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休息時間だけど休めない

 口元に柔らかい感触を感じ、意識が半分浮上する。しかし、何かが抜け落ちた感覚のあとに強烈な眠気がやって来る。

 意識がゆっくりと降下して行く。

 この感覚は何なのかと、考える事すら億劫だ。

 でも、この抜け落ちる感覚が――何なのか、判る。否、覚えている。同時に、ほぼ停止している思考が『危険』と警報を鳴らす。

 この感覚が危険である理由はただ一つ。

 そう、霊力が体外に抜き取られて――いや、奪われているが正しいか。

 ここまで思考が回ると、意識が再浮上する。指一本動かす事にすら異様に気力を消費する状態で、やけに重い瞼を上げに掛かる。

 ――眠い。

 瞼は重く、思考は鈍い。再びやって来た抜け落ちる感覚が危険を訴える。

 身動ぎしても、体が全く動かない。それが解り、我が身の危機と理解する。

 時間をかけて瞼を持ち上げ、焦点が合わない距離に誰かの顔が在る事に気づいて、眠気が一気に吹き飛んだ。

 眠気が飛んだ事で、一瞬で現状が理解出来た。

 抜け目のない野郎共だ。声を上げたいが口は塞がれている。両腕は頭上で拘束されているのかピクリとも動かない。あと両足も。つーか、怠い。

 せめてもの抵抗として、篭った声を上げていると、愉快そうな声が聞こえて来た。

「何だ、もう起きたのか?」

 この声は金の魔王か。そうなると今、自分の上に乗っているのは白雷か。

 暫し抵抗を続けたが、酸欠に陥り意識が別の意味で遠のく。

 更に時間が経過して、やっと解放された。酸素が美味い。両腕と両足は重くて動かないけど。

「ぷはっ、ぁ、はぁ、はぁ……」

 息が整うまで時間が掛かった。酸欠で視界が涙で潤む。涙目で自分を見下ろすように向き合う白雷を睨み、疑問をぶつける。

「結界を張っていた筈だけど」

「短距離転移の応用だ」

 目を逸らして即答する白雷に、自分は目を眇めた。

 敵地での睡眠と言う事で護身結界は複数展開した。更に結界内に己以外の人物が現れれば術者に警告が行くように設定した。最後に展開した結界の範囲は狭く『己を中心に三十センチ程度』の隙間しかない。鎧を身に着けていなくとも『体格差』で隙間に入れない筈。

「……それだけじゃないでしょ?」

 他に何をやったと、暗に問えばやや間を置いて回答が返って来た。

「体の一部だけを幽体化させている」

「おい」

 何故そんな器用な事が出来る? いや、そこまでして、

「霊力の強奪ってそんなに重要か?」

 ため息と共に疑問が零れる。

 魔族にとって霊力は『忌むべき力で在ると同時に己を強化する糧』でも在る。

 霊力を強奪し続けて強大な存在になった青の魔王は更なる高み求めて、霊力を求める。故に、霊力を持つ自分は常に狙われる。

 嫌な方程式にはため息しか出ない。

 しかし、自分の疑問は魔族にとっては『異様』に見えたのだろう。白雷が目を丸くしている。

「転生者だとは知っていたが……前世でも魔族に襲われた経験が有ったのか」

 金の魔王の台詞に嫌な過去を思い出し、内心舌打ちをする。

 思い出したくもないが、霊力に目覚めたての頃に魔力を封じられて『監禁』された事が有る。監禁したのは魔族だ。自分の霊力量は異常で『他の魔族に奪われないように』と閉じ込められたのだ。

 当然そんなものは建前で、真の目的は独占だった。

 この時はマルタを始めとした四人のメンバーと共にいたので、色々と『失う』前に救助されたが、当面の間、男に近付かれたり触られると鳥肌が立つようになった。

 実に嫌な思い出である。

 幾重にも展開していた障壁を解除し、白雷の後頭部辺りに衝撃波を見舞う。両足の拘束が緩んだ。両膝を抱えるように引き寄せ、押し退けるように両足揃えて、白雷の腹を押す。展開していた障壁は既に解除したので存在しない。故に白雷の傾ぐ体を支える壁はない。傾いだ体はそのまま横に倒れ――なかった。

 頭上で行っている両腕の拘束は片手で行っていたのか、空いた手をベッドに着いて体を支えた。

「ちっ」

 腹が立ってので周囲に聞こえるように舌打ちをすると、足音が響いた。この部屋で立っている人間は金の魔王のみ。

 連続で霊力を奪われては流石に支障が出る。拘束から逃れようと身動ぎすると、意外な事に両腕の拘束が外れた。

 予想外の事に驚いていると、白雷がベッドから降りた。慌てて起き上がり身構えると金の魔王が『待て』と声を上げた。

「説明する。だから待て」

「何の説明?」

「こいつにお前の霊力を奪わせたのには理由が有る」

 思っていた以上に低く出た声に、金の魔王は脂汗を掻きながら『済まん』と謝罪の言葉を口にした。



「青の魔王を斃しても、派閥を解体するまでに残存を纏め上げる奴が必要になる」

 部屋に備え付けられて在ったソファーに移動し、対面で腰かけてからの魔王の第一声だった。

 ちなみに、ベッドに腰掛けたままだと、残りの女衆がやって来た際に『勘違いされる』と主張し、怠い体を引き摺って移動した。マルタの拳の恐ろしさを身を以って知っている白雷の顔色が少しだけ悪くなったのは、当然だろう。

「その纏め役をエクレールが引き受ける」

「それと霊力強奪と何の関係が有るの?」

 残存勢力がまた同じ事を仕出かす可能性は無いとは言い切れない。そこで、解体が終わるまで外部の奴が抑え役として魔王の座を占める。

 この役を白雷がやるのは分かる。分かるけど、

「俺に後れを取る立ち位置で『役が熟せるか』分からぬ。だが、確実に熟して貰う必要が有り、お前の霊力に目を付けた」

「つまり、今以上に強くなって貰わないと仕事が務まらないから、同意なしで霊力を求めたと?」

 簡単に纏めると魔王が頷いた。

「そうだ。事後説明になるが、同意の上で霊力譲渡が出来るとは思えん」

「そうでしょうね」

 いかに事情が有ろうが、魔族に霊力を譲渡する事は有り得ない。

 手を組んでも、相手は魔族。警戒だけは怠ってはならない。こいつらはそう言う奴らなのだ。

 魔族と手を組んだ経験もないので、こうとしか言えない。

「しかし、思っていた以上に霊力量が多い。青の魔王に捕まったら、死ぬまで監禁は確定だろうな」

「断言出来る量なの?」

「ああ。粒子になる程の霊力量だから多いとは思っていたが想像以上だ」

 男共の会話に、正に監禁されかけた過去を思い出して鳥肌が立った。あれは嫌な思い出だ。

「流石に監禁は御免被りたいな」

 鳥肌が立った腕を擦りながら答え、魔族の霊力の奪い方を思い出して顔を顰める。



 男二人を追い出して改めてベッドに寝っ転がり、扉越しに微かに聞こえた打撃音と呻く声で、すっかり忘れていた事を思い出した。

 シルヴェストル達はどうしているのか。

 ま、探す当ても無いから色々と建て直しを優先していそう――いや、やっているだろう。他にやる事が無いのだから。

 終わったら顔を出そう。何度も捜索されては迷惑だし。

 息を吐いて目を閉じる。胸に手を当て霊力の残量を確認する。……あの野郎、結構な量を持って行ったな。

 霊力は魔力と同じで休息を取れば時間の経過と共に回復する。しかし、漫画で良くある『ポーションなどの回復薬』を飲んでも霊力は回復しない。

 それに、霊力に関しては未だに謎が多い。

 男衆の内、三人と再会した時に『霊力の状態の違いの原因』について判明したが、流石に今回一緒にいる女衆三人には話せなかった。

 生まれ付きの保持者と後天的な保持者の違いの差は余りにも大きい。後天的に得る場合に払う対価を考えると、差が開いて当然。

 自分以外の他の九人も霊力を得る方法は確かに存在すると判明したが、その方法は、はっきり言って勧められない。

 自分の場合は偶発的なのかすら判らないのだ。他の九人も同じような状況に陥ってから話した方が良いのか、実に悩む。

 ため息を吐いて思考を無理矢理中断させた。



 霊力が回復するまでしっかりと休息時間を取ったあと、霊力を込めた鉱石を準備。マルタと合流し籠手を借り受け、鉱石を邪魔にならないように取り付ける。実際に装着して微調整をし、完成した。

 身長差の誤魔化しは出来ない事はないが、魔力は温存しておいた方が良いと判断して行わない。

 マルタにお揃いの黒コートを着せてフードを被らせる。本人は嫌がっていたが、我慢して貰った。

 代わりと言っては何だが、青の魔王を気の済むまで殴って良いと、本人に無断で許可を出す。

 騒動の元凶だから、フルボッコにされれば皆喜ぶだろうね。

 さて、遂に始まる『魔王との共同戦線』はどんな結末を迎えるのだろう。

ここまでお読み頂きありがとうございます。

やや短めですが、合間の話しです。

菊理の男嫌い設定を主要登場人物に付け加えるか悩む一コマで、何気にR紛いが混ざっている。

マルタが確り〆ているので再犯の気配は今のところ無し。

次回いよいよ青の魔王との決戦?になるかと思います。マルタ無双か、突っ込みの嵐かその両方か。

時間が空くと思いますが、投稿時にはお読み頂けると幸いです。

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