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第12話 新生活!

 琴音が、祇園おおえ山で住み込みで働くようになってから十日が過ぎた。

 住まいは、料亭の二階を借りている。ここなら賃料なしで住まわせてくれるというので、借りない手はなかった。


 この料亭の二階は元々旅館として使われていたそうだけど、いまはもう旅館業はやっていないらしい。二階にある三部屋のうち、端の一室を清史郎が自室として使っている以外は空き部屋になっていた。


 清史郎は真ん中の、今は何も置いていない部屋を琴音に貸してくれると言っていたのだが、それには琴音は難色を示す。


(だって、古い屋敷に壁の防音性能とか期待できないじゃない)


 すぐ隣で同年代とおぼしき清史郎が寝起きしていると思うと何かと気になってしまうし、それに自分の生活音が聞こえるのもなんだか恥ずかしい。


 というわけで、さらにその隣。清史郎の部屋とは反対の端にある部屋を借りることになった。

 清史郎はそこもほとんど使ってないから構わないけど、どうせなら真ん中の広い部屋を使えばいいのにと不思議がっていた。でも、それはそれ。乙女の事情があるのだと理解してほしい。


 琴音が借りることになったそこは、壁を埋めるほどに棚やタンスが並んでいて、古い本や今は使っていない雑貨などが置いてある部屋だった。

 どうやら倉庫というほどではないものの、使わないものをちょっと締まっておくスペースとして使っていたみたいだ。


 でも、ここに仕舞われているものは昭和初期やそれ以前の古い雑貨が多くて、眺めているだけでも心が躍る。それもこの部屋が気に入った理由の一つだった。

 古いランプや、昭和中ごろのものとおぼしき扇風機、足踏みミシン。古い和綴じ本がたくさん並べられている棚もある。


 アンティーク風の雑貨は町の雑貨屋さんでも見かけることはあるけれど、ここにあるのは正真正銘のアンティークばかり。この料亭がいつからここで営業しているのか知らないが、相当長い歴史があることは間違いない。その長い歴史の中で、これらのものは実際に使われ、そして時代の流れとともに役目を終えてここでひっそりと余生を過ごしているようにも感じられた。


 夜は部屋の真ん中に布団を敷いて寝て、書き物などするときは押し入れから折り畳みちゃぶ台を転がしてくる。案外使い心地はいい。ここに住んでみてまだ十日ほどだけど、琴音はすっかりこの部屋が気に入っていた。


 それともう一つ、この部屋が気に入っている理由がある。それはこの部屋は大部分の窓が棚に覆われてしまっているので、昼間でも全体的に薄暗いのだ。だから明け方に眠るのにはちょうどよかった。


 あやかしたちは夜更けに出歩いて、昼間は寝ている者も多い。そのためこの料亭の営業時間も夕方の黄昏時から、夜明け前に二番鳥が鳴くまでと決まっている。

 清史郎は営業が終わったあとに市場に買い出しに行っているみたいだけど、琴音は午前中に寝て、昼前くらいに起きてくるのが日課になっていた。


 そのあと、昼ご飯を食べてから、料亭の屋敷や庭の掃除、開店準備などを手伝って、黄昏時に清史郎が料亭の暖簾をかけると営業開始の合図だ。

 なじみのあやかしからあまり見たことのないあやかしまで、さまざまな異形なものが食事を楽しみにやってくるので、琴音はいっきに忙しくなるのだった。


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