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101/219

101.事態が動き始めている

田舎暮らしを始めて109日目の更に続き。




ガタゴトと音を立てながら、馬車は進んでいた。


予想通りというか……

とても豪華で可愛らしい装飾が施された馬車だったよ。


窓枠もハートの形だし

馬車を引いているのは真っ白な毛並みが美しいペガサスだ。


もちろん中の椅子も柔らかくて、座り心地も最高です。


クッションもレースをふんだんに使用したものだし

ルルちゃんが起きていたら、きっと目を輝かせて

抱きしめたであろう可愛さ!


お姫様仕様のプリンセス馬車だよ!



そして私は今……

両膝で膝枕をしているという特殊な状況になっております。


右膝にはルルちゃんの頭が……

そして左膝にはお兄ちゃんのユートくんの頭が乗っております。


こんなにも何度も会っているのに……

つい先ほど初めてお兄ちゃんの名前を知ったわ。


大人びているとはいえ、こうして寝顔をみると凄く幼いな。


凛桜は無意識に、2人のモフモフの獣耳を優しく撫でていた。


その様子を微笑ましそうに見ているレオナさんが目の前におります。


「可愛いわね……」


「そうですね……」


何故か今のところ、家に強制送還される気配はありません。


やはりレオナさんの魔力の高さなのかしら?

流石、アイオーン一族……。



そして40分は過ぎただろうか。

馬車は街中へとやってきた。


速度を落としながらそのまま進み

ルルちゃん達のお店の近くまで来た時だった。


何か辺りが騒がしい。


窓からひょいっと覗くと……

騎士団の面々がたくさんその場に集結していた。


「何かあったのかしら?」


と、その時偶然に、その中の狼獣人の青年と目があった。


(クロノスさんの部下の子だわ)


カレーの時も餅つき大会にも来てくれた青年だったので

凛桜は何気なく手を振った。


その青年は驚いたような顔をしたが、敬礼をした後に

すぐさま馬車の方へと駆け寄ってきた。


レオナも顔見知りなのだろう。

御者に馬車を止めるようにいって、そのまま馬車の扉をあけた。


「こんばんは、何かあったのかしら?」


狼獣人の青年は、胸に手を当てながら頭を下げた。


「レオナ様、凛桜さん。

ご帰還中にお呼び止めいたしましたことを

お詫び申し上げます」


「かまわないわよ」


「ご寛大なお言葉をありがとうございます。

じつは、子供が2人行方不明になっておりまして……」


といった瞬間、凛桜をみて狼獣人の青年は目を見開いた。


「あの……」


今度は凛桜の顔と子供たちを何度も行き来してみた後

困ったように頬をかいた。


「凛桜さん、その子達は……」


そうなるよね、まさか探していた子達が目の前に

いるなんて思ってもみなかっただろうし。


凛桜自身もどんな顔をしていいのかわからなかった。


「ノワイエ亭の子供たちよ。

あなたたちが探しているのは、この子達よね」


代わりにレオナが答えてくれた。


「は、そうです。

こんな時間になっても帰ってこないのでご両親が

心配しておりました。

ですので、今から騎士団の有志で捜索しようかと

話し合っていたところだったのですが……」


やっぱり……。


凛桜も困ったように眉尻をさげた。


「この子達と凛桜は友達なの。

で、ご両親に内緒で凛桜の家に遊びに来ちゃったみたいなのよね。

だから、私達が家に送り届ける途中なのよ」


レオナが有無を言わせぬようにそう言って微笑んだ。


「そう……でありましたか……」


狼獣人の青年は何かいいたげな様子だったが

そのまま口を噤んだ。


「だから心配しなくていいわ」


「はい……」


「もうすぐそこだから凛桜、歩いていきましょう。

あなた、子供たちをお願いしてもいいかしら?」


寝ている子供を抱くのはけっこう重労働だ。

信じられないくらい、重くなるからね。


それに、お姫様キャラのレオナさんが軽々と抱いて

馬車を降りるわけにいかないもんね。


ほら、イメージって大事だから。


「わかりました、失礼いたします」


狼獣人の青年は軽々と二人を抱き上げると

そのままレオナたちと一緒に店へと向かった。



店の前では、ご両親がオロオロしながら

クロノスさんと何か真剣に話をしているのがみえた。


と、ふと目が覚めたのだろう。

ルルちゃんが眠気眼で呟いた。


「ママ……」


その微かな声が聞こえたのだろう。


驚いたようにこちらをむくと、全速力でママさんが

こちらに向かって走ってきた。


リスさん早っ!!

こんなにもダッシュで走れるのね。


「ルル!! ユート!!」


そのまま泣き崩れるように2人を抱きしめた。


その後を追うように、パパさんとクロノスさんもやってきた。


「見つかったのか!」


クロノスさんは、狼獣人の青年にそう問いかけた

つぎの瞬間思いっきり飛び跳ねた。


「凛桜さん!? なぜここに?」


そうなりますよね……。

私も何故ここにいるのか不思議なくらいですよ。


「あら、クロノスもいたの?」


呑気にそういって、レオナは扇子で口元を隠した。


「お前の仕業か?」


目を吊り上げたクロノスさんがレオナさんに詰め寄った。


「あらん、人聞きが悪いこと言わないで頂戴。

むしろ感謝してほしいくらいよ。

おチビちゃんと凛桜を送ってきたのは私なんだから」


そう言って勝ち誇ったように口角をあげた。


「っ…………」


事情を知らないレオナさんを責める訳もいかなかったので

クロノスさんは苦虫を噛みつぶしたような顔で唸っていた。


ひとまずクロノスは、騎士団の部下たちを解散させて

事情をきくべく凛桜達と一緒にノワイエ亭へと入った。



ママさんは、疲れ切った子供たちを寝かせてから

店へと戻ってくると、凛桜達に頭をさげた。


「この度は、子供たちが皆様に多大なご迷惑を

おかけして申し訳ございません」


パパさんと共に獣耳と尻尾を下げて、震えながら謝っていた。


いくらクロノスさん達が寛大だと言えども

一般市民が侯爵に迷惑をかけたことは事実なのだ。


本人たちがよくても、他人の目からみるとそういう

結果になってしまうのだ。


「頭をあげてください。

それから、子供たちを叱らないであげてくださいね」


レオナはそう優しく言った。


「褒められた行動ではないが、無事に戻って来たんだ

あまり叱らないでやってくれ」


クロノスも同意するように深く頷いた。


「しかし、なぜここまで取り乱したんだ?

子供が遊びに夢中になって、帰りが遅くなることなどは

よくあることではないのか?」


クロノスが不思議そうに首を捻った。


「それは……」


リス獣人の夫婦はお互いに目を合わせてから

困ったように眉尻をさげた。


「ユートくん達からこのお店の話をききました」


凛桜がそう切り出すと、2人は驚いた表情で固まっていた。


「ユートくん達は、このお店を守りたい一心で

家に駆け込んで来たんです」


「ユート……ルル……」


リス獣人の夫婦は、涙のにじむ震えた声で子供たちの名前を呼んでいた。


1人事情がわからないクロノスは、ぽかんと口を開けていたが

なにやら起こっていることは察したようだった。


「ここまで乗りかかっちゃったからには……

私達も話を聞くまで帰れません。

だからもういっそうのこと甘えちゃいませんか?」


凛桜がつとめて明るくいうと、2人はハッと顔をあげた。


「だって、最強のお2人がこのお店の常連さんなんですよ

この人脈を使わない手はないと思うのですよ」


「凛桜さん……」


クロノスもレオナもにっこりと微笑んで力強く微笑んだ。



そして、腹をくくったのだろう……


「実は……」


リス獣人のパパが、このお店の状況を詳しく凛桜達に話し出した。



話の全貌を聞き終わったクロノスは

忌々し気な顔と共に吐き捨てるように言った。


「あの、バカ息子が……なにしてくれてんだ!」


「本当にどうしようもないくらい。

困ったちゃんよね。

欲しいものは何でも手に入ると思っているんじゃない?」


レオナもため息をついていた。


「何とか手立てはありませんか?」


凛桜が縋る様にクロノスを見上げた。


「そうだな……。

今すぐに妙案は浮かばないが……。

なんとか対策を考えよう。

俺も、部下たちもこの店のファンだからな」


「そうね、今日はもうおそいし。

また明日考えましょうか」


正直みんな大人たちも疲れていた。

こんな時に考えても、いい案は浮かばないだろう。


「本当に今日は、ありがとうございました」


何度も深く頭を下げている2人に見送られながら

クロノス達は、そのままお店を後にした。



「さ~て、凛桜は今日、家に泊まるでしょう?」


当たり前のように凛桜の手を引いて馬車に

乗せようとするレオナ。


「は?お前!何を言っている。

そんなことさせるわけいかないだろう」


クロノスはそう言って、凛桜を自分の方に引き寄せた。


「なによ、心の狭い男はもてないわよ。

今日は凛桜と女子会しながら盛り上がるんだから」


そう言って、またレオナが自分の方へと引き寄せた。


「ふざけんな、そんな事を許可するわけがないだろう」


それにお前、女子じゃないだろう!

ひしひしとクロノスの表情がそう語っていた。


「はぁ?」


往来の真ん中で二人が顔を突き合わせながら

ケンカ勃発中ですぅ……。


「いいかげんにしろよ」


「クロノスこそ邪魔しないでよ」


と、そこに……


「あのお……いまから家に送ってもらうという選択肢は

ないのでしょうか?」


凛桜がおそるおそるそう提案したのだが……。


「「却下だ!!」」


そこは奇麗にハモって、却下されました。


仲がいいのか悪いのか、わからない2人なんだから。


凛桜は、いつ終わるかわからない凛桜争奪戦を

遠い目でみながらため息をついたのだった。





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