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part5

 それから私達は毎日放課後に美術室で出会った。

 別に何をするわけでもなく、ターシャについて白石さんに聞かれたらそれに答え、白石さんが絵に集中し始めたら私は横で本を読んでいるだけ。

 何日かそんな事を続けている内にルールというか暗黙の了解のような物が二人の間に出来上がった。

 先ず、白石さんについて聞かない。

 白石さんは自分の事を話すのを極端に嫌がる。

「関係ないじゃん」にべもなくそう言い切る。その割に白石さんは私については聞いてくる。「昨日の英語の宿題やった?」「その目はいつから悪くなったの?」どうでもいいような些細なことから「なんでターシャを好きになったの?」「このサルって自殺するのが特徴みたいだけど何か関係あんの?」というような核心を衝くような質問まで。私が答えずにいると「ねぇ? どうなの?」と絵を描くのを止めてまで問い詰めてくる。

 何か本当私が言うのもなんだけど、通りで友達がいない訳だとつくづく思う。

 もう一つは、白石さんの描いている絵を見ない事。

「描いている途中の絵見られるの嫌なの」と言い白石さんはキャンバスの絵を決して見せてくれない。

 ターシャの絵なんてこれまで見た事も無かったから是非見たかったが、ここまでハッキリと拒否されてしまうと仕方ない。ひょっとしたらこういうのが芸術家のコダワリなのかもしれないし。

 以上の二つ。なんというか私にとっては不利な条件ばかりだった。

 それでも私は毎日美術室に通った。

 この時間を勉強に充てた方が有意義ではあったと思う。それでも通い続けたのは、ひとえにこの時間、この場所が心地よかったのだ。

 白石さんは私を否定しない。私を拒否しない。私の存在を必要と思ってくれている。それが本当はターシャに関する情報を聞けさえすれば、誰でもいいんだって事は分かってる。

 それでもいい。

 だって白石さんは私の事を殴らない。私に刃を向けない。私に「あんたなんか生まなきゃよかった」なんて言わない。

「あんたが居なきゃ私は自由だったのに」「あんたは私が居なきゃ何もできないの」「邪魔だよ。出ていけ」「くせぇなぁ」「おい。体売ってこい。酒代くらい稼げよ馬鹿」

 頭の中にこびり付いたこんな言葉をこそぎ落とすようにカリカリと白石さんの鉛筆でキャンバスに描き込む音が響く。

 きっとここが天国に一番近い場所。だってこんなにも気持ちいい。

 あぁ、そうだ。死ぬなら私はこんな場所がいい。

 ねぇ、ターシャ。あなたはどう思う?

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