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第20話 あやしさ満載

 求肥ができたら、今度はこれを薄く伸ばして中に餡をつめていく。餡は白餡に薄く桃色の色付けがされていた。


「求肥に餡を詰めるんですよね。椿の葉っぱの方は終わったので、次はそっちを手伝いますね」


「ああ、ありがとう。あと、これを入れようかと思うんだ」


 そう言って清史郎が冷蔵庫から持ってきたボールの中には、綺麗な黄色をした大粒の栗が山盛りになっていた。表面がつやつやしているのは、甘露煮だからだろう。


「椿餅にはあまり入れる食材じゃないんだけど、とりあえず沈みやすくするために少しでも重い食材を使いたくて」


「うわぁ、絶対おいしいですって、それ!」


 想像しただけで、(よだれ)が出てきそうだ。


「気に入ってくれそうでよかった。じゃあ、その栗を餡で包んで丸めてもらえるかな。ほら、こんな風に」


 清史郎はボールから栗を一つ手に取ると、丁寧にキッチンペーパーで水気をとってから餡で包む。それを丸めると、小さな餡の玉ができた。


「やってみます」


 見よう見まねで琴音も栗を包んだ餡を丸める。清史郎ほど綺麗な丸にはならなかったけれど、栗が均等に餡で包まれた餡の玉ができた。それを銀色のバッドに並べていく。


 清史郎がその餡の玉を一つ手に取ると、薄く伸ばした求肥に綺麗に包んでいく。薄い桃色の餡が真っ白い求肥に包まれて、うっすらと桃色が透けて見えるのがなんとも春めいていて可愛らしい。それを二枚の椿の葉で包めば椿餅のできあがり。


「多めに作っておくから、あとで食べるといい」


「……ほんとですか?」


 それは嬉しい。縁側で濃いめのお茶とか淹れて食べたらおいしいだろうなぁなんて考えて、つい顔がにやけてしまいそうになりながらも手はコロコロと餡を丸める。

 そうして、できあがった椿餅を三段の重箱に詰めて、それを風呂敷で包むと完成だ。


 そうこうしているうちに、気が付くと時計の針は一時をとうに過ぎていた。


「わ! もうこんな時間! そういえば、千鳥ヶ淵へはどうやって行くんですか?」


「んー、嵐山だからな。河原町駅から阪急電車に乗っていこうかとも思ったけど、荷物が多いから車の方が便利かもな。この時間帯ならまだ河原町周辺もそんなに渋滞してないだろうし」


「荷物って、椿餅以外にも何か持っていくものがあるんですか?」


 三段のお重くらいなら彼にとってそれほど荷物というほどのものではないんじゃないかと不思議に思っていると、清史郎は困ったような視線を琴音に向けた。


「豆福さんに、俺のフード付きのコートでもかぶっててもらおうかなと思うんだ」


「あ、なるほど……」


 豆福は舞子然とした姿をしている。それだけならまだいいのだが、全身びしょぬれな水の滴る美少女だ。琴音も初めてみたとき腰を抜かしそうになったように、あの姿はもはや美しいを通り越して見るものに恐怖を沸き立たせかねない。もともと幽霊だったのだから怖いのは当然かもしれないが、それにしたってあの姿で昼間の嵐山を歩けば目立ってしまうだろう。


 というわけで、ボートに乗るまではフード付きコートで舞妓姿を隠してもらおうというのだ。


 もっとも、それならせめて舞妓姿じゃなく普通の私服に着替えてもらえば目立ちにくくなるのではと考えて豆福にそう提案してみたが、豆福は舞妓姿じゃないときっと善治は彼女のことがわからないにちがいない、だからどうしても舞妓姿じゃなきゃ嫌だって言って聞かなかったのだ。


 さらに豆福自身がこの椿餅の入ったお重を持つと、彼女の意思と関係なく発動する水沸き現象によってお重の中が水浸しになってしまうらしい。水の中に沈める予定の椿餅とはいえ、水に浸している時間が長くなればそれだけ形が崩れやすくなってしまうため、千鳥ヶ淵までは清史郎が持っていくことになっていた。


「でも……それでもなんか、怪しいですよね。ボート、貸してもらえるんでしょうか……」


「そこは……たぶん、俺が頑張るしかないんだよな」


 と清史郎は言うものの、その声はどこか自信なさげだ。

 琴音も彼には悪いけれど、この朴訥としたあまり人とのコミュニケーションが得意そうには見えない彼が、怪しまれることなく上手く貸しボート屋からボートを借りられるのか心配になってきた。


 せっかく椿餅まで準備して行ったのに、千鳥ヶ淵まで近づけないんじゃ意味がない。

 こうなったら、


「私も、一緒に行きましょうか?」


「え?」


「二人よりは、三人の方が怪しまれてもまだなんとなくごまかしやすいかなって」


「いいのか? 今日、せっかく定休日なのに。……ってもう、すでに結構手伝ってもらっちゃってるけど」


「それ言ったら、清史郎さんだって同じじゃないですか」


 にっと笑って言うと、清史郎は指で頬を掻きながら「ありがとう」と返す。その顔は明らかにホッとしていた。






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