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105.対策をたてましょう!

田舎暮らしを始めて112日目。




昨日はあれから大人たちだけでノアムさんの話を聞いた。


どうやら……

ノワイエ亭の周りで不審人物が出没しているらしい。


そいつらはハイエナ獣人の若い男の二人組で

なにやらノワイエ亭の事をこそこそと色々嗅ぎまわっている

とのことだった。


その中には、ルルちゃんとユートくんの事も含まれており

あまりよろしくない状況になってきている事がわかった。



ノアムさんの話によると……。


「今日はたまたま非番だったデュールと一杯やろうかという

話になったので、通りを歩いていたら……

なにやら男達に話しかけられている

ルルちゃん達を見かけたッス」


クロノスは頷きながら、続きを話す様に目線で促した。


「服装が旅人仕様だったので……

最初は道でも聞かれているのかと思ったッス」


「ここは王都の中央通りからも近いからな。

人通りも多いし、道や店の場所を聞かれることは

日常茶飯事だ。

その場面だけ見たら、さして珍しい光景でもないが……」


クロノスも似たようなことを思ったようだった。


「そうなんっスよ。

でも……どうもユートくん達の様子がおかしい。

耳も尻尾もかなり緊張して、顔が強張っているのが

遠くからでもわかったッス」


違和感とでもいうのだろうか。


騎士団としてあまたの悪者と対峙してきた感とでもいうのか?

ノアムはどうしても気になって目が離せなかったらしい。


「心配になったので、デュールとさりげなく近づいたッス。

そうしたらなんと、そいつらが……

目の前にいるのがその本人だとわからなかったんッスね

“ノワイエ亭の子供たちの事を教えてくれ。

お前ら友達だよな?”と

ルルちゃん達に聞いていたんッスよ」


それを聞いたクロノスの様子が一気に険しくなる。


「ちょうど一緒にいたお友達3人も小リスちゃんだったので

やつらは、どの子がルルちゃん達かわからなかったようでした。

口ぶりからすると……

どうやら目的は、ルルちゃん達を探しだす事みたいだったッス」


「…………」


ソフィアさん達は息を飲んだ。


「それでも、誰一人何も答えないので……

業を煮やしたのか、男達の口調が荒くなったっス」


これはまずいと思ったノアムとデュールさんが割って入り

事なきを得たようだった。


しかもデュールさんがリス獣人だったという幸運もあり

しれっと迎えにきた兄として対応したので

さほど揉めることもなく、その男達は引き上げていったらしい。


溢れる怒りを、リス獣人夫妻がかみ殺しているのが伝わってきた。


「ノアム……

その後の男たちの足取りは掴んでいるのだろうな」


「もちろんっス。

今夜はどうやら、コンコン亭に宿泊しています。

現在もザイオン達が見張っています」


「よし」


クロノスは力強く頷くと、リス獣人夫妻の顔をみて

真剣な口調ではっきりと告げた。


「不届き者は、必ず俺達が捕らえるからな。

すぐにという訳にはいかないが……

その背後にいるやつも最終的に捕らえるつもりだ。

だからもう少し時間をくれないか?」


クロノスの真摯な言葉に、ソフィアさん達は目を潤ませていた。


「ありがとうございます。

そのお言葉だけでも心強いです。

すべて騎士団長様にお任せいたします」


そう言って、何度もクロノス達に頭をさげた。


「ユートくんは、えらかったっスよ。

他の皆を庇って前にでて、頑として何も答えずに

どうやったらここから逃れるか……

必死に考えていたッスから。

男っスね、将来大物になるっスよ。

あとでたくさん褒めてあげて欲しいッス」


ノアムが満面の笑みで親指を立てながらそう言うと

リス獣人夫妻は涙ぐみながらも、にっこりと微笑んで頷いた。



いよいよ、敵も本腰を入れてきたので

こちらも迅速に手を打つことにした。


急に警戒して強硬手段に出られても厄介なので

予定通り、週末まで普段通り変わらず店は開ける事にした。


子供達の安全を期すために、学校の行き帰りには

騎士団がつきそう事も密かに決まった。


怖がらせるといけないので、騎士団の新人研修の一環として

協力してほしいという体で、子供たちには話を進めた。




田舎暮らしを始めて113~114日目。



やはりというか、送り迎えの団員の中で1番人気なのは

ダントツにノアムさんだった。


男子からは面白いお兄ちゃんと慕われ……

女子からは可愛いかっこいいとモテモテだった。


「ニシシシシ!! 当然の結果ッス」


と、本人はかなりご満悦だったが……

他の団員曰く、精神年齢が一緒だからじゃねぇか?

と半笑いされていたことを知らないノアムなのだった。


余談だが、一番子供たちが緊張した団員は……

言わずもがなカロスさんだった。


カロスさん、強面だけれどもいい男なんだけどな。

もう少し大人になったら、カロスさんの魅力がわかるのかしら?


がんばれカロスさん!!

私は密かにカロスさん推しですよ!




田舎暮らしを始めて115日目。




何事もなく、ノワイエ亭のランチ営業が終了した。


例のハイエナ獣人達も相変わらずこの街に

滞在しているようだが、目立った動きはしていない。


クロノスさん曰く……

このまま何事もなく相手が引き下がるとは思えないし

本体の方がどう動くかわからない……

警戒するに越したことはないので引き続き調査するとの事だった。


私もそう思う。

諦めるとは思えない。


そんなノワイエ亭は、食の祭典まで臨時休業に入る。


食の祭典前には、こうして臨時休業に入る店は珍しくないのだ。

その事に関して、お客も文句は言わないそうだ。


むしろ休んでもらって、祭典当日にはいつも以上に美味しい

料理をたべさせてくれよな!

くらいの勢いらしい……。


いつも思うけどこの国の人って、食いしん坊よね。

男性でも甘いもの好きな人が多いし……

って、それは関係ないか。


それほど食の祭典とは、国民にとって大事な祭りだということはわかった。



食の祭典までは、あと6日。


その間なのだが……

一家の身の安全と食の祭典への参加準備についてどうするか

作戦会議がノワイエ亭で開かれた。



まずはクルミ問題。


クルミはもうほとんど手元にないとの事だった。


我が家にかろうじてクルミのストックがあるから

試作品作りくらいならなんとかいけそうだ。


が、しかし……

食の祭典当日にクルミがなかったら話にならない。

やはりなんとかして調達するしか道はなさそうだ。


そこでパパさんは、ルナルドさんの伝手を頼って

3つ先の街にクルミを買い付けに行くことが決まった。


ルナルドさんに相談したところ、返事1つで快諾してくれた。


その日程はかなりハードで、3泊5日の旅だ。

お金も日数も結構ギリギリである。


しかも、どのくらいクルミを仕入れできるかも未定だ。


ただ、ルナルドさん達のキツネ便に便乗させてもらえるので

身の安全と交通費は保障されるのだ。

遠くに旅に行く身としては、こんなに破格の条件はないだろう。


その代わりに、キツネ便のお手伝いをするのだろう。

買い付けや配達はとても忙しく、きつい力仕事も多い。

毎回、猫の手を借りたいくらいだそうだ。


ルナルドさんの所でクルミを買ってきてもらう事も

チラッと考えたのだが……。


そうすると発注依頼が発生してしまい

ルナルドさんにマージンを払わないといけなくなるのだ。


商売人としては、そこは譲れないとの事だった。

それはそうよね、商売だもの、当たり前よね。


特別に買い付けに行ってもらうのだ。

普段以上に割高の金額になってしまうとの事だった。


ならば、自分で直接買い付けに行った方が安いのではないのか?

という結論になったのだ。


そうなると今度は新たな問題が発生してしまった。

ソフィアさん達の身の安全問題だ。


パパさんが、丸々1週間近く店を開けてしまうとなると

ノワイエ亭にはソフィアさんとルルちゃん達だけで

過ごすことになってしまう。


いくら朝と日中と夜に騎士団が巡回してくれるといっても

24時間守ってくれるわけではない。


女子供だけというのは、今の状況だとかなり危ない。


かといって、買い付けの旅に一家総出行くことは

現実的ではない。


宿屋に泊まるという手もあるが、お金もかかるし

身の安全という意味では、そう家にいるのと変わらないだろう。


かといって、親戚の家にというのも無理らしい。

王都からかなり離れたところに住んでいるとの事だった。


もうこうなったらいよいよ、侯爵家にでも泊めようか

とまでクロノスさんが言い出しそうだったので……

思わず手を挙げてしまった。


だって、陰で糸を引いているのも侯爵家の人でしょう。

騎士団の仕事の範疇ならまだしも……

個人的にクロノスさんが手を貸すのは

後々よろしくないかなって。


変ないちゃもんつけられて、グロワール獲れなくなるのも嫌だし。


かといって、カロスさんやノアムさんのお家って訳にもいかないでしょ?


そんなこと言ったら、私達だけで大丈夫ですって

ソフィアさん達が無理をしちゃいそうだし……。


そこで何かあったら目も当てられないよ……。


ならば……

身の安全も保障できるし、新作レシピ開発にも

もってこいの場所という事で……。


我が家がベストではないかという

考えにいきついたのですよ、はい。


うちは賑やかなのは慣れているし……

この前、定食屋から民宿にレベルアップしたところだし。

って、心の中でヒッソリと自虐しちゃったわ。


「家に来ませんか?」


気がついたら、自然にそう口に出ていたわ。


そう伝えるとソフィアさんは、最初はかなり恐縮して

“そんなご迷惑をかけることは出来ません!!”

と頑なに首を縦にふらなかったんだけれども。


クロノスさん達の説得と……。


旦那さんが心底申し訳なさそうな顔で凛桜のことを

チラチラと見ながらも……

君たちの事が、心配で堪らないんだという圧と……

子供たちの熱意に負けたのだろう。


最終的には、我が家に滞在することを

しぶしぶ承諾いたしました。


部屋もいっぱいあるし、シュナッピーや黒豆達も喜ぶわ。


それに何と言ってもうちは鉄壁の守りよ。

クロノスさんの結界がある上に、妖精の守りも効いているからね。


シュナッピーもいるし!

地獄の番犬もスタンバっていますよ。

だから安心してくださいね。




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