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第42話 荒っぽすぎません!?

「な、なにこれ!? ……子供の声?」


 わんわんと大声で泣く子どもの声が辺り一帯に響いていた。

 慌てて屋敷に戻ると、ちょうど玄関から慌てた様子で飛び出してきた清史郎と出くわす。


「なにがあったんですか!?」


「いや、俺にも何があったのか、さっぱり……。こんなこと初めてだ」


 と、彼もわけがわからず困惑しているようだ。

 その間も、泣きわめいているような声はますます強くなる。


 声は屋敷の中を泣きわめきながら移動しているようで、さっきまで屋敷の左側の個室があるあたりで声がしていたかと思うと、いつの間にか二階から声がするといった具合だ。


「今度はあっちの方から声がしますね」


「行ってみるか」


 二人で二階へ行ってみる。どうやら泣き声は琴音たちが普段使っている部屋の中からしていているようだ。おそるおそるドアを開けてみたけれど、部屋の中を見回しても誰もいない。


 ただ声だけがまるで部屋の中をぐるぐる走り回っているかのようにわんわんと反響していた。そのうち、姿の見えない泣き声は二人の間をすりぬけて部屋を出てしまう。そして階段を降りて一階へ行ったようだった。声を追いかけているうちに善治と豆福、それに阿空も集まってきた。


「なんなん、これ。えらい、甲高い声やなぁ」


 善治はうるさそうに手で耳をふさいでいるが、そうすると彼の声も普段より大きくなるのでそれはそれでこちらもうるさい。


「……なんや、小さい子どもの声みたいに聞こえるどすなぁ」


 と、豆福。琴音もうなずく。


「そうなんだよね。四、五歳? いや、もっと小さいくらいかな。ようやく赤ちゃんから幼児になったくらいの子どもの声っていう感じがする」


 琴音の姉の娘がちょうどそれくらいの年頃なのだ。お正月に実家に帰った際に会ったきりだけれど、よくおしゃべりをするその姪の声とちょうど幼い声質が似ている気がした。


「そんくらいの年頃の幽霊とかあやかしとか、心当たりあるん?」


 善治に聞かれて、清史郎はうーんと唸る。


「あやかしなら、いろいろここには憑いてはいるが……そうだな。ざしきわらしが住み着いてるっていうのは、親父から聞いたことがある。小さい子というと、それくらいしか思いつかない」


「ざしきわらし?」


 どこかで聞いたことあるようなその名前に琴音が聞き返すと、清史郎が教えてくれた。


「ああ。家に住み着いて、その家に幸福をもたらすというあやかしだ。ざしきわらしが家を去ると、その家は没落すると言われているな。俺もほとんど姿を見たことはないけど、たまに屋敷の中で気配を感じることはあった」


「そのざしきわらしが、なんで泣いているんでしょう……」


「……さぁ。もうずっと前からこの屋敷に憑いてるはずなのに、なんで急に泣き出したんだろうな」


 と、清史郎も腕を組んで首をかしげた。

 家主の清史郎に理由がわからないのなら、琴音も含めここにいる面々にわかるはずがない。


「とりあえず、本人に理由を聞いてみるのが一番かもしれませんね」


「それしかなさそうだな」


 声は今も屋敷の中を彷徨うようにあちらこちらへと移動している。今度は、テーブル席やカウンターのあるホールの方から聞こえてきていた。

 琴音はホールの真ん中に立つと、天井をみあげて声をはりあげる。


「ねぇ! どうしたの? 何を泣いているの? ワケを教えてくれないかな?」


 そう伝えてみるものの、声は一向にやまない。相変わらず姿も見えず、声だけがわんわんと辺りをうろつきまわっている。


「どうやったら落ち着いてくれるんだろう……」


 解決の糸口がみつからず途方に暮れていると、ずっと何かを考えているようだった清史郎が突然こんなことを言い出した。


「荒っぽくてよければ、姿を見つけ出すことはできるかもしれない」


「え? どうやるんですか?」


「ちょっと待ってて」


 そう言うと、清史郎は厨房へいく。しばらくして再びホールへ戻ってきた彼は、手に大きな小麦粉の袋を抱えていた。お店で売っているような小分けしたものではなく、両手で抱えるほどある業務用の大きなものだ。


「……え。ちょっと待って、清史郎さん。それって」


 善治が何かに気づいて止めようとしたけれど、それより早く清史郎がその大きな小麦粉の袋を軽々と宙に投げた。


「しばらく息止めてて」


 清史郎がそう言うやいなや、彼の周りに風が巻き起こり、一瞬にしてホールいっぱいに風の渦が巻き起こった。


「きゃああっ!」


 突如部屋中に巻き起こった風に戸惑って琴音と豆福が抱き合っていると、さらにそこに善治が二人に覆いかぶさるようにして風を防いでくれた。

 風の勢いはさほど強くはなく数秒で止む。しかし風が止んだとき、室内の景色は一変していた。あたり一面、白一色に覆われている。


 まるで雪のようなその白いものは、指で触れると粉っぽいことがわかる。

 清史郎が鬼の力で風を起こして小麦粉の袋を切り裂き、ホール中にばらまいたのだということはすぐにわかった。


「清史郎さん。荒っぽすぎやわ!」


 全身真っ白になった善治が叫ぶと、同じく全身まっ白になった清史郎が申し訳なさそうに頭をかいた。


「……すまん。ちょっとやりすぎた」


 琴音と豆福も全身真っ白。それにホールも粉まみれ。これは掃除が大変そうだ。


「そういえば、阿空さんは?」


 さっきまで一緒にいたはずの阿空の姿が見えないことに気づいて、琴音はきょろきょろとあたりを見回す。

 すると、雪景色のようになったホールの隅でしゃがんでいる後姿を見つけた。彼も全身真っ白で、毛並みが灰色から白に変わってしまっている。

 彼は琴音たちに背を向けてしゃがみこんでいた。


「どうしたんですか?」


 琴音がそばまで行って覗き込むと、彼はのっそりと琴音を振り返る。


「……この子でねぇか?」


 彼の目の前には、小麦粉まみれになった小さな女の子がしゃがんで泣いていた。


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