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124.小さなお姫様

田舎暮らしを始めて123日目の続きの続きの続きの続き。




次が最終発表だ。

この2日間の戦いの結果がいよいよ決まってしまう。


長かったような短かったような……

とにかく濃い2日間だったことは間違いない。


そんなことをぼんやり考えながら凛桜は

出展者達だけが使用する裏道を通っていた。


残り時間もわずかとなった為に少しずつだが

店の後片付けを始めているからだ。


商品はほとんど売り切れたので廃棄するものは

ないのだけれども……

やはりゴミは出るのだ。


それを焼却する為に指定された広場へ向かい

大きな魔法の高炉へとゴミをなげいれた。


高炉の中を覗くと紫やら赤やら金に変化する炎が

メラメラと燃えていた。


それなのに不思議と熱さは感じない。

この奇麗な炎をみていると癒される。


確か炎の揺らぎって1/fゆらぎって言って

リラックス効果があるって聞いたことあるわ。


しばらく炎を眺めて癒されていたが

ハッと我に返った。


よし!あともうひと踏ん張りするぞ!


と、また自分自身に気合を入れなおして

店に帰ろうとしていた時の事だった。


どこからともなく子供が泣く声が聞こえる。


それに交じってなにやら複数の大人の声も同時に流れてきた。


不審に思って来た道とは反対側の道を進むと

2人の猫獣人の青年が少女に何やら言っているようだった。


「なんでこんなところにねずみちゃんがいるのかな?」


言葉だけを聞くと大人が子供に優しく言っているように

聞こえるがその口調には明らかに侮蔑した上で

揶揄いの気持ちが籠っているのが見て取れた。


「ここはお前のようなものが来るところじゃないんだ

早く国へ帰れよ……」


もう1人の猫獣人の青年が吐き捨てる様に言った。


「…………っ……ミミちゃんを返してください」


少女は泣きながらその青年へ必死に手を伸ばしていた。


「この汚ねぇリスのぬいぐるみか?」


そう言ってニヤニヤしながら振り回していた。


「ギュゥゥウ」


コウモリさんことジョルさんが唸った。


「なんなのあいつら!」


凛桜もその行動をみて許せない気持ちが湧き上がっていた。


と、ついに少女は泣きながらその青年の足へとしがみついた。


「返して!!」


「チッ……うぜえな、離れろよチビ」


「ミミちゃん返してください」


「そんなに返して欲しければ返してやるよ」


そう言って猫獣人の男はぬいぐるみを反対側の

高い木の上に投げた。


「あ……」


それをみたねずみ獣人の少女は目に涙をいっぱいためて

ぬいぐるみが投げられたであろう場所を見上げた。


「返したからな、それにお前いい加減離れろよ」


そう言ってその少女に手を上げようとした時だった。


「そこをどいてくださる」


「あっ?」


いきなり現れた凛桜に男達は怪訝そうな顔で振り向いた。


が、現れたのが女1人だとわかった瞬間こう言い放った。


「見てわかるだろ!

取り込み中なんだ、他の道を通れよ」


「…………」


はい?

何言ってくれてんだこいつ!


「こちらの道を通らないと帰れないのですが」


凛桜も負けじと凄んで言い返した。


「ああ?俺の言った言葉がきこえなかったか?

お嬢さんよ……」


そう言って1人の青年が凛桜に詰め寄ろうと

した時だった……。


「ま……待て」


焦ったようにもう1人の男が後ろから肩を掴んで

男を必死で止めた。


「なんだよ、お前」


言われた青年がイラつきながら振り返ると

もう1人の猫獣人の青年が真っ青になりながら

口をパクパクとあけて前を指さしていた。


「あ……あ……」


あまりの仲間の狼狽えに不思議に思って

男が凛桜の方へふりかえると……


「ヒィイィイイイ」


そのまま男は獣耳と尻尾を下げて飛び上がった。


そして2人は顔が地面に着くんじゃないかと

思うくらい頭をさげて叫んだ。

いわゆる土下座だ。


「「生意気言ってすみませんでした!!

どうぞお通り下さい」」


言われた凛桜はあっけに取られていた。


「へっ?」


男達は更にビクビクしながら凛桜を見上げていた。


「それから……」


と、凛桜が話し出そうとした瞬間にかぶせる様に

また命乞いをしてきた。


「はいいいいいい!!

もちろんです、今すぐ取って参ります!!」


そう言って1人の青年がダッシュで駆けていき

木に登りぬいぐるみを取って来た。


「本当にすいませんでした。

なのでどうか命だけは……」


そういって今度は男達が凛桜の足にしがみついてきた。


ん??

えっ?


一体どうなってるの?


不思議に思い横目で肩をチラッとみると

とんでもなく凶暴な顔をしたコウモリさんが見えた。


「…………」


怖っ!!

あんな歯をむき出しのコウモリさん見たことない。


それに急に背後から何かが圧し掛かってきたのを感じた。


「どうするかは……

この()()()()()()()()……ククククク」


凛桜の耳元で魅惑の低音ボイスが炸裂した。


「…………!!」


まさかとは思いますが魔王様が再び降臨しましたか?


「さあどうする姫、こやつらを八つ裂きにしようか

それとも跡形もなく消滅させるか?ん?」


魔王様は背後から凛桜を抱きしめながら肩越しに

男達を見ながら楽しそうに口角をニィとあげた。


「どうか……どうかお慈悲を……」


2人の青年は獣耳と尻尾を激しく震わせながら

地面に頭を擦りつけていた。


「…………」


一体どういう状況よこれ……。

姫って何よ。


いまここに誰か通ったら通報されるレベルですが。


凛桜は遠い目になりながらもなんとか

自我を必死で保っていた。


「さあどうする……」


魔王様がすっかり楽しんじゃっているし

ジョルさんはやる気(殺る気)満々だし……。


確かにこの人達は悪党だけど……

命を取るのはちょっと……ねぇ。


「とにかくまずはこの子に謝って」


「へ?」


凛桜がそういうと男達は豆鉄砲をくらったような顔をした。


「謝るべきは私じゃなくてこの子に対してでしょ」


そう言われた男達は渋々少女に頭を下げた。


「「すみませんでした!!」」


言われたねずみ獣人の少女はまさか謝られるとは

思わなかったのだろう。


狼狽えながらも謝罪を受け入れているようだった。


「さすが我が姫……寛大なお方だ。

よかったなお前たち。

私ならこうはいかなかったぞ……」


そう言った魔王様の深紅の瞳が残忍な色を映し出していた。


「ヒィィイイ……」


「さあ姫の気が変わらないうちにうせるがいい」


そう言われるが否や2人は脱兎のごとくその場から

走り去っていった。



「大丈夫?」


改めて凛桜はねずみ獣人の少女の顔を覗き込んだ。


「はい、助けて頂きありがとうございます」


そう言って少女は優雅にお辞儀をした。


「私……初めて魔族の方とお会いしました。

本の中でしか知らない世界でしたが

実際にお会いできて光栄です」


「あーうん……」


ますます私の魔族認定が広がっていってしまう。


「お姉さまは魔族の姫様なのですね。

フフ……私と一緒ですわ」


「へ?一緒って?」


「それにとても素敵な使い魔さんがいるのですね。

素敵なお兄様と可愛らしいコウモリさん」


「フ……」


「キュ!」


素敵なお兄様と言われた魔王様は嬉しそうだった。

コウモリさんもデレてる感じがする。


いや使い魔でもないし……。

なんならこの人達が魔族のTOP オブTHE TOPといっても

過言じゃないから!!


「ところで何故ここに?」


凛桜がそう問うと少女は恥ずかしそうに下を向いた。


「手を離してはいけないと言われていいたのですが

可愛らしいリスさんの姿が見えたのでつい

追いかけてしまいました……」


「つまり迷子ってことかな?」


「はい……」


これは大変だ。

今すぐクロノスさん達に伝えなければ。


と、ギュルルルル……

可愛らしいお腹の音が鳴り響いた。


「え?」


どうやらその音の発生源はねずみ獣人の少女らしい。


「あっ……」


恥ずかしさのあまりか顔を両手で覆って座り込んでしまった。


「もしかしてお腹が空いている?」


「はい……はぐれてから何も口にしていません」


顔を真っ赤にしながら恥ずかしそうに目を伏せた。


えっと、何か持っていたかな?


凛桜は割烹着のポケットをごぞごぞと探った。


おっ!いいのがあった!


「よかったらこれ食べて。

うちのお店で1番の人気商品よ」


そう言って凛桜はくま型のモナコを1つ渡した。


「いいのですか?」


「えぇ、自分で言うのもなんですが

とっても美味しいわよ」


「ありがとうございます」


ねずみ獣人の少女は嬉しそうに受け取ると

かわいい……食べるのが勿体ないですなどと言いながら

モナコをひと口齧った。


「………………!!」


美味しかったのだろう獣耳と尻尾がピンと立った。


「甘くて美味しいです……」


そう言って涙を浮かべながら食べていた。


よかった。

きっと1人で心細かっただろうな。


嬉しそうにモナコを齧る少女をみながら

凛桜が感慨に耽っていると


「凛桜……我にもモナコとやらをくれ

我の分はないのか?」


魔王様がよこからそうぽつりと呟いた。


「キューウ……」


ジョルさんが呆れたように鳴いた。


何と言ったかわからないがおそらく……。


“魔王様……空気をよんでください”

じゃないかと思っている。




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