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エピソード:44 浦島次郎の場合 その1

 ぼくは浦島次郎、16歳。高1男子。釣りが好きです。女の子は、嫌いじゃないけど、怖い人が多いです。男の子でも怖い人はいるけれども。


 次郎って名前からわかるだろうけど、兄がいます。年が離れてて、もう社会人。父は釣りを兄にこそ仕込みたかったみたいだけど、強く勧め過ぎたみたいで敬遠されて、そんな落ち込んでる父を慰める為ってわけじゃないけど、自分には向いてたみたいで。

 あ、父は平凡なサラリーマンです。出世レースからは早々に脱落したっていうのが口癖です。釣りの方が大事だったからというのは脱落した後から始めた趣味みたいなんだけど、母からはそっとしておいてあげなさいと言われてるので、いつも聞き流してます。


 デスゲーム。困りました。弱りました。棄権するから元の世界に戻れないか、どうにか手段は無いのか、釣りの神様にすがりついてみたんだけど、勝者になるしか手はないと言い切られてしまいました。


 う~ん、妹になんて説明すればいいんだ。もう話せる機会なんて無いんだろうけど。


 抽選会場では、予想通りというか、顔見知りの女の子達に囲まれた。誰か一人を特別扱いも出来なかったので、釣りの神様と打ち合わせてた通り、南方諸島の方の白い霧に駆け込んだ。


 脳内でルーレットが回って、無限収納ってのに当たった。何も選べずに会場を後にしてしまったから、何かもらえたのはうれしかった。


 出た先は、リュフ・イ・エ公国の港町ヴェローニ。幸い、他に生徒はいなかったみたいで、釣りの神様と相談して、釣りをしながら過ごした。見たことも無い魚達を釣れるのは楽しかった。本来なら自分の釣ってたポイントからは釣れる筈が無い珍しい魚もかかってたから、あまり目立ちすぎないように釣りをする場所は頻繁に変えてた。


 デスゲームって言われても、自分が誰かを殺せるとも思えなかった。釣りの神様も、自分らしくしてればいいさと言ってくれてたので、日々ほとんど釣りしかしてなかった。


 誰か持ち主がいなくなったメダルでも釣れないかな~、と思って釣り糸垂らしてたら反応があって釣れた時はものすごく驚いたけど、二枚目とか三枚目はまだ釣れてない。ただの釣り竿じゃないんだなというのが分かったし、そんなに幸運は続かないのも分かった。


 お金を稼ぐ手段として、漁協というか、釣り師ギルドみたいなのがあって、そこで珍しい魚をそれなりのお金で買い取ってもらえたのはラッキーだった。どこで釣れたんだって質問には、秘密ですとしか答えられなかったけど。

 釣りの神様の助言で、麦藁帽子に仮面みたいな、ほとんど顔を隠すような真似をしてたのは保険だった。


 そう。気をつけてた筈、なんだけどね。


 その日は、ヴェローニの港から少しだけ離れた岩場で自分一人だけだったから、仮面は外して釣りをしてた。その時はたぶんだけど、なんか珍しい魚でも釣れないかな~、とか考えてしまってたんだと思う。それがいけなかったんだろう。


 なんか大きな当たりが来たので竿を引き上げてみたら、釣り針の先に人魚がかかってた。向こうも驚いてたけど、こっちも驚いてた。

 彼女、えーと、童話に出てくるような人魚姫?みたいな?貝殻のブラジャーじゃないよ。陸に住む人達のとは違うっぽい素材の服を着てて、腰のベルトに釣り針が引っかかってた。


 釣り上げられた人魚さんの全長は、ぼくの身長よりも高かった。で、釣り上げられた時の勢いで放物線を描いてた彼女にぼくは押し倒された。


「あなた、どこの誰?私は海中航行船の船内にいた筈なのに、あなたはどうやって私を・・・」

「ぼくにもわかりません。ここで普通に釣りしてただけですから。とりあえず、体の上からどいてもらえるとうれしいですけど」


 その人魚さんはサファイアの様に青く輝く髪をしてて、顔の造形は、彫りの深いハリウッド女優さんとかが近いかな。

 瞳の色はコバルトブルー。睫もすごく長くて、彼女はぼくの上からどくどころか、両頬に手をあてて至近距離からぼくの顔をいろんな角度から眺め回した。

 うん、知ってる。これは、品定めされてるんだって。似たような体験はこれまで何度もしてきたから、ぼくは自力で彼女の下から這い出ようとしたけど、彼女の方が力が強くて、逃がしてもらえなかった。


「あなた、合格よ。喜びなさい。ウォルパール王国王女シュリエータがあなたに婚約を申し込むわ」

「ごめんなさい。お断りします」

「あれ、うれしすぎて、混乱してる?あなたは私の申し出を断れないの」

「イヤです」

「とりあえず、ここがどこかって、ああ、ヴェローニの近くね。船もやってくるだろうからひとまず合流して」

「人の話をちゃんと聞いて下さい!」

「イヤよ。あなたは私の所有物ものになるの。うれしいでしょ?」

「全然」


 それから海に連れ込まれて、彼女の虜囚となり、館に閉じこめられ、散々な目に遭った。デスゲームどうこうじゃなくて、こんな交通事故みたいな何かで終わりにさせられるのかと絶望的な気持ちになりながら日々を過ごしてたけど、助けが唐突に現れた。


 クラスメイトだった水野舞さん。南方諸島掲示板で一番話題に上ってた人。

 教室内だと特に接触は無かったけれど、泳ぐのが好きな人って噂だけは何故か知っていた。助け出されて、広間みたいな所でシュリエータ姫の配下の兵士達を水を操作して捕らえてて、ああ、やっぱり強い人だったんだなぁという印象を受けた。どんな神様の加護を受けるかなんて、当たり外れを含めて運でしかないのだろうけど、でも、ぼくが釣りの神様の加護を得た様に、水野さんが水の大神の加護を得たのは、偶然ではなく必然にも感じた。


 それから数日はシュリエータ姫のお兄さんオルルッカ王子とロマオさんの妹のラ・ルジュレさんの婚約締結の為に地上に残る筈だったのが、その妹さんにもぼくは婚約者にと望まれたりして、散々な日々を過ごした。


 なし崩し的に、その妹さんも一緒に、ウォルパール王国の王都へと行く事になった。シュリエータ姫も後から追いついてきて、水中の旅はまた騒々しかったけれど、生体機械みたいな潜水艦?による海中の旅は神秘的だったし、巨大なクラゲの体内に築かれたウォルパール王国の王都には驚かされた。


「このクラゲ、大きすぎない?」

「頭頂部から脚の先端部までは1キロ以上あるそうです。体内に立体的に築かれた王都には十五万以上の魚人や人魚達が暮らしております」

「桃色の半透明な生ける都って、幻想的で綺麗ではあるけど、危なくないの?」

「ウォルパール王家の秘伝魔法で制御されておりますので、ご心配には及びません」


 地球の海の生物も想像がつかない姿してるの多かったけれど、この生ける王都ジュクシーは想像を遙かに越えてた。

 体の部分の直径も4、500メートルくらいはあって、その中は水に満たされたエリアと地上と同様に生活できるエリアに分かれてた。主な理由は地上種族来客達や、後は地上風の料理と飲食の為らしい。確かに、無重力状態というか水中だと全部混ざっちゃうし、火も使えないしね。


 水野さんは、時々メダル狩りに外出して、ぼくも時々同行させてもらった。メダル狩りそのものよりは、地上同様に生活できるエリアで一応釣りも出来るのだけど本来は推奨されない行為らしくて、水中と水上を航行できる船に乗せてもらって、海上で釣りを楽しむ為だった。


 その何回目かで、自分の釣り針に海の王とも呼ばれる海竜ウルカディアをひっかけてしまい、水野さんが大立ち回りを演じて、デスゲームに協力してもらえる事になったり。ただ、立場的には、釣り上げたぼくに協力するって事で、水野さんにはぼくの協力者って事で援助するらしい。負けを認めたくな・・、いや、なんでもないから睨まないでほしい。人間の姿になれるのはいいんだけど、怖いんだよね。。


 そして、最初の一ヶ月が過ぎようとしてた頃。その日も海上で釣り糸を垂らし、何か、水野さんの力に、ぼくもなれるような何かが欲しいと願ってたからか、釣り上げたのは、なんと、校長先生だった・・・。


「こ、校長先生・・・」

「君は、えーと、浦島君だった、かな?」

「はい、そうです!良く覚えておられ、あ、失礼しましたすみません!」

「いやいいよ。自分がキャンプ先の川沿いで釣りをしていたところで偶然会ったのを覚えてただけだから」

「ああ、自分ももちろん覚えてますよ!あの時さばいてその場で焼いて下さったイワナ、美味しかったです!」

「うんうん、そうだったな。さて、と。浦島君。君は、このデスゲーム、どうするつもりかね?」

「どうする、って、自分は、釣りの神様の加護を得たので、お世辞にも戦闘向きじゃないです。ただ、たまにメダルを釣り上げられる事もあるので、それでランダム対戦をしのいでいけたらいいなぁ、と思ってるくらいで・・・」

「最終的な勝者になるつもりは?」

「とてもとても。でも、もしかしたら勝者になれるかも知れない水野さんを助けられるくらいには、なれたらいいな、とか、都合良い事は考えてたりしますけど、無理だとあきらめてます」


 校長先生は、とても落ち着いていた。それまでどこにいたのか知らないけれど、見知らぬどこかにいきなり釣り上げられ(転移させられ)たのに。

 偶然の出会いからお互いの記憶に残ってはいたけど、普通の高齢者、になりかけのおじいさん校長というあだ名は正しい感じはしてたし。

 なのに、今は、ちょっと怖いくらいの何かを感じた。うまく説明できないのだけど、圧迫感というか、校長先生に加護を与えた誰かの影響だろうか。


 気になってしまったので、聞いてみた。

「そういえば、校長先生は、どの神様から加護を得たんですか?」

「今の主神だよ」

「今の主神、って、もしかして始業式で姿を見せてた」

「そう。それでね、浦島君。取引をしようじゃないか?」

「取引、ですか?でも、ぼく、ほとんど何も持ってないですよ?余分なメダルだって、たった一枚だし」


 結論から言うと、ぼくは、校長先生、というか、たぶん、確率の神様からの取引の申し出を断れなかった。

 誰かを殺したくはないけど、同じくらいに、死にたくもなかったし、どっちつかずのままこのデスゲームをやり過ごせるなら、それが一番の望みだったし。

 いや、一番の望みは、ちょっと違ってきてたかもだけど・・・。



 最終的には、水野さんとも相談して決めた。

 水野さんは南方諸島を巡って大半のメダルを回収して、最大の敵はメダル獲得数トップの七瀬さんだと認識してたし、彼女が校長先生のメダルを狙いに来る可能性も指摘してたから。

 彼女が狙いに来るとしたら、ランダム対戦までのタイミングまでだし、距離を無視した移動系スキルを持ち合わせてるというのも事実みたいだったから、ほぼ選択肢は無かったとも言える。


 そう。ぼくらは自分達で選択したのではなくて、運命に、いや状況に選択させられたのかも。その運命とか状況が誰に作られたものかというと、最終的には、やっぱり・・・


短めですが、本年最後の掲載になります。ご愛読頂いてる皆様ありがとうございました。

来年もまたよろしくお願い致します。

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