魔王退治をサクッと終わらせたら、追放、後に仲間と再会。
打ち合わせと言うには色々とグダグダだ。そもそも、打ち合わせらしいものはしていない。王子を含む四人の名前は『事が済んだら二度と会わないだろう』と判断して、一度聞いたがすぐに忘れた。加えて、言い難いから短く呼んで良いかと聞いたら心底嫌そうな顔をされたから、覚える気力も無くなった。
こうして、僅か二時間の準備時間で魔王退治に向かう羽目になった。移動は『シル何とか』って言い難い名前の藤色の髪の女顔の男が使う転移魔法を使った。移動先に目星は付いていたらしい。足りないのは戦力だけだった。
早く帰りたい一心で、道中の魔族を薙ぎ倒した。
青い髪に赤い目の魔族が魔王だったらしいが、憂さ晴らしのように暴れていたら、側近その一に向かって放った攻撃魔法の余波を受けて消滅した。魔王にしては、あっさりとした退場だ。
魔王と側近を全滅させれば、魔王のねぐらだった城は大騒動となる。自分達に気を掛ける余裕が無い程に混乱している事を確認してから、行きと同じように転移魔法を使って帰還した。
そうそう、同行者の四人は役に立たなかった。四人掛かりで一体しか相手に出来ないって、戦力不足にも程度が有る。
唯一、としか言いようの無い幸いは『救助対象の王女が気絶したまま』だった事だけだ。話を聞いた限りになるが、我儘馬鹿娘としか思えない女が道中静かなのはありがたい。勿論、宥める手間が省けた、と言う意味だ。
四半日足らずで城に戻ったけど、一難去ってまた一難。
元の世界に戻してくれるのかと思えば、それは出来ないと、同行者の王子に言われた。追及を中止させた神官が血相を変えた。
更に、こいつの父親のクソ王から、『平民の身で名誉ある一戦に関われたのだ。それが貴様への褒美だ。疾く、城から去れ』の言葉と共に、転移魔法を利用した方法で、謁見の間から遠方の森の中へ、問答無用で放り出された。
「――は」
暫し呆然としたが、そんな声しか出なかった。
労いの言葉すら無く、望まぬ過程を褒賞と言われた。
こんな馬鹿げた事は無い。たまにいる貴族みたいに、平民を見下す屑が王だったのか。それとも選民思想が根強いのか。
近くの木の根元に座って凭れ掛かり、枝の隙間から見える空を眺めた。
「はぁ~……、どうしよう」
色々と気力が尽きた。やる気が出て来ない。別の世界に来てしまった。これからどうしようか。
何となく別の世界に来た『何時もの癖』で、道具入れから羅針盤を取り出して、ぼんやりとしながら指針に視線を落とす。バタバタしていて忘れていたが、羅針盤を使っていない事を思い出した。
早速、羅針盤に魔力を流して見ると、三つの反応が出た。
「あれ? 割と近くにいる」
偶然か、幸運か。
誰もいないようなら、この世界に来る前に準備を終えたロザリオを取り出そうかと思っていた。でも、誰かいるのなら会って見よう。少し久し振りだしね。
軽い気持ちで誰かがいる方角へ空を飛んで移動する。気づかなかったけど、この世界の空は緑色掛かっていた。日が傾いて、夕方になると空は赤くなった。この辺りは同じか。今になって気づいたけど、日の傾き具合から考えると、召喚された時刻は午前半ばだった模様。
移動を続けて再会したのは、パーティーメンバーで自分以外の女性陣、ルシア、ミレーユ、マルタの三名だった。三人揃っているところを見るのは久し振りだ。最後にこの三人が揃っているところを見たのは――いや、思い出すのは止めよう。三人揃ったのは久し振りだが、個々に会った回数は揃った回数よりも多い。
空から声を掛けて地面に降り立つと、夕食の支度中だった三人は非常に驚きの余り動きを止めた。
「「「何でいるの!?」」」
第一声はこれだった。確かにそう思うよね。
三人を落ち着かせて、流れ的に一緒に夕食を食べながらこれまでの経緯を説明する。
「死ぬべきよ。そのクソ王」「王を僭称する、喋る豚か何かか?」「控えめに言って、ゴミですね」
本人がいないのを良い事に、三人揃って言いたい事を言った。身分制度と不敬罪が存在する世界では問題発言となる。ここには自分達四人以外に誰もいないからの発言だ。発言した三人もそれは解っている……筈だ。
「ここにいない豚はどうでも良い」
ルシアが仕切り直しの発言をした。他の二人も頷いている事から、ここに問題の王がいない事を理解しての発言だった模様。
「そんな事よりも――良くやった。凄いぞ」
「――ぇ?」
居住まいを正してから、ルシアはそんな事を言った。何と言われたのか。一瞬、理解出来ずに呆然とした。
「そうね。短時間で魔王退治をしたんだもの。疲れたでしょ?」
「確かにそうですね。最初に言うべきでした」
続いて二人からも、この世界に来て初めて『労いの言葉』を貰った。それを、今更ながらに理解した。
「ククリ?」「ちょ、どうしたの!?」「え?」
「何でも無い。終わったんだなぁって思ったの」
気が抜けたのが顔に出てしまったのか。三人が同時に狼狽えた。何でも無いと言っても、心配そうな顔をされた。
「そんな事よりも……。マルタ、その雉の肉、美味しい?」
「ええ。美味しいですよ。」
マルタ手製のシチューの具材の一つに、食べる機会が無かった『喋る謎の雉の肉』を使用している。最初に食べたマルタが満面の笑みを浮かべている。
「「ククリ、その質問の意味は?」」
食べても問題の無い肉だった事を確認していたら、ルシアとミレーユから疑惑に満ちた視線が飛ぶ。
「鑑定魔法で調べたけど、野鳥の肉だよ」
「何故鑑定魔法を使った?」
「絞めて解体して、不要な部分を焼却処分するまで、変な鳴き声を上げていたの。焼いたら『アツイ』って喋り出したの」
ルシアの質問に答えると、視界の端でマルタが吹いた。それを視界に収めて、ミレーユはパンを食べた。
「……それは調べるわね。でも、鑑定結果が『野鳥』だったんなら、問題は無さそうね」
「マルタに毒見をさせる事になったが、問題無いなら良いか」
二人揃って納得するなり、マルタから視線を逸らしてから謎肉を食べる。自分も一切れ食べる。
「美味い」「想像以上に美味しいわね」
二人の感想通りに、謎の肉は美味しかった。雉だと思っていたが、食感は鶏肉と変わらず、噛むと濃厚な肉汁が出る。
「待ちなさい。私に何か言う事が、言うべき事があるでしょう」
「在ったか?」「無いわ」「ん~、ごめん」
ルシアとミレーユは『無い』と言い張ったが、自分は謝った。マルタは怒ったけど、どうにか宥めて食事を再開させた。
賑やかな食事風景。どれ程の時間が過ぎ去っても、色褪せる事も無い。
……もう、元の世界に戻れなくても、良いかな?
そんな気がして来た。戻ったら、確実に嫌な仕事が待っている。職業・女王とか、やりたくないし。
家出同然に国を出てから十日後。別の世界に聖女として召喚されて、数時間程度の準備時間で魔王退治に出発して、そこから四半日程度で魔王討伐をやり遂げて戻り、城から追い出され、そして今に至る。
恐ろしい事に、召喚されてから一日どころか、半日も経過していない。何のリアルタイムアタックだよ。RPG系のゲームでも無い限り、こんなボスキャラ撃破のタイムアタックなんてやらないし、何も得なかった。
けれど、その果てにこうして仲間と再会出来たのだから、本当に人生はどうなるか分からない。
ささやかだけど、この再会が一番の褒賞だ。
マルタの手料理を食べながら、幸せを噛み締めた。
Fin
ここまでお付き合いいただきありがとうございます。
前日譚完結です。
元々、超短時間で魔王退治が行われた予定で本編も書いていました。前日譚を書きながら改めて時間割を考えると、六時間経過していなかった。菊理の鬱憤晴らしの戦闘が凄まじく感じる一幕です。
本作品『転生したら、異世界召喚被害に遭った』はこれにて完結となります。
読んで下さった方、感想を送ってくれた方、誤字脱字報告をして下さった方、皆様ありがとうございました。