第八話「触れちゃ駄目な感じ」
Teller:御崎志穂
「あーもう! 全っ然、勝てへんやんけ! 何やねんこれ!?」
「いやお前が後先考えずにカード使いすぎなだけだから」
「イッチがハンデスしまくるからやろ!?」
何か凄い盛り上がってるね、羽島君と神田君……。
でも、ここ、学食だよ?
「何してんのよあんたら」
「見りゃわかるやろ、000や」
「そうじゃなくて……何でそんなもんやってんのよ?」
「何言うとんねん、AFXやるなら過去作予習せーてゆーたんは高坂やろが?」
……過去作?
「は? 意味わかんないんだけど。AFXと何の関係あんのよ?」
「高坂知らんの!? 天城ちゃん言うとったで。AFXは、000の開発チームが作ったゲームやて」
「へぇ……あ、本当だ。このカードのこれ、AFOのスキルじゃん。うちも昔ちょっとやってたけど、全然気付かなかったわ」
そうなんだ、知らなかった。
そういえば綾ちゃん、昔はよく男の子たちに混じって遊んでたもんね。
「でもデッキなんてよく残ってたね?」
「おう、天城ちゃんがな? 何個かデッキ持ってきてくれてん。つーかこれ凄くね? 保存状態良好、ほぼ新品同然やで」
「俺のデッキは自前だからボロボロだけどな」
あぁ、先週の。羽島君の食い付きっぷりも凄かったけど……天城さん、相当なコレクターって話だったし。
デッキいくつも作れるくらいカード持ってても、確かにおかしくないのかな?
「……だからって、こんなとこで遊んでんじゃないわよ! 余所でやんなさい、余所で!」
「う、うわぁー! 高坂が、高坂がオカンになったー!」
「誰がオカンよ!?」
ギャーオカン怖いー! と、茶化しながら広げたカードを片付ける神田君。ちなみに羽島君はとっくの昔に片付けてる。
「……だから場所移動すれば? って言ったのに」
テーブルを占拠していた二人の脇で、頬杖を突いて呆れ顔の天城さんがいることに気付く。
いや、天城さんも止めようよ……?
「あ、天城さん? おはよう」
「おはよ、御崎さん」
私の声掛けに反応し、挨拶を返してくる。私の名前をちゃんと覚えていたことに少し驚いた。
ボサボサだった髪が今日はキチンと整えられている、ストレートヘアだったんだ。前髪やサイドは下ろしたまま、後ろの髪だけ一纏めに。
でも相変わらず化粧っ気はなし。何だか、ちょっと男の子みたい。
……ひょっとして、朝からずっと、三人でいたのかな?
「あーでも懐かしい。うちもちょっとやりたいかも」
「せやろ? デッキならまだいっぱいあるで?」
「何で神田がドヤ顔してんだ、天城のだろが」
「だってー? 対戦相手、イッチばっかでボコられっぱなしやったしー?」
「いや理由になってねーよ」
どうやらずっと、神田君と羽島君で対戦してたらしい。
「天城さんはカードで遊んでないの?」
「へ? あぁ、うん。えっと、僕……対戦苦手で。実際に友達と対戦して遊んだこと、ほとんどなくて」
あ……何だろ、触れちゃ駄目な感じのことを聞いてしまった気がする。
「やーかーらー! 対戦初心者同士、天城ちゃんもやろて言うたのにー」
「えー……? ヤダ」
いいなぁ……天城さん。というか、私なら神田君の誘い、断らないのになぁ。
「ま、次の講義の教室にでも行って続きやるかー? イッチ、今度こそボッコボコにしたるでな!」
「返り討ちだこの野郎」
「ほなまた後でなー」
そんなこんなで、嵐のように去っていく。
「……ったく、何なのあいつら。ガキみたいにはしゃいじゃって」
「んー……でも実際、AFXの予習には良いかも知れないよー? ジーディー・カンパニーが000の版権、発売元のメーカーから結構前に買い取ってたって話だから」
ひょっとしたら、AFXのシステムに000が組み込まれるかもね?
と、綾ちゃんが続ける。
「そうなの?」
「ネット掲示板でも噂になってるみたい、ほら」
「うわ、本当だ」
その旨のニュース記事のリンクが貼られた掲示板では、確かにそんな噂で持ちきりになっているようだった。
「……黒瀬さん、【アイン・ソフ・オウル】ってどんなゲームなの?」
そんな噂まで出ている以上、高坂さんもさすがに気になった様子だ。正直、私も凄く気になる。
「大まかには他のカードゲームと一緒、四十枚のカードでデッキを作る。デッキとは別に四枚のカードを手元に伏せて対戦するんだけど、その辺りはまぁ関係ないから置いとく。属性は【アルカナフォーミュラ】同様、地・水・火・風の四つ。【アイン・ソフ・オウル】だと黄・青・赤・緑って、カード枠の色で呼ばれてるね。多色サポートもなくはないけど、基本的には単色……つまり一つの属性でデッキを組む方が安定して強いかな?」
「複数の属性を使うと弱いの?」
「弱くはないんだけどね? 事故……つまり使いたい時に、使いたいカードが使えなくなる可能性が高くなるのよね」
どうやら使いたいカードの色と同じ色のカードを、コスト支払い用の場所に予め置いてないと使えない……というルールがあるらしい。
なのでデッキに違う色のカードを増やせば増やす程、条件となる色の制約が厳しくなるそうだ。
「……つまり、AFOみたく複数の属性を同時に駆使出来なくなるかも知れない。ってこと?」
「そうなるかもね。それに元々AFOでも四属性、全部はカンスト出来なかったでしょ?」
確かにそうかも。AFOでも特定の属性のレベルを上げると、対応した相性の悪い属性のレベルに制限が掛かる。アルカナの属性全てをカンストするのは仕様的に不可能で、実用に耐えうるのは属性二つまでだったし。
「何それ……面倒臭そう」
「まぁ、カードゲームそのままってわけじゃないだろうけど……物理属性がアルカナの属性に統合されるのは、ほぼほぼ確定みたいだし?」
中にはアルカナの属性を持つ複合武器を駆使して無理矢理、全属性のアルカナを使うプレイヤーもいたけど……AFXではそれも出来なくなるだろう、という見方も強い。
「仮に000を本格的に下敷きにするなら……AFXでは各々、一属性に特化するか二属性までに抑えて、パーティー内で補完し合うのが主流になりそうだねー」
少なくとも全属性を一人で使おうとすると、何らかのデメリットが生じるのは、まず間違いなさそう。
「……だったら、パーティーで特化する属性を分担した方がいいのかしら?」
「かもね。羽島君は青のデッキ使ってたから水属性でほぼ確定でしょ、たぶん。神田君は赤だったし火かな?」
「なら私、AFOでは風属性メインで使ってたから……引き続き風の方がありがたい、かな?」
「うちは元々生産系だったし、何でもいいよ。志穂や他の面子に合わせる。高坂さんはどうする?」
「んー……ゴメン、ちょっと考えさせて? あたし、全属性使ってたから」
あ、高坂さんそっちのプレイスタイルだったんだ。ちょっと意外かも?
昼食を手早く済ませて、神田君たちがいるであろう教室へと向かう。綾ちゃんが「久し振りにカードで遊びたい」と乗り気だった。
のだけど……。
向かった教室。そこで対戦していたのは、羽島君と天城さん。そして目撃したのは……。
「無理、これもう勝てねー……」
「えぇ……? イッチ、諦めんの早くない?」
「いや……どう足搔いても詰んでんだってば、この状況! ってか天城、そのデッキどうなってんだ!?」
綾ちゃん曰く「高確率で事故を起こす」はずの四色デッキで、羽島君を一方的に蹂躙したらしい、対戦が苦手なはずの天城さんの姿。
「……え? 何これ? どういう状況?」
もうわけがわからないよ……。