第六話「大事なのは中身」
Teller:黒瀬綾香
……志穂ったら、とんでもない奴らのとこに飛び込むよね。本っ当、大胆なんだから。
「お、イッチーに天城ちゃん。一限振り、でどやった?」
「何のことだ?」
「惚けんなやーメール送ったやろ?」
「あぁ、内容見てなかったわ……知らん、自分でやれ」
「はぁー?」
そんなコントのようなやり取りを交わす神田と羽島。一見すると単なる馬鹿と冷血漢、なんだけど……実際はたぶんそうじゃない。そう、うちの勘が告げている。
正直この二人、何考えてるのかいまいちわかんない。というか掴み所がなくて、厄介。
「ねぇ、羽島……そこで引っ付いてんの、あんたの彼女?」
おまけに、高坂……か。あんまり良い噂聞かないし、この子。
「は? んなわけねーだろ。高坂、お前―」
「まーまーまーまー! イッチ、落ち着け落ち着け。高坂失礼やぞ、天城ちゃんが彼女? そもそもイッチにこんな可愛い彼女出来るはずないやろ!」
「……翔ちゃん、それわざとやってるでしょ?」
おまけに知らないうちに、なーんか一人増えてるし……確か、天城? だったかな?
ずっと一人で行動してたはずだけど、いつの間に神田たちと仲良くなったのやら。
「ちょっ、翔ちゃんてあん―」
「だーかーら、高坂もいちいち喧嘩腰になんなって。な? いやあ、モテる男は辛いわぁ」
「神田、お前病院行けよ。眼科な、いや脳外科でもいいぞ」
「……もう何でもいいや」
そもそも、天城って男だよね?
何で高坂はあんな敵視して……ははぁ、勘違いさせる気でやってんだな、神田ってばお茶目さん。
「天城さん……神田君のこと、翔ちゃんって……やっぱり……?」
……って、ひょっとして。志穂まで天城のこと、女の子と勘違いしちゃってたりなんかするわけ!?
「……綾ちゃん?」
教える? いや、こうして焦ってるところを見るに、むしろ教えない方が良さそう?
……うーん、うん。決めた、そうしよっと。
「綾ちゃん、どうしたの?」
「え? ううん、何でもない……でも神田君、やたらと気に入ってるみたいね。あの子のこと」
「う、うん……」
せっかくだから、天城には勘違いされたまま、志穂の恋敵になってもらっちゃおう。仕方ないよねー? そこらの女より、よっぽど可愛い顔してるんだからさぁ。
名付けて、『天城ちゃん(笑)恋のライバル化計画』……ネーミングセンス、イマイチな気がしないでもないけど。もうこの際どうでもいいのよ、そんなこと!
大事なのは中身、中身よ!
「で、御崎と黒瀬がAFX一緒にやるメンツ?」
「そやで。やからな、天城ちゃんも―」
「やから僕はやらんて」
いやあ、それにしたって……何、この無駄に濃いメンツ?
無害そうなのが「AFXやらない」って言ってる、天城くらいじゃない?
「畿内語で僕っ娘……!?」
あぁ……うちもツッコミ入れたい!
天城は男、男なんだよぅ! ってツッコミ入れてから、思う存分笑い転げたい!
駄目よ、駄目。耐えろ、うち! せっかくのこんなシュールなシチュエーション、うちの無粋なツッコミで台無しに、とか勿体なさすぎでしょ!?
「なぁ……黒瀬、何か悶えてんだけど?」
「そらそうなるやろ、イッチやないんやから」
悪戯っぽい笑みを浮かべる神田。どうやらうちがその事実を気付いていると踏んだらしい……なるほど、このメンツで知らないのは高坂と志穂だけってわけだ。
うちは頭を振り、邪魔する意志がないことを告げた。
「ってか翔太朗……あたしとの約束、忘れてないわよね?」
「ん? もちろんやんけ。AFXのメンバーに女子入れる時は、先にお前に断り入れたらえぇんやろ? なら天城ちゃんはえぇよな?」
「何でそうなんのよ!?」
そのやり取りにウチは思わず吹き出した。
男だからだよ! 女じゃないからだよ! と、ウチは絶叫していた。心の中で。
「綾ちゃん!?」
「え!? 何、黒瀬さん大丈夫!?」
大丈夫じゃないわ! むしろ大丈夫か? って、こっちが聞きたいわ!?
志穂は昔っから天然で、思い込みが激しいのわかってるから。この子だけだったら、まだ何とか耐えれたけど……。
けど、高坂! あんただよ、あんた! 何で気付かない!?
「……黒瀬、どうする? 続行?」
私は頭を縦に振り、それを肯定した。ここで天城が男だと今バラされたら、せっかくうちの脳内会議で決定した『天城ちゃん(笑)恋のライバル化計画』が台無しになってしまう!
それだけは、それだけは、何としても避けなくては……!
「何か事情、あるっぽいな」
「いやまぁ、俺は別にいいけどさ。天城は?」
「……いいよ、慣れてるし」
採決。賛成、四。棄権、二。
賛成多数。高坂か志穂のどちらかが気付くまで、この茶番は無事、続行されることが決定した瞬間である。
「ところでイッチ。俺らが講義受けてる間、天城ちゃんとどこ行っとったん?」
「ん? リサイクルショップ、カード探しに行ってた」
高坂と志穂の二人が、若干引き気味で羽島を見てる。
うん、まぁそうだねぇー。そんな反応になるよね。確かに、何でそんなとこに天城連れてくんだ? ってなるよね。
天城が、女だったら、の話だけどぉ!
「……あ。そういえば、何のカード探してたの?」
「言ってなかったっけ? 【アイン・ソフ・オウル】だよ、ほら。小学校の頃流行らなかったか?」
【アイン・ソフ・オウル】? ……あぁ! 000のことね。
みんな略称でばっか呼んでたからねー正式名称、久し振りに聞いたよ。
「って、ちょっと待ちなさいよ、羽島。店まで連れてって、まさか天城さん一人にしてたの?」
「は? いや別に、見たいとこあったら見てくればって言っただけだし。天城も模― 」
「イッチャン?」
天城もも? 様子を察するに、他の人にはあんまり知られたくない感じ……ってことはオタク趣味かしら?
一応、羞恥心あるみたいね。というか、天城は羽島のことイッチャンって呼ぶんだ……あんな強面なのにちゃん付けされる羽島、って何かシュールじゃない?
「ってか、000なら僕も持ってるよ。コレクションしてたから」
天城、まさかのコレクター宣言。いやまぁ、男の子だからね。集めてても別におかしくないからね?
だからそこの二人、呆気に取られてんじゃないよぉ!?
「イッチャンの欲しいカード、何だったら探してみるけ―」「マジ!? 俺さ、第一弾のカード探してんだけど天城持ってる!?」
ある意味、今日一番の衝撃。
あの、ポーカーフェイスで。何があっても、顔色一つ変えないことに定評のある羽島が?
異常なまでの食い付きっぷりで、天城に詰め寄っている……だと……!?
ウチや志穂はもちろんのこと、よく一緒に行動してるはずの神田と高坂でさえ唖然としちゃってるし。
「あるよ? 第一弾なら、発売した時に大量に買ってもらったし」
天城の返答を耳にした羽島が、ポカンとした表情に。
「買ってもらった、って……いや……発売した、時に?」
「うん」
あれ……? 000って、確かにウチらが小学校低学年くらいの時に流行ったけど。
確か第一弾発売したのって、それよりもずっと前だよね?
「【アイン・ソフ・オウル】、っと……うっわ、第一弾発売したんて、俺が小学校入る前やったんかー……ん?」
ニクスフォンで検索していた翔太朗も、一瞬納得しかけた後に首を傾げる。
「天城、当時俺ら……幼稚園か保育園だよな?」
「うん。誕生日プレゼントに買ってもらった、カートンで」
「カートン!? ボックスやなくて、カートン!? どういうこっちゃそれ!?」
「十五枚で一パック。ボックスが三十六パックで……天城、カートンって何個ボックス入ってた?」
「えっと……確か、六ボックス?」
その総枚数、なんと三千二百四十枚……ちょ、何それ怖い。
「一パック、確か四百円だったから……八万六千四百円!? 未就学児の誕生日プレゼントの額じゃねーよ、どうなってんだ天城ん家!?」
天城……金持ちのボンボン説、浮上!
「あー……えっと、まぁ? 普通の家だ―」
「いや! 全っ然普通じゃねーから!」