第九話「バツの悪そうな顔で」
Teller:羽島一矢
予想外だった。いやマジで、まさか四色デッキだなんて思ってもなかった。
あんまり乗り気じゃなかった天城に、「一回だけやらね?」と俺が声を掛けたら、「……まぁ、一回だけでいいなら」と了承した。
「何やこのデッキ……全然回らんぞ?」
「いやそれ、お前の扱い方の問題もあると思うけど?」
序盤こそ優勢だったんだよ。けど、後半になるにつれジリ貧になって、最終的に完全に場をコントロールされて……。
気が付いたら完全に詰んでる、ってもう笑うしかねーよ。
「せやかてイッチ……このデッキ、どれをコストに回して、どれを手札にキープしたらえぇかとか全くわからんねんぞ?」
いや、何回か回してるだろ? 未だに扱いがわからない、って……ん? ちょっと待てよ?
さっき使ってた赤単は、すぐ扱い方覚えてたはずなのに……何で色が増えただけでこんなに戸惑ってんだ?
「つっても、天城は正解するまで中身を対戦以外で俺に見せない……って条件で、お前にそのデッキ貸してるわけだし。ほら、何とかして回せ」
貸出期間、天城が講義から戻ってくるまでのこの一限の間しかねーんだからさ。
「無茶言うなや」
用意していた他のデッキと違って、このデッキのスリーブだけやたらと年季が入ってる。たぶん、天城が小学生の頃、実際に使ってたデッキなんだろう。
……でも、だとしたら何で四色デッキなんか使ってたんだ?
「あーもう、こんなん覚え切れるか!?」
「いや匙投げんなよ」
「ハンデスせーや、見りゃわかるわ!」
「はいはい、ったく……」
まぁ、対戦頼んでるのは俺なわけだしな。
「ったく、何をそん……な?」
……待て待て待て、何だ? このデッキ。
「墓地のカード、並べて見せてくれ」
「ん? あいよ」
墓地、手札、エーテルゾーン……マジかよ。いやマジか? 正気の沙汰じゃねーぞ、これ。
「……よくわかった、そりゃ神田に扱えるわけねーわ」
「何でやイッチ!? 俺にカードゲームの才能ないっつーんか!?」
「そういう次元の話じゃねーんだよ……少なくとも、このデッキに関しては」
対戦は苦手? いや何の冗談だよ?
そもそも天城の奴、いくつもデッキを作れるくらいにカード資産あるだろに……?
「おいイッチ、一人で勝手に納得すんなや。何やねん、このデッキの正体は? わかったんやろ?」
「悪い、そのデッキの中身なんだけどな? ほぼ間違いなく、ハイランダーだ」
「ハイランダー?」
ハイランダーデッキ。要するに、全く同じカードが存在しないデッキのこと。
「四十枚……エクストラコートの四枚も含めて計四十四枚、全部違うカードで組んであるはず。そのデッキ、意図的に四色で構築したフルカラーハイランダーだ」
「んー? ……当たりみたいやな、ほれ」
ライブラリとエクストラコートを確認した神田が、カードをこちらに見せてきた。
「えらい変わったデッキなんやな、これ」
「いや、変わったどころの話じゃねーって……同名カードは基本的に四積みして、事故率を減らすのがカードゲームの常識だし」
神田からデッキを受け取り、ザッと確認する。
にしても、すっげーなこれ……あいつよく回してたな、こんなの。
「黄のカード多め、サーチが前提か? でもそれにしちゃあ……」
変だ。このデッキ、何か変だぞ?
「そんなうんうん唸って、トイレなら―」「うるさい」
……このデッキ、明らかにおかしい。
「これと、これ、これに……これもか。何でこのカードなんだ?」
「何でって?」
「このデッキに入れる必要のないカードなんだよ、ここに並べたの。もっと入れるべきカードがある」
敢えてカードパワーの低い、シナジーもないカードでデッキを構築? ただでさえ、事故率の高い四色デッキなのに?
「当時のデッキそのままなんやろ? 作った時にはなかったとか?」
「いやそれもない。他のカードを見る限り、これを作った頃に既にあったはずだ。そもそもこのデッキの性質上、もっと入れるべきカードがある」
対戦が苦手、友達とほとんど対戦して遊んだことない……って、まさか?
つまり、そういう意味だったのか?
いや、こればっかは本人に直接聞かないことには……聞く?
こんなこと、聞いたところで一体何になるってんだ?
「わけわかんねーよ……あいつ」
「……何を一人でブツブツ言うとんねん。気になってしゃーないなら、天城ちゃんに聞けばえぇやろに?」
「いやそうは言ってもだな……」
「一人であーだこーだ考えたところで、イッチに天城ちゃんの何がわかるんや? わからんやろ?」
そりゃそうだけどさ。
「やったらば、聞くしかないやろ? 後のことは聞いた後で考えたらえぇねん」
「神田……お前って本当、行き当たりばったりだよな」
「アホ、俺みたいなんは臨機応変って言うねん」
いや、まぁ……こういう時はお前のそういうとこ、羨ましく思うわ。
そうこうしてる間に講義が終わり、天城が戻ってきた。
「お、天城ちゃんおかえり。イッチの奴見事正解したで、デッキ見せたでー」
「……え? 翔ちゃん、何で僕が帰ってくる前にデッキ、イッチャンに見せちゃったの?」
「だって正解するまで見たらあかん、ってことは……正解したら見せてえぇ、ってことやろ?」
どうやら天城的には違ったようで、怪訝そうな顔で神田に訴えかけている。
「そんなこと先にしたら、正解した証明にならないでしょ……」
「んなこと言い始めたら、この場で正解言うたとしても証明にはならんやろ。あかんでー天城ちゃん? そういうズル仕込むん、お母さん許しませんからね!」
「いつから翔ちゃん、僕の母さんになったん……?」
そう問い質されると、天城はバツの悪そうな顔で頬を掻いていた。
畿内語が若干出てる辺り、神田の言う通りはぐらかす気満々だったな……こいつ。
「デッキ見ちゃった、ってことは……気付いちゃってるよね? イッチャンなら」
「まぁな。天城、ここで話すか?」
「ヤダ、翔ちゃんには聞かせてあげない」
「何でや!?」
「人のデッキ勝手に見せた翔ちゃんが悪い」
上手いこと責任転嫁したな、こいつ。
「諦めろ神田、いつか話してくれっだろから」
「いつかっていつやねん!? ちょ、どこ行くねんこのイケズ共ぉ!?」
まぁそんな神田は、とりあえず置いとくとして……だ。
他に誰にも聞かれたくないってことなら、絶好の場所がある。
「……ここは?」
「俺ん家、ワンケーで狭いし、ちょっと散らかってるけど勘弁な。適当に中で寛いでくれ、茶でも持ってくる」
まぁひとり暮らしだし、元々誰か呼ぶつもりなんてなったからな。
大学からは徒歩で五分少々、距離的にはほぼベスト。ワンルームと比べてちょっと家賃が高いけど、バストイレ別で狭い割には充実してる。
「お邪魔します」
冷蔵庫からペットボトルのお茶を取り出し、グラスに注ぐ。
「天城ー悪いけど、カーテン閉めといてくんね?」
「わかった」
さて、と……じゃ、行きますか?
「どうぞ」
「どうも……で、イッチャン? どこまで気付いちゃった?」
「……そうだな、せっかくだし。もう一回、対戦してくれね?」
俺は鞄から自分のデッキを取り出して、天城の前に置く。
「え? でも、僕のデッキ、翔ちゃんに―」「お前のデッキってこれ?」
俺は神田から預かっていた、天城のハイランダーデッキを取り出す。けど渡さない。
だって、俺が見たいのは……これじゃないから。
「悪いけどさ? このデッキじゃねーんだよな、お前に使って欲しいの」
いや肩をすくめて誤魔化そうとしても無駄、わかってんだからな。
天城、お前がそうなんだろ?
なら……。
「鞄の中にもう一個、デッキあるよな? ……お前が、本気で000やってた時のがさ」