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109/219

109.運も実力のうち……

田舎暮らしを始めて119日目。




「おはようございます。

何かお手伝いできることはありますか?」


凛桜が目玉焼きを焼いているところに……

可愛らしいフリフリのエプロンをつけたソフィアさんがやってきた。


可愛い!!

人妻な上に2人のお子さんがいるようには見えない可愛さ!


クルミ料理が美味しいのはもちろんな事だけれども

ソフィアさん目当てで通っている常連さんもきっといるよね。


リス獣人万歳!!


凛桜はソフィアの可愛らしい姿を密かに堪能しながらも

爽やかに朝の挨拶を交わした。


「おはようございます。

まだ早いですし、もう少し寝ていてもいいのですよ?」


「ありがとうございます。

仕込みの為にいつもこの時間には起きていますから

自然と目が覚めてしまいました」


「あーわかります。

もう体のサイクルがそうなっている感じですよね。

ところで……昨日はよく眠れましたか?」


「はい、おかげさまで!

久しぶりにぐっすりと眠ることができました」


そう言って、随分顔色がよくなったソフィアさんが

嬉しそうに尻尾を軽く左右に振っていた。



昨日の夕方、ルルちゃん達と同じ方法で家にきたソフィアさん。


因みに木箱の模様は“クルミ”でした。

ルナルドさんの遊び心が垣間見えた気がした。


その時のソフィアさんは疲れ切っていたと思う。

嬉しそうに子供たちと再会を果たしてはいたが

かなり顔色が悪かった。


だから密かに心配をしていたのだが……

どうやら少しずつ回復に向かっているようだった。



今日から本格的に食の祭典にむけての新作料理作りを

始めなければいけない。


もう日にちはあまりない。


皆で楽しい朝ご飯の食卓を囲んだ後に

さっそく新作のクルミ料理作りに取り掛かることにした。


その間ルルちゃん達には、ある任務をお願いした。


それは黒豆達とシュナッピーをお供に

お昼ご飯に使う野菜と果物を収穫して来てもらうのだ。


「気をつけて行ってきてね」


「はーい」


「こまめに水分を取ってね」


2人には、フルーツジュースと塩クッキーを持たせた。

今日はすこぶる晴天だ、日差しが眩しい……。


脱水症状などになったら大変だ……

農作業をするときには水分補給が大事!!


黒豆とシュナッピーには“ビーフジャーキー”を

おやつにあげてねと言っておいた。




「さて、私達もとりかかりますか!」


「はい」


私の戦闘服、割烹着を着たらなんだか気合が入った。


まずは、作る前に食の祭典のルールを聞いてみようかな。


「ソフィアさん。

ざっくりでいいので食の祭典に出品する料理について

教えて頂いてもいいですか?

何か規定や禁止事項などはありますか?」


すると、ソフィアさんは洋紙の束を鞄から取り出してきた。

何やら上等な紙に紋章のようなものが入っている。


どうやら運営本部的な所から貰った書類らしい。


「細かい規定の色々は、おいおい説明いたしますが

まずは、1日目と2日目のメインの料理を最低1品作る事」


そう言えばクロノスさんが言っていたな。

1日目は売上勝負、2日目は人気勝負だったかな。


「その他にメイン料理以外で4品まで

同時に販売することが可能です」


最大5品まで料理を販売することが可能という事か……。


でも現実的に考えて屋台で同時に5品を作ることは

かなり大変な事だと思う。

人手もいるしね。


「例年の傾向としてどんな感じですか?」


「そうですね、ほとんどのお店がメイン料理の他に

2~3品ほど同時に新作料理を売るところが多いですね」


「そうですか。

中で販売や売り子をする人数の規定はありますか?」


「はい、最大10人まで登録する事が可能です。

しかし……」


そう言ってソフィアさんは顔を曇らせた。


「……?」


「お店の場所にも左右されます」


「といいますと?」


ソフィアさんの話をまとめると……

どうやら出店するお店の位置は

くじ引きのようなもので決まるらしい。


これは皇帝陛下の立ち合いのもと……

抽選の壺から店主が1枚プレートを引きそこに書かれた位置が

2日間お店を出す場所として決まるとの事だった。


なんで壺?

そこは箱とかじゃないの?

と思ったが、そこはあえてスルーすることにした。


この抽選の壺は、魔法がかけられている為に不正はできない

との事だったが……。


どうやらその実行委員の中に、今回嫌がらせをしてきている

クレール侯爵の親族がいるらしい……。


他にも実行委員が6人いるので、すべての人を買収して

メイン会場近くのベストポジションをとる為に

何か画策する事は難しいとは思うけれども

ちょっと心配よね。


当たり前のことだけれども、お店の位置はかなり重要で

メイン会場から離れれば離れるほど不利になるとの事だった。


手前で料理をたらふく食べてしまえば

わざわざ遠い奥の店まで行く必要はないもんね。


よっぽど目当てのお店があるのならばまだしも……。

おそらく来ないと思っていた方が正解だろう。


こればっかりは、運をひきよせるしかないか。

ここで心配しても始まらないしね。


そのくじは前日、お城の広間で抽選会が行われるので

パパさんがいく予定になっている。


パパさん……()()()()()かしら!?


こんな可愛い奥さんをゲットできたのだから

もっている男だと信じたい!


「素朴な疑問なのだけれども、奥の位置にあるお店と

メイン会場の近くのお店では広さが違うなんて事はあるの?」


「はい、あります。

メイン会場の近くのお店は、奥のお店よりも1.5倍ほど広いです」


「それって、不公平じゃない?

お店側から文句が出ないの?」


「広場の構造上で仕方がないという部分もありますし

もうこの抽選会から戦いが始まっているという事もあり」


「運も実力のうち的な?」


「そんなところです」


ソフィアさんは苦笑しながら頷いた。


「なので、狭い位置を引いてしまうと必然的に

たくさんの人数はお店の中に入りきれません」


「そうか……。

それは厳しいね」


調理器具や食材とかを置く場所がいるしね。

その事も考えないと中がぎゅうぎゅうになっちゃうという事か。


「それにもともとうちは、家族だけでやるつもりです。

人を雇う余裕もありませんし」


そう言ってソフィアさんは、切なそうに目を伏せた。


え?家族だけですと!?

まわるの?それで?

ルルちゃん達がいくら優秀だといってもまだ子供よ!


国中の至る所から人が王都に押し寄せるイベントだよね!?

もしかしたら国外からくるかもしれない。


いやいやいやいや!!

絶対に無理でしょう!

パンクしちゃうって……。


「えっ?私は頭数に入っていないの?

裏方や売り子として思いっきり手伝うつもりだったんだけど

黒豆達はもちろん看板犬としてやる気満々だよ」


「えっ?」


そう言うとソフィアさんは驚いたように顔をあげて

こぼれんばかり目を見開いて凛桜の顔を見つめた。


「手伝ってくださるんですか?

ありがとうございます。

凛桜さんがいてくれたら1000獣人力です」


そう言って、微笑みながら涙を一粒零した。


こちらの世界では1000獣人力って言うんだ。

100人力的な事だよね?


って、違う!!

そんな事より……。


思わずポロっと言ってしまったけれども

そういえば私、この家から出られない病だったわ。


魔力補給問題はどうしよう……。


ずっとそばにクロノスさんがいてくれるわけもないし

カロスさんとノアムさんも当日は仕事があるだろうし

あーもう……。


2日間どうやって広場に滞在しよう。

誰か魔力の高い人求!!


「………………」


はやまったかとは思ったけれども何とかなる。

いや、何とかするから!


凛桜はこの問題をそっと頭の隅に追いやった。



そんな話をしているうちに……

いつの間にかお昼の時間になっていたみたいで

ルルちゃん達もちょうど帰って来た。


満面の笑みで、新鮮野菜を高々と掲げて中庭に駆け込んできた。


「ただいま~!!」


「おかえり。

たくさん採ってきてくれたんだね」


「うん、お兄ちゃんと競争してとったんだよ。

とうもろこしは負けちゃったんだけど

トマトはルルの方がいっぱいとれたの」


嬉しそうにそう話してくれたルルちゃん達は

もう汗だくだった。


「ソフィアさん、ルルちゃん達にシャワーをどうぞ」


「はい、そうさせていただきます」


凛桜はその間、この前作り置きしておいた

おやきを焼く準備を始めた。



さっぱりとしたルルちゃん達の目の前に

ど~んと大皿にもったおやきを出してみた。


「これは“おやき”という食べ物です」


「おやき?」


ルルちゃんは不思議そうに首を傾げた。


「お菓子ですか?」


ユートくんもその白い平べったい食べ物を凝視していた。


「まずは、食べてみて。

ソフィアさんもどうぞ」


凛桜がそう促すと、リス獣人の親子はそうっと

おやきをそれぞれ手に取った。


「「「いただきます」」」


3人はパクっと一口おやきに齧り付いた。


「…………!!」


「クルミの味がする!!

おいひぃ~

皮もモチモチして最高!」


ルルちゃんは頬っぺたを押さえながら獣耳を嬉しそうに

ピコピコと上下に震わせた。


「美味しいです……

クルミの他に、これはオーベルジューですか?

それにビッグサングリアのひき肉も入っているのですね」


ソフィアさんが、おやきの噛み口の断面をみながら

感心したようにそう言った。


オーベルジューが何かわからないけれども

おそらく茄子の事かな?


「はい、そうです。

ルルちゃん達が食べたおやきが“クルミ味噌”おやきです」


「クルミ味噌……」


ルルちゃんも自分が齧った断面をみていた。


「そしてそれを進化させてオーベルジューとひき肉を

クルミ味噌に追加したものが……

ソフィアさんが食べたおやきになります」


その横でユートくんが、さらに2つ目に手を伸ばしていた。

どうやら、茄子とひき肉入りのおやきに当たったらしい。


「…………!!

美味しいです!!

俺……こちらの方が断然好きな味です」


ふむふむ、やはり男子は肉入りの方が好評か。


実はソフィアさんを運んできてくれた騎士団の青年が

この前おやきをあげた2人だったのよね。


だから、こっそりおやきの感想をきいたのよね。

そうしたら手も汚れないし食べやすいし

味も美味しかったって好感触だったのよ。


因みにどちらの味が好みか?と聞いたところ

即答で茄子とひき肉の方だったわ。


だから今度はあんこにクルミをふんだんに入れたおやきと

クルミとチーズとベーコンをいれたおやきを食べて貰ったの。


そうしたら2人も旨い旨いって……

一気に10個ほどぺろりと食べてくれたわ。


是非どちらも商品化してほしいそうだ。


やっぱりこの国の男子って、甘いもの好きよね。



試しにこの2つのおやきもソフィアさん達に食べて貰った。


「んんんんん……!!

美味しいわ……

どちらも選べないわ……」


ソフィアさんが恋する乙女のように瞳を蕩けさせて

ため息をついている。


どうやら美味しさの彼方に行ってしまったようだ。

横をみたらルルちゃん達も同じように

恍惚の表情を浮かべていた。


どうやら、おやきの販売は決定した模様です。




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