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108.小さな小悪魔ちゃん!

田舎暮らしを始めて118日目。




「凛桜お姉さん、この干したお魚すごく美味しいね!」


ルルちゃんは口の端にご飯粒をつけたまま……

満面の笑みを浮かべながらそう言ってくれた。


どうやら異世界でも“鯵のひらき”は好評のようだ。


ユートくんもホッケのひらきの骨をフォークで

器用にとりながら、夢中で食べてくれている。


昨日の午後……

この小さなリス獣人の兄妹が2人だけで家に避難してきた。


ご両親が不在のままのお泊りだったから

夜中にホームシックになって泣き出すかなって

密かに心配していたのだけれども……。


夕飯のビーフシチュー

いや、ビッグサングリアシチューを

ぺろりと2杯もおかわりしてくれたし……

お風呂も騒がずに礼儀正しく入ってくれたのだ。


シャワーの使い方がわからなくて

若干パニックにはなったのだが!


シャンプーの入れ物の可愛さと

甘い香りにすっかり魅了された

ご機嫌なルルちゃんが可愛かったわ。


やっぱり幼くても女子なのね。


「今度のお誕生日にママに頼んで買ってもらおうかな」


って、呟いていたわ。


んん……ごめん、多分……

いや絶対にこっちには売ってない商品だわ。

だって、日本で買ったシャンプーとリンスだから。


とは言えるはずもなく……

にっこりと微笑みを返すのが精一杯だったわ。


小さな可愛いボトルに詰め替えて

お誕生日にプレゼントしようかしら。



お風呂の後は、縁側に3人で並んでアイスを食べながら

星空をしばらく見ていたのだけれども……。


2人がやけに静かだなって思って横をみたら

既にコテッと寝落ちしていたわ。


やはり興奮と緊張の連続で疲れていたのだろう。

この小さい体でよく頑張ったと思う。


彼らなりにこの異様な状況を悟り

大人たちに心配をかけないように頑張ったのだと思う。


もちろん、私にもたくさん気を使ったのだろう。


2人を起こさないようにそっと布団まで運び寝かせると

そこから1度も起きることはなかった。


そして今……

朝から元気いっぱいで朝ご飯を食べております。


「凛桜お姉ちゃん!ご飯のおかわりお願いします」


ルルちゃんが空のお茶碗をこちらに見せながら

ドヤ顔でそう言うと、隣からも大きな声が追従した。


「俺もおかわりお願いするッス!

大盛りにしてください!!」


「………………」


何故かノアムさんまでが朝ご飯に参加していた。



いきなり早朝にやってきたノアムさん。

また何かあったのかと一瞬構えたが……。


なんてことはない。

ただどうしても私の作ったご飯が食べたかっただけらしい。


勤務前にうちにふらっと寄っただけとの事だった。


ん?

うちってふらっと来られる距離でしたっけ?

あー、でも獣体でダッシュして来るならば可能なのかな?


いや、そういう事でもないよね。

何度も言うけれど、うちはご飯屋でも民宿でもないからね。


なんとも言えない複雑な気持ちに陥ったが……


「美味い!

本当に美味いっスね。

凛桜さんのご飯は最高ッス!!」


そう言いながら、キラキラの笑顔で

豪快に鮭を骨ごと食べているノアムさんをみたら

何故か許しちゃう気分になっちゃうのよね。


“人たらし”っていうのかな?

これはもはや一種の才能よね。


「ね~、本当に美味しいね」


「ッス!!」


ルルちゃんとも意気投合している模様……。


「ルルも大きくなったら凛桜お姉さんみたいに

美味しいご飯をたくさん作るんだ!」


ルルちゃんは目をキラキラさせながら

そんな可愛い事を宣言してくれたのだ。


「それは楽しみッスね!」


ノアムさんが優しい眼差しでルルちゃんをみつめると

少し恥ずかしそうに頬を染めながら

上目遣いでノアムさんをみるともじもじしながら言った。


「ノアム様……

その時には、ルルの作ったご飯を食べてくれる?」


あまりの可愛さにノアムさんもハートを打ち抜かれている様子。

うっすらと頬を染めながら、頬をかいていた。


やだ、何この甘酸っぱい場面は!!


「駄目……かな?」


おっと、ダメ押しの上目遣いが炸裂しております!!


「もちろん! 喜んで食べるッス!!」


「たくさん、ノアム様の好きなお料理を作りますね」


ルルちゃんは頬を染めながらもしっかりとノアムさんの

手を握りながらそう宣言した。


「………………」


その様子を黙って見ていたユートくんは

複雑な表情を浮かべていた。


ですよね……。


家族の色恋沙汰の場面を見てしまうのって

こっぱずかしいよね、どんな顔していいのかわからないと思う。


どうやらルルちゃんは、今ノアムさんに夢中らしい。


そう言えば……あの事件のせいで

騎士団の面々が学校の登下校中の送り迎えをするようになり

その中でも、ノアムさんの人気が女子の中で爆上がりに

なったんだよね。


「ノアム様の好きな食べ物はなんですか?」


「なんでも好きっスよ。

そうッスね、その中でも肉料理が好きッス」


ルルちゃん、意外に肉食系女子なんだな。

見た目は可愛らしい草食系リス獣人なのに……。


でも、楽しそうな2人をみているとほっこりするわ。


初恋なのかな?


今しかこんな気持ち味わえないしね。


この瞬間だけは、年齢とか身分とか種族とか

関係ないもんね。


そんな中……

中庭から何やらひんやりとしたちょっぴり黒いオーラーが

漂ってくるのを感じた。


視線を投げてみると、シュナッピーが縁側の隅でイジケていた。


器用に葉っぱの先で、地面にのの字を描いている始末。


「シュナッピー!?

どうしたの?」


凛桜がそう声をかけると悲しそうにキューンと鳴いた後

鬼の形相でノアムを睨みつけていた。


恐らくだが、言葉で表すとしたら

“ケッ、調子にのってんじゃねーよ、ネコが”

とでも言いそうな雰囲気だった。


それに気が付いたのだろう。


「シュナちゃん?」


シュナッピーはルルちゃんに声をかけられると

急に嬉しそうに葉っぱを揺らした。


どうやらノアムに焼きもちを焼いていたらしい。


本当にこの2人は何処までいってもライバルなのね。


ルルちゃんは、急いで縁側をおりて

シュナッピーの元へ駆け寄りそっと葉っぱを握った。


「シュナちゃん、ケンカは駄目だからね。

もちろんシュナちゃんの好きな物もいっぱい作るからね」


そう言って、にっこりと笑った。


「ギュ……………ロロロ!!」


その瞬間シュナッピーは更に嬉しそうに全身を激しく揺らした。


「………………」


恐ろしい子!!

年端もいかない子が既に2人の男子の心を軽く弄んでいる!?


いやきっと無自覚なんでしょうが……

ほんのりと小悪魔の片鱗をすでに見せていますよ、えぇ。


そんなことを密かに心の中で思っていると

ユートくんと目があった。


するとユートくんは、両手を挙げたまま諦めモードの表情で

やれやれと言うが如く、首を横に振った。


これはいつものことなんだろう。

お兄ちゃんはこうやって振り回されている模様。


こうして大人になっていくのだよ少年、頑張れ!!


軽いひと悶着はあったが、その後みんなで仲良く

一口サイズのフルーツシャーベットを食べた後

ノアムさんは帰って行った。


もちろん、帰り際にお弁当を渡しましたよ。


メインは三色そぼろご飯です。

おかずは、きんぴらごぼうとミートボール。

ほうれん草のおひたしとプチトマトだ。


デザートには、ごま団子を入れておきました。


クロノスさんとカロスさんの分も託しましたよ。


「やりぃぃぃぃ!!

これで今日1日頑張って仕事できるッス」


そう言いながら……

嬉しそうに尻尾を左右にぶんぶん振りながら

大事そうにお弁当を受け取った。


帰り際ルルちゃんに、寂しそうに“帰っちゃうの?”

と言われて、おまけに服の裾をぎゅっと掴まれて

困ったように獣耳をさげていたノアムさん。


どうするのだろうと心配だったが……

さすがノアムさん!


ルルちゃんの目線にあわせるよう片膝をつくと優しい瞳で

見つめながら頭を撫でた。


「お仕事行って来るッスよ。

また直ぐに会えるから……。

それまでは、凛桜さんと兄ちゃんのいう事を聞いて

おりこうでいるっスよ」


「うん……」


「いい返事ッス!」


ルルちゃんは、そっとノアムさんの服の裾から手を外した。

泣きそうな表情だったが何度もノアムさんの顔をみて頷いていた。


「じゃあまたな!」


そう言いながら、太陽のような笑顔で手を大きく振りながら

中庭の奥へと消えて行った。



が、凛桜達の姿が見えなくなるのを確認すると

急に険しい顔になった。


そして横にいたシュナッピーに低い声でこう言った。


「これから森の中が騒がしくなるかもしれないっス。

今朝も5匹ほどネズミが付近を徘徊していたッス。

この意味わかるッスね……」


シュナッピーは、ノアムの言葉を初めの方は

ぼんやりとした感じで話半分で聞いていたが……

今はキリっとした表情でノアムを見つめていた。


「注意を怠るな!

この入り口を守れるのはお前しかいないっス!

()()()()()()()()()2()()()()()()()()っス……。

もしまた何かあったら……

俺達が駆け付けるまで凛桜さん達を頼んだッスよ!」


そう言ったノアムはいつになく真剣だった。


シュナッピーも流石に空気を読んだのだろう。


「ギャロ!!」


任せろと胸を叩くように、葉っぱで幹を叩くと

力強く返事をした。


ノアムは凛桜のご飯を食べたかったからだけではなかった。


クロノスにいわれて、本当は森の見まわりに来ていたのだ。


案の定、偵察魔獣と思われるモノが

数匹森の入り口を徘徊していた。


明らかに誰かが召喚した魔獣だった。


まだ、家の付近ではなかったのが幸いだが

いつここまで侵入してくるかはわからないのだ。


「よーっしゃぁ、今日も()()()()()()してから

帰りますか!」


そう言って口角をあげるとノアムは短剣を

両手で構えて森の奥へと走り出した。




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