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117/219

117.戦いの火蓋は切って落とされた!

田舎暮らしを始めて122日目の更に続き。




祭り会場に着くと既に熱気で溢れていた。


各所からいい匂いが漂ってくるし

何かを建造する音や威勢のいい掛け声も聞こえてくる。


「ええっと……場所はここですね」


「思っていた以上にいい場所ですね。

ここならかなりの集客を見込めそうです」


パパさんが嬉しそうに尻尾を高速でふっていた。


「では準備を始めますか」



この日の為に、ルナルドさんの紹介で知り合った

ドワーフの鍛冶職人さんに特注で大きな鉄板を作って貰った。


所謂……

魔法石で動く巨大ホットプレートだ。


それをどーんと真ん中に配置した。


ここで一気に100個のおやきをむらなく焼けるのだ!


そしてそれを熱々のまま保存できるディスプレイ用の

ガラスショーケース棚も完備。

棚によって温度調節が可能な優れものである。


これを作ってくれるまでの道のりも長かったわ。

凛桜はその時の事を思い出して遠い目になった。


最初は門前払いだったもんな……。


「そんな訳の分からねぇもんが作れるか

こっちは忙しいんだ!!

おとといきやがれ」


扉の向こうから怒鳴られて会ってもくれなかった。


紹介という意味を知っていますか?

と、問いただしてやりたかったわ。


気難しいとは聞いていたけれど

想像の遥か上を越えて頑固だったわ。


なんか悔しかったし、このまま引き下がるものか!

必ず作って貰うから!!

って、逆に闘志が湧いちゃった。


そこでべたなやり方だったけれども

ドワーフだからお酒が好きかもと思ったわけ。


じいちゃんの秘蔵の日本酒を2本携えて再度行ったわよ。

因みに獺祭と魔王を持っていきました!


シュナッピーと何故かキングパパとクイーンママを

お供に携えて行ったわよ。


この3体がいたおかげですんなり森の中を

歩くことができたのよね。


工房の場所を公にしないという約束だったから

クロノスさんについてきてもらう訳にはいかないし

どうしようと思っていたら……。


また手紙を携えてキングパパ達がしれっと遊びにきたのよ。


本当はルナルドさんが一緒に行きたかったらしいのだが

やはり食の祭典の前は商売が忙しいのだろう。


代わりに最強の助っ人を送りますって!


お陰で危険回避および魔力的にも問題がなかったわ

恐るべしキングとクイーンの実力。


その途中で何故かフリーゲントープのボスのボルガさんと

ばったり出会ったのよね。


「うまそうなものもってるじゃねぇか、嬢ちゃん」


って、後ろから話しかけられたときはビクついたわ。


こんな森の中で盗賊がでちゃう?


ギギギッって音がでちゃうんじゃないかくらいの

ぎこちない感じで振り返ったら……

ボルガさんがえらく悪そうな顔でニヤついていたのよ。


事情を話したら“俺も行くぜ”って

勝手についてきちゃったのよね。


でもそのおかげでとんとん拍子に話が進んで

快く作ってくれることになったの。


元々ボルガさんの古い友人だったらしい。


「じじい!開けろ俺だ」


と言って工房の扉に飛び蹴りをした時には

息が止まりそうになったわ。


「ああ?」


案の定……

地の底から這うような低い声が中から聞こえたときには

心臓がとまるかと思ったし……。


ボルガさんと親方がバチバチの視線で睨みあったときは

正直おわったかと思った。


でも本当に友人だったらしく

すぐに握手を交わして中に入れてくれたの。


どうやらいつも異界の美味い酒を自慢されていたらしく

それをくれるのなら喜んで作ると言ってくれた。


日本酒大人気だな。


今度また元の世界に戻ったら……

新しいお酒を何本か仕入れておかなきゃ駄目だな。


ついでにシュナッピーの花弁の苦無を30本

収めることでディスプレイの棚も請け負ってくれた。


とどめにディスプレイ用の棚の設計図の版権をくれ

とも言われたので……

2つ返事で“いいよ”と言ったら驚いていた。


軽い冗談だったらしい。


「本当にいいのか?

きっと食の祭典でこれが注目されればこの国以外からも

死ぬほど発注がくるぞ。

信じられない程の金が手に入るぞ」


とも言われたんだけれども……

あまり興味はないのよね。


正直お金は欲しいわよ。

でもね、この世界で……

うなるほどお金を貰っても使うところがない。


まあそんなに価値があるのならば……

と思ったから思い切って言ってやったわ。


「だったら、()()()()何かあったら()()

私の為に商品を作ってくれませんか?」


そうしたら一瞬呆気に取られていたけれど

すぐに豪快に笑って言ってくれた。


「いいぜ、その度にあんたが異界の酒を持って

依頼に来てくれよ」


それって無償なのかしら?

まぁ、日本酒数本で作ってくれるのなら安いのかな。


という事で国一番の鍛冶職人のパイプを手に入れたわ。

今後何かあったら調理器具作って貰おう!



それが今まさに!

目の前にちゃんと出来上がっていて嬉しい。


その棚の1番上の段に既に種類ごとに100個ずつ

やきたてのおやきが並んでおります。


その下には抹茶クルミのマフィンが100個と

クルミキャラメルマフィンとバナナクルミマフィンが

100個ずつ入っています。


そしてそのディスプレイ用の棚の上には

大きな籠に入れて並べられた“くるみゆべし”達が

スタンバっています。


やはり金額勝負という事を鑑みて……

最初の日に“くるみゆべし”を売ることにしました。


2日間同じ商品を売ることも可能らしく

評判がよかったら明日も“くるみゆべし”は売る予定だ。


なかなか圧巻的な光景。


ユートくんが看板にメニュー表と金額を

かき込んでくれています。


その横でパパさんが、おやきとくるみゆべしの説明を書いた

板状の看板を店の軒先に釣るしていた。


「昨晩急遽作りました。

忙しくなると説明している時間がなくなりますし

図解入りで見てもらった方がわかるかなと」


「とてもいい考えですね」


凛桜もそんなみんなの作業を見ながら

新たなおやきを焼き始めると……

何やら通りの向こうから派手な一団がやってきた。


メイン通りにある各所の店に挨拶周りをしているらしい。


なんか偉そうな感じ……。


挨拶された店側も何やらへりくだっているし

お店によっては贈り物のような箱を渡している。


そしてその一団がノワイエ亭の前までやってくると

こちらを一瞥しただけで通り過ぎていった。


感じ悪いな……。


それだけならなんとか我慢できるが……

その中の誰かが小馬鹿にしたようにクスリと笑って言った。


「なにやら場違いの店が紛れ込んでいるようですな」


するとそれに相槌をうつようにまた誰かが言った。


「本当ですな……。

こんな庶民的な料理が代表とはもはや何と言っていいのか」


「勝負どころか相手にもなりませんな」


するとそれにあわせるように取り巻き達もせせら笑っていた。


いますぐ反論してやりたい……

いや気持ち的にはどつきまわしたいけれども我慢だ凛桜……。


パパさんたちも怒りを抑えているのが見て取れる。


その中の1人と目があった。


「………………」


ムカついたのでおもいっきり睨んでやった。


するとそのキツネ獣人の男性は軽い悲鳴をあげて

サッと目を逸らした。


「ヒィ……」


「どうせこんな店になんか誰も来やしませんよ」


と言った虎の獣人おじさまも凛桜みた瞬間

青ざめた表情で目をそらした。


「い……行きますか」


「あ……ああ」


急にその集団は大人しくなってそそくさと

ノワイエ亭の前から逃げるように立ち去って行った。


えっ?

急に何?


私そんな凶暴な面構えだったかしら。


凛桜が困惑しながら首をひねっていると

横から耐えきれないというような笑い声が聞こえた。


「ニシシシシ!!

見たっスかあいつらの顔。

弱い奴ほどよく吠えるってね」


「仮にも目上の方ですよ、笑ったら失礼じゃないですか」


「そういう副団長も思いっきり笑っているじゃないっスか」


カロスさんとノアムさんが来てくれていた。


「おはようございます」


「はよッス」


「朝から災難でしたね。

見ていたのに注意できなくて申し訳ございません。

少し厄介な御仁でして」


カロスさんが申し訳なさそうに獣耳と尻尾をさげた。


「でもジョルジュ殿のおかげで退散しましたね」


えっ?

コウモリさんのお陰なの?


それ以上に……

カロスさんもコウモリさんの名前を知っていたんかい!!


「えっ!ジョルジュって……あの……」


その名前を聞いた途端にみるみると顔が引きつっていくノアムさん。


「ジョルジュってまさか……あ……」


その次の瞬間カロスさんがノアムさんの口を塞いだ。


「モガッ……」


「…………」


「あっ?」


「なんでもありませんよ、ね、ノアム」


珍しいくらい爽やかな笑顔を浮かべるカロスさんがいた。


口を塞がれているノアムさんも涙目になりながら

何故か頷いている。


その張本人のコウモリさんも可愛らしく

“キュ!”と鳴くばかり。


「…………」


「それよりなんですか、あの失礼な集団は」


凛桜は怒り心頭だった。


「例の侯爵様の関係者ッス」


「あー」


「王都で1番と言われている飲食店の者達で

店の名前は“ロズレ”といいます。

そして食の祭典では1番いい場所に店を構えています」


あいつらか!!


抽選会の時の事を思い出して再度怒りがふつふつと

湧き上がってきたわ!!


凛桜が怒りをぶつけるかの如く!

へらでおやきを強く押そうとしたが

何故か空振りをしてしまった。


「えっ?」


鉄板に視線をおとすと……

目の前で焼いていたおやきが数個消えていた……。


「うまぁ!!

やっぱりこの店のおやきは最高ッスね」


いつのまにか焼きたてのおやきを両手で持って

頬張っているノアムさん。


「何勝手に食べているんですか!?」


「えっ?

ルルちゃんの許可は貰っているッスけど」


えっ?ルルちゃん?


するとルルちゃんは悪戯が見つかった時のような顔で

ごめんなさいと可愛く舌を出していた。


「もう……」


ノアムさんが大好きなんだから。


でもそのお陰か準備している人達が注目をしてくれて

ソワソワしているのが見て取れた。


いいサクラになってくれたという事で許しましょう。


「カロスさんもどうぞ」


カロスさんにも焼きたてのおやきを5つ程渡した。


「いいのですか?」


「思う存分美味しそうに食べて宣伝しながら

見回りしてくださいね」


カロスは申し訳なさそうな顔を一瞬浮かべたが

すぐに嬉しそうに受け取りながら微笑んだ。


「これは大役を仰せつかりましたね。

承知いたしました!!

その役目このカロスとノアムがしっかりと務めてまいります。

では、また後程」


そうお道化る様に言ってノアムさんと店を後にした。


「あー、ずるいッス。

1つください!!」


「お前さっきルルちゃんから3つほど貰って

食べていただろうが」


「それとこれは別ッス」


フフフフ……

本当に仲がいいなあの2人。


よぉーし!負けないからね。

あんな宣戦布告されて黙っていられないから!!


凛桜は決意を新たに更におやきを焼き続けた。



そんな凛桜をキラキラした目で見ながらユートは

密かに震えていた。


ただの魔族のコウモリじゃないとは思っていたけれど

まさか魔王軍最恐の暗黒騎士ジョルジュの化身だったのか!!


だからあのお貴族さまが睨んだ時に

凛桜お姉さんの魔圧が異常な程上がったんだな。


やけに右肩から黒いオーラがびしばしと出ていると

思っていたけれどやはりそうか。


「最高なんだけど……」


ユートくんは幻獣オタクなうえに魔族オタクでもあった。


やっぱり凛桜お姉さんは凄い。


凛桜の知らない所で、またもや凛桜の株が上がっていたのだった。


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