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112.人海戦術

田舎暮らしを始めて120日目の更に続き。




皆で手早く朝ご飯を食べた後に効率を上げる為に

それぞれチームに分かれて作業を行う事にした。


私は何故か総監督兼新しいクルミ料理の開発担当になり

ソフィアさんはおやき製作の傍ら私の補佐につく事になった。


クロノスさんとカロスさんには……

ボルガさんが持ってきてくれた大量のクルミの殻を

ひたすら割って欲しいとお願いした。


快く引き受けてくれたまではよかったのだけれども……。

クロノスさんはクルミを素手で割ろうとしたのだろう

片手で2つ取り出して軽く握った次の瞬間


パアァァァァンン!!


凄まじい音と共にクルミは四方八方に飛び散った……。


(ヒィィィィ……!!)


「……………、すまない……」


粉々に粉砕するというハプニングに見舞われたのだが

今はコツを掴んだようで、もくもくと作業してくれています。


ユキヒョウ獣人の握力……恐るべし!!


それをみていたカロスさんが、生卵を扱うが如く

そっとクルミを両手で掴んで取り出していたのが

ちょっと可愛かったわ。


カロスさんはやっぱり優しい森のクマさんだわ。


ノアムさんとルルちゃんには、経木でゆべしを

包む作業を行ってもらう事になりました。


最初は透明な小分け袋に入れて販売しようと思ったのよ。


でも……異世界にポリプロピレン製の物を持ち込むのは

抵抗があったのよね。


そこでクロノスさん達のわっぱ弁当箱を買ったときに

ついでに大量買いした“経木”の事を思い出したの。


本当はおにぎりとかを包むために買ったんだよね。


問屋で購入したから、そもそも最初から販売数の単位が

とんでもない数だったという経緯もあるんだけれども

それが今となってはよかったとは!


経木なら素材は木だから、そのまま燃やせるし

仮にそこに捨てたとしても環境にも優しいと思う。


ルルちゃんは普段から尻尾をリボンで結んでいる

お洒落さんだから紐を結ぶのが上手。


ノアムさんは意外に不器用らしく……

ちょうちょ結びが縦になってしまって

ルルちゃんに怒られている。


でも、2人仲良く楽しそうに包んでいるのが微笑ましい。



皆で議論した結果……

ゆべしは2個セットとして1,000アルクで売ることになりました。


本当に売れるのかハラハラしているのは私1人だけのようで

“安すぎないか?”と言われたのだけれども……

ここは譲れません。


後は2日目のメインのクルミ料理をどうするかだな。


悩ましいわ……。


人気投票の日だから、もしいい案が浮かばなければ

“くるみゆべし”をメインに据えるか……。


あんなにも獣人の方達をとりこにするゆべし。

売れれば、かなり人気を集められると思うのよね。


ネコが虜なるまたたびのように……

獣人にとって何かやべぇ成分があるのか?

ゆべしさんよ……謎だ。


白玉粉の成分か?

まさかのオブラートパウダーとか!?


凛桜は唸りながらも手は休めずに

高速でおやきの皮に具をつめて形成していた。


その横で、おやきに焼き印をいれてくれているユートくん。


味ごとに違う焼き印を押しておけば注文間違いを防げるからね。


因みにくるみ味噌&茄子&ビッグサングリアのひき肉おやきは

茄子の焼き印をいれました!


道具街に行ったときに使うかわからなかったけれど

ノリで買ってしまった焼き印ごてがこんなところで活躍するなんて。


経木といい焼き印といい……

世の中どこで何に繋がっていくかわからないわね。


さてどうしよう。


と、そこに……


「失礼いたします!!」


ハキハキとした挨拶が縁側の方から聞こえてきた。


「おう、来たか」


「遅くなって申し訳ございません。

少し()()()()()()()()ものですから……」


そう言いながら、クロノスさんの部下の青年達4人が

胸に手を当てながら敬礼をしていた。


「駆除は完璧に出来たのだろうな」


鋭い視線を投げるクロノスに狼獣人の青年が代表して答えた。


「はっ!跡形もなくすべて駆除いたしました」


その言葉にクロノスは満足そうに無言で頷いた。


相変わらず偵察魔獣が森の中を徘徊しているらしい。

今では大分奥の方まで出没してきた。


どうやら相手方が森の中が怪しいと思い始めているようだ。


悪い芽は早急に潰さないといけない。


クロノスは込み上げて来る怒りの感情をそっと押し込めた。



「皆さん来てくれたんですね、助かるわ~」


そんな緊張感を和らげるように凛桜がおしぼりと共に

アイスティーとピザトーストを持って登場した。


「今日はいっぱい働いてもらうわよ。

まずはこれでも食べて英気をやしなってね」


「はっ!なんでも申し付けてください!!」


そう言って4人は深く頭を下げた。


助っ人にきてくれた騎士団のメンバーは……

いつもの狼獣人の青年と虎獣人の青年

この2人はもう顔見知りの常連だ。


あとの2人は新顔の青年達だった。

どうやらタヌキ獣人の青年と犬獣人の青年だ。


かなり緊張しているのか、目が泳いでいた……。


クロノスさんの話によると……

この新顔の2人は騎士団の中で抜群に料理上手で

野営の時はこの2人が炊飯係になることが多いそうだ。


基本的には、騎士団は階級社会であり実力ありきなので

今までは凛桜の家に来ることができる団員は

ほぼ決まったメンバーだった。


そう考えるとこの新顔の青年達は本来ならば

来ることがかなわない者たちなのだが……

今回特別に抜擢してこの場に呼んだとの事だった。


助かるわ、料理ができる助っ人が欲しかったのよ。


その言葉の通り、2人におやきの作り方を教えると

すぐに覚えてくれた!!


30分ほど一緒に作業をしただけで

かなり上手に作れるようになっている!!


プロの料理番のおじさま達より飲み込みが早いわよ、君たち。


なので、残りのおやき製作は2人に任せることにしてみた。


狼獣人と虎獣人の青年には、出来上がったおやきを種類別に

100個ずつまとめて袋に入れてもらってから

業務用冷蔵庫に運んでもらう作業をお願いした。


綺麗に100個並べてまとめるのが大変なのよ。

これが意外ときつい作業だったわ。


それに少し離れた場所にある倉庫への往復も地味にきつい。

おやきがけっこう重いからね!


本当に助かったよ。

私は3往復くらいで死にそうになったよ、うん。


でもさすが騎士団の精鋭、汗1つかかずに軽々と持って

運んで行ってくれるからね。


強いて言えば……

シュナッピーと地獄の番犬に絡まれるのが厄介かな。


適当に遊んでやってください……。


「わからないことがあったら遠慮なくきいてね。

それからここに飲み物とマフィンを置いておくから

適当に休憩してね」


頑張ってくれているから奮発して……バナナマフィン

チーズとコーンのマフィンとチョコチップマフィンの

計3種類用意しました。


なんて実は……

業務用冷蔵庫のスペースを開けたかったという裏設定が

あるんだけれどもね。


「はっ!!ありがとうございます」


一瞬マフィンの山をみて嬉しそうに獣耳が下がったが

すぐにキリっとした顔になり、4人は作業を直ぐに始めてくれた。


しかもこの整理のおかげで、抹茶くるみマフィンをみつけたのよ。

これも販売することにしたわ。


50個程しか数がなかったうえに……

試食として今いるメンバーで半分ほど食べてしまったから

このあと急遽私とソフィアさんで作り始める予定です。



そんな4人の作業を横目で見ながら凛桜は

ダイニングの椅子に座り、アイスティーを一口飲んだ。


「ふぅ……」


流石に昨日からの作業で疲れたかも……。


「うちの団員は役にたちそうか?」


クロノスさんが背後から現れた。


「クロノスさんも朝からお疲れ様です。

とってもとっても助かっています。

本当に色々ありがとうございます」


「そうか、よかった」


クロノスは嬉しそうに尻尾を左右に振った。


「あれから何か動きはありましたか?」


凛桜がアイスティーを出しながらそう聞くと

クロノスは笑顔のまま首を横に振った。


「今のところ目立った動きはないな。

この件に関しては何も心配しなくていい。

凛桜さん達は、食の祭典の事だけ考えてくれ」


そう言われてしまったら何も言えない……。


きっと水面下では何かおこっているのだろう。


まあ実際のところ聞いても何もできないしね。

クロノスさん達に任せるしかないよね。


「はい、美味しいクルミ料理をたくさん作って

皆さんに楽しんでもらえるようにがんばりますね。

フフフ……新作料理が出来たら1番にクロノスさんに

味見してもらおうかな~」


とびきりの笑顔でそう答えると何故か

クロノスさんが固まった。


くぅ……凛桜さんの笑顔が眩しすぎる。

久しぶりの凛桜さんは心臓に悪い。


クロノスは胸を軽く押さえながら明後日の方向を向いていた。



きりがいいところまで頑張ろうという事で

少し遅いお昼になってしまいましたが……

簡単に用意できるという事もあり

お昼はBBQにしました!


奮発して“キングビッグサングリア”を使ってのBBQですよ。


もうそれは戦場でした……。


めったに食べられない極上の肉ですから!

男子たちの目が猛獣の様でしたよ。


といっても、主にノアムさんVS騎士団の青年達の

肉の奪い合いバトルでしたが。


食べ物の恨みって恐ろしいよね……。


でもそのお陰が、午後は更にスピードアップして

作業が進んだような気がしたわ。


なんとか2日間戦える見通しはついたと思う。


よし、明日は場所取りの抽選会だ!!


パパさん、予定では明日の朝早く帰って来るらしいけど

大丈夫だよね!


心配だからルナルドさんにお手紙だそうかしら……。




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