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アニオタ、同志とともにキモい咆哮を上げる

※何やら不評だったのと、BANされるかもという懸念から、この話の前にあった「ある掲示板での出来事」は削らせていただきました。

 リアリティ追求のためにと、いろんな掲示板やまとめサイトを調べて勉強し、気合を入れてネット掲示板のえげつなさを描写してみたのですが、努力の方向性が間違っていたようでした……

 良い勉強になった(。-_-。)


 ——季節はさらに巡り、6月となった。


 初夏と呼べる季節だが、温暖化の影響か、この時期でもすでに気温30度に達する日がぽつぽつでている。


 制服は夏服になったが、それでも暑い時は暑い。


 運命の日である今日の東京では、気温が30度を超えていた。


「来たぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

「来たでおじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 だが、そんな炎天下の東京都内で、さらに暑苦しく雄叫びをあげるキモい(おとこ)達がいた。


「「うあああああああああああああああ!!」」


 降りた駅の前に広がる都会と人の海。


 周囲の人々の白い目を気にせず、アニメキャラTシャツを着た二人組——伊勢志摩常春と綱吉(つなよし)は元気いっぱい叫んでいた。迷惑なアニオタここに極まれりである。


 ひとしきり叫んで満足した二人は、向かい合って互いに強く手を掴み合わせた。


「来たでおじゃ! ついにこの日が来たでおじゃ!」


「うん! 来ましたね、『お茶茶茶茶会』!」


 常春(アニオタ)が口にした珍妙な固有名詞こそ、本日日曜日、遠路はるばるこの東京都内へ足を運んだ理由に他ならなかった。


 現在第3期が放送中の大人気日常系アニメ「お茶立て街のお茶目なお茶屋さん」。略して「お茶茶茶」。


 日本風の異世界にある小さな茶屋を中心にして物語が広げられる、日常系アニメの傑作。


 可愛い女の子たちのほのぼのした日常、さらにお茶の勉強にもなる内容から、3期が作られるようになるまで人気を博してきた。


 そのアニメのイベントである「お茶立て街のお茶目なお茶屋さんのお茶会」……略して「お茶茶茶茶会」が、今日開催なのだ。


 キャラを演じた声優さんの登場はもちろんのこと、その他いろんなプログラムが組まれていて、イベントでしか買えないグッズも盛りだくさん。生粋のアニオタである二人にとっては垂涎(すいぜん)ものであった。


 すでに二人とも、チケットはゴールデンウィーク期間中に購入済み。


 開始時間は十三時ちょうど。二人が会場の最寄り駅に到着した今の時間は十一時。


 ある程度時間に余裕はある。なので二人は少し早めの昼食を取りつつ、時間を潰すことにした。


 人で溢れた街中を歩きながら、二人は会話に花を咲かせた。


「それにしても、暑いでおじゃるなぁ」


 綱吉は早くも疲れた口調で言った。「お茶茶茶」に登場するキャラ「玉露(ぎょくろ)姉さま」の絵がプリントされたTシャツは腹の太さに合わせてピチピチに伸びており、汗の跡が顔みたいに浮かんでいる。


「そうだねー。人も多いしねー」


「常春殿はあまり暑そうに見えないでおじゃ」


 そう羨ましそうに言う綱吉だが、そんなことはない。常春だってちゃんと暑いと感じている。ただ、汗を全くかいていないだけだ。


 常春の着ているシャツは、お茶茶茶の主人公である女の子「やぶきた」がプリントされたものだった。


「やはり、常春はやぶきたタン推しでおじゃるな」


「うん。健気で一生懸命で、純粋なところが可愛くて好きなんだよ」


「あと、声が透華(とうか)たんだからでおじゃろう?」


「バレたか」


 常春は照れ笑い。


 「透華たん」とは、「やぶきた」の声を担当している声優、仁科透華のことである。


 若干17歳にして、今をときめく超人気声優。


 卓越した演技力と、アイドルがかすんで見えるほどの超絶美少女であることから、非常に人気が高い。


 そして、常春がファンとして慕う声優であった。


「透華たん、可愛いでおじゃるからなぁ。この間写真集も出たそうで、飛ぶような勢いでバカ売れしたそうな。常春殿は買ったでおじゃるか?」


「いや、買ってないよ。僕は仁科さんの容姿じゃなくて、あの怪物じみた演技力に惚れたから」


 アニメをたくさん見ていると、「あ、これあのアニメのキャラと同じ声だ!」ということがたびたびある。声に個性の強い声優さんは、記憶に残りやすいものだ。


 だが、仁科透華には、それが無い。


 良い意味で(・・・・・)個性がない(・・・・・)のだ。


 聞いたことのない声だと思ってスタッフロールを見て、そこで初めて仁科透華の声であると気づく——常春はそんな驚愕を何度も味わった。


 子供から大人、少年や少女、美女や醜女、若者や老人……彼女は誰にでも(・・・・)なれる(・・・)


 「七色の声」とはよく言うが、仁科透華は「透明の声」と言えた。透明はどんな色にも染まれるからだ。


 つまり何が言いたいかというと……「透華たんマジネ申(かみ)」というわけだ。


 そんな「透華たんマジネ申」という熱弁を、常春はこれでもかとふるいまくった。


「だとするなら、今日のイベントは楽しみでおじゃるなぁ。なにせ、透華たんを生で見られるのでおじゃるし」


「うん! 会場への撮影は禁止だけど、この目と耳という高性能生体カメラにしっかり収めて帰るよ」


 ウッキウキなアニオタであった。


 ◆



 しばらくして、イベント会場が来場者受け入れを開始したので、二人はその列に加わった。長蛇の列だった。お茶茶茶の人気の高さがそのまま出ているようであった。


 結構待たされてチケット確認を終え、渡された番号と同じ観客席へと座る。


 広大な広間。奥にあるステージから、扇状に観客席の羅列が広がっている。……常春の席はその中段辺りの列の真ん中だった。綱吉はそこから何列か後ろらしく、羨ましがっていた。


 そこでしばらく待つと、ようやくステージが始まった。


 3期のOP曲と、ステージ背後のモニターにアニメ映像が流されたことが、このイベントのOPと言えた。それだけでも、会場はかなり沸き立った。


 やがて曲と映像が止まると、数人の女性陣がステージ裏から現れた。


 それが「お茶茶茶」の主要キャラの声優陣であるいうことは、ここにいる誰もが知っていた。会場が更なる盛り上がりを見せる。


 その中で、主人公「やぶきた」を演じる主演声優、仁科透華が前へ出た時、常春はそこかしこから陶酔するような溜息を聴いた。


 確かに、見惚れるのもうなずけるほどの美少女であった。


 非常に端正ながら柔和な人間性を感じさせる顔立ち。黒曜石のごとくツヤが強い漆黒のロングヘア。セレナイトのような曇りなき白皙の素肌。均整の取れた肢体。


 微笑みを向けられただけで心臓が止まってしまいそうな天使のごとき美少女が、目の前にいる。


 そんな透華は息を一瞬吸い、「やぶきた」と同じ健気っぽい声でマイクに発声した。


『みなさーん! 今日は来てくださって、ありがとうございまーすっ! 主人公やぶきた役の、仁科透華です!』


 雄々(オオ)オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!


『みなさーん! お茶は好きですかー?』


 大好きでェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェすッッッ!!!


『それじゃあ、お茶茶茶は好きですかー?』


 大好きでェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェすッッッ!!!


『ありがとうございます! 皆さんのお茶愛がひしひし伝わってきます! 今日は一日、お茶茶茶の魅力を皆さんにたっぷり味わってもらうつもりなので、楽しみにしててくださいねっ!』


 雄々オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!!!

 

 オタクどもの気持ち悪い咆哮が会場を激震させる。


 その咆哮を発する一人であった常春は、めっちゃ感動していた。ああ、僕はやぶきたの声を生で聴いているんだ。いや、マイク越しか。それでもいいや。


 おまけに、憧れである声優さんのご尊顔も生で拝めた。


 アニオタとしてこれ以上ないくらいのご褒美だ。これだけで白米三杯はいけそうかも。


 ホクホクした気分であった常春だが、


「……ん?」


 一つだけ、盛り下がっている席があるのを見つけた。

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