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122/219

122.1文字違いで……

田舎暮らしを始めて123日目の続きの続き。




コウモリさんと魔王様のおかげで最中製作に必要な道具を

一瞬にして取りに帰ることが出来た。


魔王様曰く……

今後魔王様が家に来た時に好きなだけ食事を提供する

という謎のお礼条件を提示された。


別にかまわないんだけれども……

それって今までとなんの変わり映えがないのではないか?


毎回むしろそんな感じですよね?

という野暮なツッコミは控えさせていただきました。


いや……でも……

あまりにもチートすぎて怖いよ……。


本当にものの10分位の勢いで行って帰って来られたよ。


本当に魔王様とその右腕なのね。


あまりにもゆるい2人だから……

つい最強の魔物だという事を忘れちゃうわ。


何処にでも瞬時に行ける転移魔法と

どんな大きさでも無制限で運べる空間移動能力ってなにさ!


クロノスさん達を始めみんなその能力のエグさに

かなりドン引きしていたよ。


“敵にまわしたくないっス!

勝てる気が1ミリもしないっス!!”


と、げんなりした顔のノアムさんがいたわ。


それくらい規格外の能力なんだよね。

それを惜しげもなく披露してもよかったのかしら?


もしこの2人がその力を使って本気で世界を取りにいったら

するっと手に入っちゃう勢いだよね。


今のところ穏健派の2人でよかった。


そんな事を思いながらも凛桜は裏にまわり

一心不乱にくるみを刻んでいた。


その横でユートくんが刻まれたくるみをあんこの中に

素早く投入してくれて……。


そのくるみとあんこをパパさんが高速で混ぜ合わせ

ベルドランさんが目にもとまらぬ速さで最中につめるという

完全分業で作業が行われております。


最中の中身詰などやったことないよね?

それなのにこの寸分狂わぬ仕上がりは何故?


と言うくらいベルドランさんは奇麗に仕上げてくれる。


本当にこの人何者なんだよ……。

もう20年くらいやっている和菓子職人の域だよ。


「慣れておりますから……」


不意に顔をあげてベルドランさんは不敵に笑った。


何が!?

私何か言ったかしら!?

心の声が出ちゃった!?


凛桜があからさまに挙動不審になったのを横目で見ながら

ベルドランさんは何事もなかったようにまた直ぐに

作業へと戻って行った。


その間ソフィアさんとルルちゃんと黒豆達が店番を

してくれております。


女子二人+イッヌ達では心許ないと思ったのか?

コウモリさんはお目付け役として活躍する為に

今は凛桜から離れてルルちゃんの肩にとまっております。


「…………いいな……」


それを密かに羨ましそうに眺めているユートくんがいました!


クロノスさん達はというと……


「また後で様子を見にくるな」


名残惜しそうにそう言いながら仕事へと戻っていった。



お店の方は相変わらず列が途切れる様子はありません。

商品が飛ぶように売れている模様。


ああ……

くるみ刻み地獄が終わらない!!


手がつりそうだ!!


そこにミモザさんが何か紙のようなものを握りしめて

息を切らせて駆け込んできた。


「中間の順位発表がでました!!」


「………………!!」


一旦作業をやめて皆でその紙を覗き込んだ。


「ノワイテ亭は……」


パパさんが下から順に確認していく。


「あった!!

現在5位です……」


5位か……。


この結果がいいのか悪いのかイマイチわからん。


20店舗あるうちの5位だから凄いとは思うけれども

これから更に順位変動はするからな……。


「因みにロズレは3位に入っています……」


相手は現時点で3位。

優勝を目指せる射程距離には入っているという事か。


少し重苦しい微妙な空気が流れた。


「…………」


結果を聞いて意気消沈したこともあり

どっと疲れまで出てきた気がした。


そのせいなのか……

もう駄目かもしれない……。


というような悲壮な空気が流れそうになった時

急にベルドランさんが声高々に言った。


「まだ終わっていないのですよ!

ここで諦めたらそれこそ相手の思うつぼですよ

私は最後の一瞬まで諦めません」


ちょっと言い回しは違うけれども……

某有名スポーツアニメに出て来る

監督のようなセリフを言ってきた!!


そうだよ!ここで諦めたら試合が終わっちゃうよ

じゃなくて!!


ここまできたんだもん。

最後までやり抜かなくてどうする、うん。


全力を尽くして負けたのならしょうがない。

でも途中で放棄して負けるのだけは嫌だ!


「確かにそうよね。

まだ終わってないし!

これから最中をじゃんじゃん売って巻き返そう!」


凛桜も同調するように努めて明るく告げると

ソファさん達の目の輝きが見る見るうちに戻った。


そうと決まれば早い。


「凛桜さん最中の皮の追加お願いします」


「は~い」


「ユート、表の看板を書き換えて。

最中を全面的に推してね」


「はい、お母さん」


そう言われてユートくんが看板に最中の詳細な説明と

簡単な図解の絵を描いている時だった。


「お兄ちゃん、ちょっと手伝って

ルルだとこれ全部持てない……」


どうやらお客さんに言われた商品が多すぎてルルちゃんの

手に余るようだった。


ユートくんが周りを見渡すと全ての大人が忙しなく

働いており頼めそうもない。


若干イラつきながらユートくんは言った。


「わかった。

そっちは俺がやるから……。

その代わりルルは看板を描いてくれるか」


「うん、なんて描けばいいの?」


「後は商品の名前を大きく書くだけだ。

それならルルもできるだろう?」


「うん」


ルルちゃんは学校で文字の勉強が始まり

ちょうど文字を読むのも書くのも楽しい時期だったそうだ。


「モナカと大きく書いてくれ」


「うんわかった!」


ルルちゃんは得意げに文字を書くとパパさんに頼んで

看板を店の軒先に掲げてもらった。


それと同時にソフィアはマフィンが売り切れて

空いたスペースに出来立てほやほやの最中を並べていた。


いち早くそれに気が付いたお客さん達が

ノワイエ亭の周りに集まって来たようだ。


「おっ!何やら新作商品が売られるらしいな」


「今度はなんだ……」


足をとめて熱心に看板をみているお客さんもいる。


いい感じね!!

これなら巻き返せるかも。


そんな様子を裏から確認しつつ凛桜は更に最中作りに

没頭していった。


「10個ですね。ありがとうございます」


「はい、こちらのお花の形を5つに……

四角い形を3つ」


どうやら飛ぶように売れている!!


女性は見た目に拘るらしく

最中の形を指定して買っていくみたい。


一番人気は梅の形をした最中だ。

味は一緒なのにね。


ピンク色の皮というのも目を引くみたいだ。


2番人気は意外にクマの形の最中だ。

やはり子供が買って欲しいと強請るみたいで

かなり高評価だ。


このおかげなのか子供人気投票率がグンと

上がったみたいだった。


買い求めてくれた人がほとんどその場で1つは

すぐに商品を食べるらしく……

そこで気に入ってくれたら追加で購入という流れに

なっているみたいだ。


そのお陰なのか……

ここの国民の方々はあんこ味が大層気にいったみたいで

美味しい菓子があると人づてにじわじわと広まっている……。


本当に和菓子がささる国民だな……。

ゆべしといいあんこといい不思議だ。


その噂を聞きつけて観光客の方達がお土産として

大量に買い求める割合が大半を占めはじめていた。


ユートくんに頼んで日持ちします!!

という事をアピールして看板に書いてねと言ってよかった。


これで浮動票も何割かゲット出来たんじゃないかな?


「凛桜さん、お客様が来ていらっしゃいます」


少し緊張した面持ちのソフィアさんから声をかけられた。


「へっ?誰?

今まさに手が離せないんだけど」


凛桜のくるみ刻みも佳境に入っていた。


「それが……」


困ったようにソフィアさんが促す視線の先には

鷹獣人のおじさまがにっこりと手を振っていた。


「…………!!」


近衛騎士団を両側に従えたグラディオンさんだった。


そりゃあそんな顔にもなるよね。

なんて言ったって皇帝陛下のおつきの方だもんね。


凛桜は半笑いになりながら店頭へ向かった。


「グラディオンさん、いらしてくれたのですね」


「おぉ!!凛桜殿!久しいですな。

今回のノワイエ亭の商品をすべて購入しました。

陛下も美味しかったと褒めておりましたぞ」


すべての種類を買ったんかい!!

そして食べたんかい!


この人の食に対する思い入れは相変わらずヤバいな……。


「ありがとうございます」


ひとまず深々と頭を下げておいた。


「まさかこの終盤にまたあらたな商品が出るとは

やはりあなたは奇才ですなぁ」


そう感心したように言って鷹獣人のおじさまは

後ろの羽をバサバサ閉じたり開いたりしていた。


褒められているのかイジラレてるのかわからんわ!!


「つい先程もこの“()()()”を食したのですが

なんとも言えない甘さが後をひきます。

やはりあんこは何度食してもたまりませんな」


「ん?」


なんか聞き捨てならない単語が聞こえた気がしたんだけど。


「見た目も愛らしいのも()()()の魅力ですね。

私も母の土産にといくつか買わせていただきました」


隣のシカ獣人の青年もにっこりと微笑んだ。


ん?え?

やっぱり何かおかしなフレーズが聞こえたよね!?


「俺もクマの形の()()()を彼女にあげたら

凄くよろこんでいました」


そう言ったのは近衛騎士団には珍しいワイルド系

狼獣人の青年だった。


はい?

もう一度言ってくださいます?


そんな凛桜をしり目に左右からも上下からも至るとことから

“モナコ”という声が飛び交っていた。


モナコだと!?


モナコ?

はい?


目の前の鷹獣人のおじさまが何か賛辞を

述べてくれているけれど……

ちっとも頭に入ってこない。


それよりも何よ“モナコ”って!?


凛桜が呆然としていると鷹獣人のおじさまの話が終わったのだろう。


「それでは陛下が“モナコ”を楽しみしているので

この辺で失礼いたす」


そう言って満面の笑みで帰って行った。


ちょっと待て!!

モナコって一体なんなのさ!!


凛桜はすぐにユートくんの姿を探した。


ユートくんは相変わらず裏でミモザさんと在庫管理を

担当してくれているようだ。


「ユートくん!!」


凛桜が鬼気迫る顔で飛び込んで来たので

驚いたのかユートくんとミモザさんは固まった。


「どうしたんですか?」


「どこでモナカがモナコになったの!?」


「「はい?」」


2人も不思議そうに首を傾げた。


凛桜が随分端折った説明をするとみるみると

ユートくんの顔が青白くなっていくのがわかった。


そしてやがて泣きそうになりながらぽつりと話だした。


「お母さんから……

モナカの看板を描くように頼まれていました。

でもルルから呼ばれてお客さんの対応を

しなければならなくなって……

最後の仕上げだけをルルに頼んだんです」


「…………」


「ただモナカって三文字書くだけだったから

出来ると思って……」


最後は消え入るような声で呟くと下を向いた。


そこにパパさんが通りかかった。


「どうした?」


「僕が……僕が……最後までちゃんと……っ」


ついにユーとくんはしゃくりあげて泣き出した。


「ユート?」


パパさんは何が起きているのかわからず困惑気味だったが

ただ何も言わず優しくユートくんの頭を撫でていた。



私にはこの国の文字の事はわからないけれども

“カ”と“コ”の文字は間違えやすい文字なのだとか。


だからなのか……

文字を習いたてのルルちゃんが間違えて

“モナカ”を“モナコ”と書いてしまったのだ。


おかげですっかり“モナコ”としてこのお菓子の名前は

定着してしまった。


もうここまで広がったら訂正は出来ないだろう。


しかも各国の人たちがお土産として購入してしまったから

今後は“モナコ”として定着してくだろう。


“モナコ”って……。

ヨーロッパにある某独立都市国家の名前か!!


一瞬頭を抱えたがここは異世界。

別にどんな名前をつけたっていいのだ。


だって誰も本当の名前なんて知らないんだから。


「まあモナカでもモナコでも問題ないよ。

だからそんなに責任感じなくてもいいよユートくん。

君はそれでなくても一所懸命やっているんだから」


凛桜がそう言うとまたほろりと涙を流した。


「今度からはきちんと確認するんだぞ。

商人にとっては些細な間違いも命取りなんだぞ。

これをいい経験だと思い次は気をつけなさい」


パパさんからもそう釘をさされ

ユートくんは泣きはらした顔で頷いていた。



それから数年後……

この国の代表する銘菓として“モナコ”が定着することを

今の凛桜が知る由もなかった……。


だから“モナカ”だってば!!




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