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10.渋柿は兵器

田舎暮らしを始めて8日目。


庭の木にたわわに柿が実っているので

今日は干し柿作りをしようと思う。


まずは柿を吊るすために……

60~70cmのヒモを20本くらい準備する。


柿のヘタとその周囲の皮をむいてから

頭頂から下にむけて皮をむく。


凛桜は縁側で渋柿を一心不乱に剝いていた。



そこにまたあの男がふらっとやってきた。


「凛桜さん、こんにちは」


男は爽やかな挨拶とは反する機嫌の悪そうな顔をしていた。

手には美しい花束を持っている。


それを無言で凛桜に差し出した。


「綺麗……ありがとうございます」


「…………」


相変わらず顔の表情は硬い。


「クロノスさん、どうしたんですか?」


「…………」


と、急に凛桜に近づき首元の匂いを嗅いだ。


「い……いきなり何するんですか!」


凛桜は飛びのいた。


「わりぃ……。

いや俺の張った結界が見事に破られて、蛇臭い匂いが

そこら中にしていたから、またあいつが来たのかと……。

いや違うな、この前の奴より強力な蛇族が来ただろう」


「あーえっと、うん来たかな。

息子さんを助けたお礼に来てくれたみたい。

ただそれだけですよ」


なんでこんな言い訳しているんだろう私

別にやましい事なんかないのに。


「やっぱり、来ていたか……。

どうもワザと痕跡を残しているふしが

あるのが気に食わねぇ。

挑発されている気分だぜ……」


クロノスは苛立ちからなのか、尻尾を上下に上げ下げしていた。


ふと凛桜は白蛇が不敵な笑みを浮かべながら言った

言葉を思い出していた。


「あんな軟弱な結界などへでもないわ」


言えない、そんなことクロノスさんには言えない。

やっぱり種族によって色々関係性が難しいのかな。


「蛇族と仲が悪いの?」


おそるおそる聞いてみた。


「いや……ほとんど交流はない。

蛇族は謎の多い種族だ。

それなのに俺のお気に入りの場所に入ってくるのが

気に食わない……」


えっ?いつのまにうちの家はクロノスさんのテリトリーに

なってしまったのかい?


()()()()()()なのに……」


ギリィィッィと歯ぎしりしながらとんでもない事を

口に出していた。


凛桜はボンっと音がでるくらい真っ赤になっていた。


そんな様子をみてクロノスも自分がいかに恥ずかしい

大胆な発言をしたのかに気がついた。


「いや……そのそういう意味じゃなくて。

違うな……いや…違わないか……その……俺何言ってんだ」


大の男が信じられないくらいしどろもどろになって

真っ赤になって狼狽えていた。


「えっと、凛桜さんは今、何をやっていたんだ?

何かの作業の途中だよな」


かなり強引に話を打ち切るクロノスだった。


「…………」


やっぱりだめか?

という様にびくびくしながら……

獣耳を横にへにゃっとさげてちらっとこちらの様子を

窺っているのがちょっと可愛い。


「干し柿と言うものを作っています」


「カーキモーネか、俺達も山の中に生っているものを

よくとって食うわ」


そう言って、籠の中にある渋柿を手に取り齧り付いた。


「あっ!それは」


凛桜が止めようとしたが一歩遅かった。


「渋い……、まずっ……まずい……」


舌を出しながら渋みとエグさにクロノスは悶絶していた。


「それは渋柿という種類で、生では食べないものなんです」


「罠かよ……。ちょっとした兵器だぞこれ」


涙目になりながらクロノスは、まだ舌を出していた。


「今口直しに何か持ってきますから、待っていてください」


凛桜は急いで台所に食べ物を取りに行った。




シャリシャリシャリ……。

凛桜が柿を剥いている横で、クロノスはカステラを頬張っていた。


「これ旨いな……。

下の茶色い部分に入っている砂糖の粒がじゃりじゃりするのも

たまらないな……」


そう言いながら、牛乳と共に一本食べつくしてしまった。


「ふぅ……生き返ったぜ」



凛桜は2個で1組になるように柿の軸にヒモの両端を結んでいた。


「器用だな……。俺も手伝うぜ」


「私はお湯を沸かしてくるので、残りも同じように

お願いしてもいいですか?」


「おう、任せろ」


そして、グラグラと沸騰した鍋に柿を数秒入れて引き上げる

作業をはじめた。


「こうすると、カビが生えにくくなります」


「細かい作業がいるのだな」


そしてクロノスの背の高さをいかして、すべて軒先に

吊るして貰った。


「こうしてみると圧巻だな。

いつ頃食えるんだ、これは」


「そうですね、早くて三週間後くらいですかね」


「楽しみだな」


満足そうにその景色をみていた。


(食べる気満々かよ……)



そしていつもの如く夕飯を食べるべく食卓に陣取っていた。


「今日の飯はなんだ?」


お前は旦那か……。

まぁ、出さないと帰らないので作りますが……。


「今日は、鶏ときのこのだし炊きごはん。

たことさやいんげんのごまマヨサラダと豚汁です」


「おぉ……旨そうだ、頂きます」


遠慮を知らないのだろうか、ご飯3杯、豚汁2杯

お替りをして、デザートに梨を3つ食べて帰っていったわ。


もちろん今日もお弁当もせがまれた。


メニューは、白ご飯に角煮、煮卵、ブロッコリーに赤パプリカ。

デザートにカステラを1本つけた。


「くれぐれも蛇族には気をつけろよ。

油断すると色々な意味でペロリといかれるからな」


そう言ってまた庭の奥に消えていった。


色々な意味でペロリって一体……。

あんたのご飯ペロリも相当だと思いますけど……。




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