103.星3つ!!
田舎暮らしを始めて110日目の続き。
しっかりと朝ご飯を完食して、おにぎりとフルーツをたくさん
お土産として受け取った魔王様は……
そのままいつも通り転移魔法で帰っていきました。
その消えゆく空の彼方を見つめながら
1人武者震いしている男がいた。
「魔王……強烈っスね……。
ハンパないオーラと魔圧がやばかったッス」
ノアムさんが獣耳をピコピコさせながら
興奮したようにカロスに話かけていた。
「そうだな……。
本来ならばけっして交わることのない存在だ。
ましてや食卓を一緒に囲むなど……
他の奴らがきいたら、卒倒するか信じないだろうな」
苦笑しながらカロスさんも頷いていた。
いつものメンバーに戻ったところで
クロノスさんが徐に話をきりだした。
「ノワイエ亭の事だが……
カロス、ノアム何かあるか?」
「はい、その件で分ったことがあります」
どうやらカロスさん達もこの短期間で
密かに事情を探ってくれていたらしく
大まかな状況がわかった。
相手はクレール侯爵という男らしい。
王都で手広く飲食店や宿屋を経営している一族で
かなり名の知れた名家なのだが……
最近その経営のトップが息子さんに変わった。
どうやらそのあたりからおかしくなってきたらしく
最近では、強引に有名店のシェフを引き抜いたり
店ごと乗っ取りをおこなったり、かなり荒事をし始めた。
その背景には、前侯爵の具合が悪くなり
経営に目がいき届かなくなったことが原因らしい。
そのせいなのか……
悪いおつきの男が、息子を担ぎ上げ
言葉巧みに誘導して、甘い汁をすすっていると
もっぱらの評判だ。
もともと利益追求には厳しい侯爵家だったのだが
守るべきラインは守っていたのだろう。
それまでは名に恥じぬ、いい店を経営していた。
が、しかし、そのラインを息子は越えてしまい
今まで以上に利益ばかりを追求した結果……
評判を落とし、店の経営が傾き始めた。
そうすると、今まで店についていた
“グロワール”が取り消されるのではないか?
と、密かに王都内で噂されているらしい。
「グロワールって何ですか?」
凛桜が、バームクーヘンを出しながらそう問うと
クロノスさんが丁寧に解説してくれた。
「言うならば、店のランクだな。
このグロワールの紋章が掲げられている店は
一流の店の証だと思ってくれていい」
「なるほど」
星3つ的なものかしら?
「この栄光を頂くと、店の利益が数十倍にも跳ね上がり
商人にとっては誇りと利益を得られる
一石二鳥の称号なのだ」
「王都の公式案内紙にも掲載されるッス。
そうすると国外のお客様とかもどんどんくるので
もう笑いがとまらないらしいッス」
ノアムさん、どこ情報なの?
笑いがとまらないのか……。
金貨にまみれて高笑いしているレオナさんが
一瞬……頭の中を過ったわ。
いかん、似合い過ぎて違う意味で笑いが止まらなく
なりそうだったわ!
「す……すごいわね、商人ならば是非欲しいわね」
「確か……ルナルド様もグロワールお持ちですよ」
カロスがそう答えると、ちょっぴり嫌そうに
クロノスがぴくっと眉をあげた。
「そもそも、それはどうやったら得られるの?」
「3年に一度、王都の大広場で食の祭典が行われるんだ。
そこで王都中の店からまず20店舗が国の専門機関によって選ばれる」
専門機関なんかあるんだ。
本格的なのね。
「そして、その選ばれた20店舗は
自分の店で提供している料理の中で1番だと思う料理を
かけて戦い、勝者になった店に与えられるのがグロワールだ」
へー、なんか面白そう。
行ってみたいな、食の祭典。
「凄い盛り上がりなんッスよ。
そこでは、普段俺達がいけないような高級店の料理から
下町の定食屋まで、すべての店の料理が格安で食べられるんっス」
思い出したのか、ノアムさんの方からじゅるりという
音が聞こえてきた……。
「ったく、お前は本当に食いしん坊だな」
呆れたように言いながら、クロノスさんは
バームクーヘンをぱくりと一口で食べた。
「話を戻すが……
その祭典で1番売り上げがよかった店に
3ポイントがまず入る。
2番目の店が2ポイント、3番目の店が1ポイントというように
順番がつけられる」
なるほど、ポイントを競うのか。
「そして次に、人気投票でも同じようにポイントが加算され
最終的にポイントの合計数が、上位3つの店が選出されるんだ」
なるほど、国民参加型のイベントなのね。
それは盛り上がるわね。
「でも、それって公平な数値なの?
それこそお金や権力がある人が有利じゃない?」
凛桜がちょっと意地悪な質問を投げかけると
何故かドヤ顔のクロノスがそこにいた。
「そこは大丈夫だ。
まず会場に入る時にゲートでコインとカードを
1人1枚ずつ受け取るんだ。
その時に、わずかだがそのコインとカードに持ち主の魔力が
溶け込む仕組みになっている」
ほぇ……。
凄い技術だな……。
カードにお金をチャージする感じかな?
何処の世界にもあるのね。
カード技術は、万国共通なのねぇ……。
「みんなそれぞれ顔が違うように、魔力も1つとして
同じものはないんだ。
祭典会場では、そのカードでしか食べ物は購入できないし
最終的にそのコインを使って自分が1番だと思う店に投票する」
なるほど、コインは1人1枚しか持っていないから
同じ店に大量に投票できないって事か!
「しかもカードの持ち主がどの店で何回
どの料理を買ったのかという事が……
カードの購入履歴に記載されるからな。
不正はすぐにわかるぞ」
「流石の俺も、同じ料理は10皿くらいしか
食べられないっスからね。
1人で100皿とか頼んでたら、怪しいじゃないっスか。
すぐにその情報が魔法の塔に送られて……
魔法管理士と俺達がその人を捕まえるッス」
「投票の箱には不正防止の魔法が掛かっていますし
会場では、俺達や近衛騎士団などが巡回しています」
なにそれ……。
ちょっと怖いかも……。
裏で行動を見張られているの!?
凛桜は顔を引きつらせていた。
そんな複雑な表情をみたのだろう。
クロノスは、少し焦りながら急に早口になりながら語りだした。
「カードからは、個人の特定はできないんだ。
普通に楽しんでいれば、調べられることはまずないからな。
しかし、カードには見えない番号がふられていてな……
怪しい動きをしているものがいれば、追跡が可能なんだ」
「…………」
「凛桜さんの言う通り、昔はかなり不正などが横行していて
社会問題になったんだ。
今の皇帝がそれを払拭させるために、日夜対策を考えられて
この仕組みにたどり着いたのだ。
そして、この方法が採用されてからはほとんど不正がなくなり
公平になったときいている」
「そうなんだ……」
「それでもかいくぐるやつはいるでしょうが
大規模の不正は難しいと思います」
カロスもそう言って頷いた。
「それでだ。
その食の祭典が今年行われるんだ。
しかも10日後にな」
「えぇぇえぇぇえ!!」
急すぎやしませんか?
10日後だと!!
「だからやつらは焦っているのだろう。
今のままじゃ確実にグロワールは取り消されるだろうからな」
「グロワールを1回でも獲得した店は、
祭典の時に審査委員の審査を受けて合格すれば続行します。
が、やつらの店は確実に落ちると思います。
かなり評判が悪いですからね、おそらく監査機関にも
それは伝わっていると思います」
カロスさんは渋い顔でそう吐き捨てた。
「お店に抜き打ち検査をしにいったりするの?」
「そうですね、詳しくはわかりませんが……
恐らく定期的に調査員がこっそり訪れていると聞いています」
うん、これはもう異世界の〇シュランだわ……。
「ここまではだいたい把握したけれども
それじゃあ、何故ノワイエ亭が狙われたの?」
カロスとクロノスは目くばせをした後に頷き
その後カロスが軽く息をはいてから話始めた。
「おそらくですが、理由は2つあります。
1つ目の理由ですが……
今年初めて20店舗の中にノワイエ亭が選出された事。
もう1つは……」
そう言いかけて、カロスは複雑そうな顔をして
一瞬口を噤んだ。
「…………?」
「その……」
凄く言い辛らそうだけど……。
大丈夫かな?
「コッ…………コホン……」
何かをごまかす様に、わざとらしく咳をした後に
カロスは再び話を再開した。
「その……、ノワイエ亭の経営者の方が
一般国民の方だから狙われたのだと思われます……」
あー、そう言う事か。
舐めた事してくれんな、貴族主義者め!
凛桜の目が一瞬、つり上がった。
「他の店は、それなりに常連店や貴族が経営している店が
軒を連ねているので、その牙城を崩すのは容易ではありません」
「だから、新参者で身分が高くないから狙っただと!!
一般市民なめんなよ!」
凛桜は鼻息荒く叫んだ!
「凛桜さん、落ち着いてくれ」
すかさずクロノスが、凛桜の手をぎゅっと握った。
「あ、うん、ごめんつい……
心の声が思わず出ちゃった」
凛桜は恥ずかしそうに目を伏せた。
「いや、俺も憤りを感じている。
それに恐らくだが、ノワイエ亭はかなりいい所まで
いくと踏んでいる。
だからこそ、この段階で自分の傘下に取り入れたかったのだろう」
「仮に、自分が所有している他の店が
グロワールを取り消されても……
ノワイエ亭が自分の店ならば、数的には足し引きゼロですからね」
「考え方がせこすぎて嫌だわ……」
凛桜の眉間の皺がますます深くなった。