらこの前も茹でて食べたでしょう」


「ギュッ?」


シュナッピーは思案するように首を傾げた。


凛桜が軍手をはめた手でイガつきの栗を拾うと

シュナッピーは驚愕の瞳で凛桜の顔とイガつきの栗を

交互にみていた。


本気か!!

それを素手でいけるんですか姉さん!!


くらいの視線を投げられても……。


これくらいの事でそんな尊敬の眼差しを頂いても

姉さんとしては複雑な感じよ。


「キュッ……キューン」


「大丈夫だよ、ほら、これは栗だから。

ほら……甘くてほっこりしたやつだよ」


そう言って凛桜がトングを差し入れて

イガの隙間から栗を取り出すと歓喜の声が上がった。


凄いッス!姉さん。

その最強の武器は何ッスか!!


あれッスか?

聖剣エクスガリバー的な?


そんな視線に変わりつつあるよ。


気のせいかな……

ノアムさん口調で変換されて聞こえてくる気がする。


実際は一言も声は発していないんだけれどもね。


やっぱり2人はライバルだから……

こんな所も似てきちゃうのかしら。


いや、その前にこれは普通のトングだからね。

そんな大層な武器じゃないから。


便利な道具だけれども……

ホームセンターで購入したものですから。


中級のボスを倒してドロップした武器とかじゃないからね!


きなこ達も瞳をキラキラさせない!!


そういえばこの2匹も子犬の頃にイガに洗礼を受けてたな。


それこそ今日のシュナッピーみたく

何も知らずに思いっきり鼻先でフンフンして

負傷したんだっけ……。


棘にやられて獣医さんに連れていったって

じいちゃんが確か言ってたわ。


そう考えるとイガって鉄壁の守りよね。

中の栗は渡さないぜ!!


そう宣言されている気がする。


うむ……最強の武器かもしれない。


大きな魔獣を躊躇なく屠れるシュナッピーを

ここまで怯えさせることができるなんて。


イガに包まれた栗恐るべし……。


この日以来……

シュナッピーの中で凛桜の地位が格段に上がったのは

いうまでもない……。



「でも……ある意味壮観ね。

栗の絨毯だわ……」


よし、籠も持ってきたことだし栗拾いと洒落込みますか。


横でびくびくしているシュナッピー達を放っておいて

凛桜は最強装備のトングを使い……

籠いっぱい栗を拾った。


「やっぱりまずは普通に茹でて食べようね。

それから栗ご飯はマストでしょ。

あとはそうだな……栗の渋皮煮なんかもいいよね」


イガは怖いが栗は食べたいらしい。


シュナッピーが恐る恐る自分の蔦で

イガをツンツンしているのがちょっと可愛い。


よし、今からたくさん美味しい栗料理作るからね!



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