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12.可愛いお客様

田舎暮らしを始めて12日目。



凛桜がお皿を洗っていると中庭の方から可愛らしい声がした。


「ごめんくださーい。

()()()()()()()はこちらでしょうか」


「…………」


子供らしい可愛い声だ。

森のパン屋さんとな?


凛桜が声のする中庭の方へ行ってみると……

兄妹だろうか、8歳くらいの男の子と5歳くらいの女の子がいた。


勿論……人ではない。

頭の上にはモフモフの獣耳と尻尾はくるんと渦巻状の尻尾が揺れていた。


どうやらリスの獣人のようだ。


妹の方は、きなこを一所懸命撫でている。

案外犬は子供には優しかったりする。


少し強めに撫でられているが、好きにさせてあげているようだった。


「あっ……」


二人は凛桜の姿をみつけるとぺこりと頭をさげた。


「あの……。

パ……パンを買いたい……ん……ですけど……。

これで足りますか……」


そう言いながら獣耳をプルプルさせながら

震えた手で両手いっぱいのドングリを差し出してきた。


えっと……どうしようこのリアル童話のようなやりとり。

凛桜は困惑していた。


可愛らしいお客様がご来店した。


訴えるようなうるうるした瞳でみられても困る。

うちは森のパン屋じゃありません!!

ただの民家です……。


この二人を前にその事実をどう言えようか……。


そんな凛桜の様子を察したのだろうか。

お兄ちゃんの方がそっと呟いた。


「違いますよね……。

最近森の動物の間で……美味しいものが食べられる

お家が森の奥にあるって噂になっています」


えっ?

そんな噂が流れているの?

森の動物情報網?


発信源はどこ?白蛇ちゃん!?

まさかの魔王さま……。


ハッ……騎士団長様か!?

クロノスさんは森の動物じゃないしな……。


いずれにしろ、困るわ~。


眉間に皺が寄っていたのだろう……。


「す……すみませんでした。

それに……こんな少額じゃ……あっても買えませんよね」


そう言って、妹の手を引いて慌てて帰ろうとしていた。


「ま、待って。

確かにここは、森のパン屋さんじゃないわ。

でもパンなら作れるから、よかったら今から一緒に作る?」


そう言って凛桜はにっこりと微笑んだ。




「それではパン作りをはじめます」


リス兄妹も、三角巾をかぶりエプロンを巻いて

準備万端の格好で凛桜の横にスタンバイ中だ。


「まずは、ボウルに強力粉に全粒粉、砂糖に塩……

ドライイーストを入れて混ぜます」


二人も見よう見まねで真剣に同じ動作を繰り返す。


「はちみつ、卵、牛乳を加えてよく混ぜてこねます」


小さな手で頑張ってこねる二人に密かに

キュンとしてしまう凛桜であった。


「滑らかになったら、更に無塩バターをいれてこねます」


顔が真っ赤になりながらも、一所懸命にこねるふたり。


「じょうずだよ。その調子。

じゃあそろそろクルミを混ぜようか」


くるみときいて二人の獣耳がピンと立った。


やっぱりリスなのね。

クルミが大好きなのかな?


「二人ともあーんして」


二人は首を傾げながらもあーんと口をあけた。

凛桜はその口にぽいっとクルミを入れてあげた。


「んん!! おいひ~」


二人は蕩けるような笑顔でクルミを味わっていた。


フフフ……可愛いなぁ。

尻尾が高速で左右に振られているよ……。


「じゃあ、後はすこしねかせるから。

おやつでも食べて休憩しようか」


「パンって眠るの?」


妹ちゃんが不思議そうに凛桜に聞いた。


「そうなの、美味しいふわふわのパンになるためには

お昼寝が必要なんだよ」


「そうなんだ……」




「はい、どうぞ召し上がれ」


凛桜は、はちみつ入りのホットミルクとアップルパイを

二人に切って出した。


「うわぁ……美味しそう。

本当に食べていいの?」


「いいわよ、どうぞ」


「お姉ちゃんありがとう、頂きます」


二人は目をキラキラさせながらアップルパイを頬張った。


「美味しい~ほっぺた落ちちゃうね」


「うん……」


お兄ちゃんは一口食べただけで、それ以降手を付けようとしなかった。


「ん?どうしたの?

リンゴ嫌いだった?」


凛桜が心配そうに聞くと、ぎゅっと手を握りながら

絞り出すように言った。


「凄く美味しいから、お母さんに持って帰りたい」


「えっ?」


それを聞いた妹リスちゃんの手も止まった。


「……。ルルもそうする」


二匹は目に涙をためながら我慢していた。


「どうしたの?えっ?ん?」


凛桜は優しく二人の頭を撫でた。


「まだいっぱいあるから食べていいんだよ。

残りの半分をお母さんのお土産にしようか」


そう言って、ホールの半分を二人に見せた。


「そんなにたくさん買えない。

お店に行ったらお金を払わないといけないって」


「ここはお店じゃないのよ、私の家だからお金はいらないの」


「でも……」


二人はシュンとして獣耳がへにょっと後ろに下がっていた。


「それじゃあ、二人にいまからお仕事してもらおうかな。

このアップルパイとパンの分、お手伝いしてくれる?」


二人の兄妹は顔を見合わせて頷いた。


「はい、お手伝いします」


二人は凛桜と畑にいって収穫をしたり水撒きをしたり

農作業を手伝ってくれた。


「ありがとう、二人のお陰ですぐ終わったね。

疲れてないかな?」


「大丈夫です」


「です」


「それでは、パンを焼いていこうか」


生地を八等分して、それぞれに切れ目をいれて

オーブンシートをひいた天板に並べた。


「あとは、ふっくらするまで2次発酵をさせるよ」


「パン作りってけっこう大変なんですね」


お兄ちゃんは感心するように工程作業をみつめていた。


「美味しい物を作るには、たくさんの手間と時間がいるんだよ」


その後は、艶出し用の卵を縫って、190℃に予熱したオーブンで

10分ほど焼いたら出来上がりだ。


「早く焼けないかな~」


「いい香りがしてきたね~」


二人はオーブンの前で焼ける様子を嬉しそうに見つめていた。


「二人はどうしてパンを買いに来たの?

村?それとも街かな?パン屋さんはあるでしょう」


「うん……」


急に二人は暗い顔になった。


(ウッ……ふっちゃいけない話題だったかしら)


凛桜はオロオロした。



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