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第46話 開かない缶

 無事に目当ての缶を見つけた琴音たちは、施設部長の田辺に礼を言って「おおえ山」へと戻ってくる。


 車の中でも琴音はその缶を開けようとしてみたけれど、やっぱりびくともしなかった。人型に戻った阿空も開けようと試みてくれたが、彼ですら開けることはできないようだ。


 この缶の中に何か大事なものが入っているのかと思ったけれど、振ってみても相変わらず何も音はしない。


「もしかしたら、持ち主しか開けられない術みたいなのがかけられているのかもしれない」


 と清史郎が言うので、とりあえずそのまま時子に渡すことにした。


「おおえ山」へ戻ってみると、


「おかえりさん。大変やったんやで、掃除すんの」


 と善治がげんなりした様子で出迎えてくれた。

 ホールへ行ってみると、あの小麦粉まみれだった室内がすっかり綺麗になっている。


「一人で掃除しといてくれたのか?」


 驚く清史郎に、善治は肩をすくめる。


「あのまんまにしとくわけにはいかんやんか。この部屋以外に広がったらさらに掃除が面倒やし。ほら、時子たちならそこにおんで」


 時子は豆福といっしょにテーブル席の一つに並んで座り、二人で折り紙をして遊んでいた。


「おかえりさんどす」


 豆福が言うと、彼女の隣にちょこんと座っていた時子も顔を上げた。

 もう涙のあとはすっかり消えている。

 琴音は腰を屈めると、手に持っていたあの缶を時子の前におそるおそる差し出した。


「ごめんね、時子ちゃん。あなたの大事なものは、これであってるかな」


 時子は小さな両手でその缶を受け取ると、缶をぎゅっと抱きしめるようにして見つめる。

 もし違っていたらどうしよう。また悲しませてしまったらどうしよう。どきどきしながら琴音は時子の反応を待つ。清史郎たちもじっと成り行きを見守っていた。

 しばらくして、じっと缶を見つめていた時子の口元がニッと横に広がる。

 そして琴音を見上げると、


「ありあとー。これ、時子のだいじなの!」


 にぱっと満面の笑顔で笑ってくれた。

 子供らしい、とてもあどけなくてかわいらしい笑顔だった。


「よかったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 琴音は、声とともに安どのため息を漏らす。清史郎たちにも、ほっとした空気が広がった。

 時子はよほどうれしかったのだろう。缶を持ったまま頭にのせると、きゃっきゃっと足をバタバタさせた。


「でも、これ開かないの。ずっとそうだったの?」


 缶が戻ってご機嫌な時子に尋ねると、彼女は髪を振り乱してぶんぶんと首を横に振る。


「あくよー。こーやってやるの。みててね!」


 いったんテーブルの上に缶を置いてから、後ろ向きになってよいしょと椅子から降りる時子。降りた後にテーブルの下から缶へ手を伸ばすが、背が低くて届かない。

 見かねた豆福が手渡してやると、時子は「ありあと」と笑った。ありがとうと言ったつもりのようだ。


 そして時子は左腕で抱え込むように缶をしっかり持つと、右腕全体を使って蓋を回す。阿空ですら開けられなかった缶なのだ。とても時子のような小さな子の力では開きそうにないと思ったが、意外にもするりと蓋はとれた。


 清史郎が言っていたとおり、時子にしか開けられない術がかかっていたのかもしれない。


 缶を覗くと、中にはくしゃくしゃに丸めた生成り色の布が入っていた。

 時子はそれを大事そうに取り出す。

 慎重に布を開くと、中から割れたガラスの破片がいくつか出てきた。


「……これが、時子ちゃんの大事なもの?」


 琴音の言葉に、時子はその割れたガラスを見つめたままコクンと頷く。


「時子が、かあ様にもらったの。でも、ずっとまえにおとして、こうなっちゃった」


「風鈴、って言ってたっけか」


 と、清史郎。再び、時子はこくんとうなずく。


「まえは、ちりんちりんてなってたの。かあ様のこえみたいに、やさしくちりんちりんって」


 時子は静かな目で、その割れて原型をとどめていない風鈴を眺める。

 

「直せたらええんやろうけど、ガラス細工を直せる職人さんなんてどこに……」


 と、豆福が言ったところで琴音が「あ!」と声をあげた。


「いるじゃない! ガラスの職人さん!」


 琴音の言葉に、豆福も「あ、そうやわ」と思い出したようだった。


 前にこの「おおえ山」に行き倒れ寸前でたどりついた人間の客がいた。

 彼がたしか、売れないガラス職人さんをしていると言っていたのを思い出したのだ。売れないが、腕には自信があるとも言っていた。


「私、たしか名刺もらってました! ちょっと連絡してみますね!」


 バタバタと自室へ戻る琴音。盛り上がる大人たちを他所に、時子は大きな目をまん丸くさせてきょとんと見上げていた。


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