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27/102

アニオタ、デート開始

 翌日の朝。


 常春は、宗方家の呼び鈴を鳴らした。


「宗方さん、僕だけど」


『ちょ、ちょっと待って! 今準備してるから!』


 慌てたような頼子の声が、玄関の引き戸の向こうから返ってくる。


 今日は約束通り、頼子とデートをする予定。


 一応、約束の時間通りに来たつもりだったが、頼子の準備はまだ済んでいない様子。


『ま、まだ入っちゃダメだから! 入ったらマジ怒るからっ!』


 羞恥で震えた声。


 それを補足説明するように、小夜子の笑ったような声が聞こえてきた。


『頼子ってば、今日のデートが楽しみ過ぎて、昨夜(ゆうべ)なかなか寝付けなかったみたいなの。それで寝坊しちゃって。今、お化けみたいに髪の毛爆発してるのよ。よかったら見る?』


『おばーちゃん!』


『ふふふ』


 ……これは、もう少し待った方がいいみたいだ。


『ま、マジで入ってこないでよ!?』


「来ないから。ゆっくり準備してていいから」


 常春はそう苦笑しながら促す。

 

 しばらくドタドタとせわしない足音が続き、ずいぶん待たされてから、ようやく引き戸が開いた。


「……お、お待たせ」


 出てきたのは、いつもとは大きく様変わりした、華やかな装いの頼子だった。


 袖口に大きめのフリルがついた明るい亜麻色のチュニックに、落ち着きのある色彩をもったワインレッドのフレアスカート。大人びた感じに見えて、どことなく初々しい感じの装い。


 おまけに、顔にはうっすら化粧が乗っているのが分かった。もともと素材は一級品であるため、ほどよく施された化粧は彼女の美貌をさらに宝石みたいにきらめかせている。


 そんなピッカピカな頼子はというと、何か言いたそうに、何度も常春の方をチラチラ見てくる。唇を尖らせてほのかに朱に染まったその顔は、恨みがましいような、緊張しているような、そんな感情を明滅させていた。


 頼子の心情を察した常春は、


「似合ってるよ。今日の宗方さん、すごく綺麗だ」


「っ……あ、ありがと」


 頼子はさらに顔を真っ赤に染め、消え入りそうな声で言った。


「そ、それじゃ! い、行こっか」


「うん」


 誤魔化すように声を張り上げた頼子の言葉に、常春は頷いた。







 国内有数のテーマパーク、ネズ公ランドまでの道のりは電車で片道一時間半ほど。


 距離こそあるものの、乗り換えは一度だけなので、電車内で話しているうちに着いてしまった。


 外国製のファンシーなキャラクターたちの巨大ポップが彩る入口ゲートを、頼子は目を輝かせて見つめていた。……やはり、ああいうファンシーな感じのキャラクターが好きみたいだ。クールな感じの彼女の容姿を考えるとやはり意外性を感じる。


 常春はあらかじめ購入しておいた入場券二枚のうち一枚を頼子に手渡した。


 二人でゲートをくぐり、ファンタジーの世界へ出発。

 

 だがそこから先は、頼子のペースに乗せられることとなった。


 絶叫系はもちろんのこと、ファンタジー映画をモチーフにしたアトラクションなど、とにかく遊園地の敷地内にあるものには手当たり次第に駆け込んだ。


 日頃鍛えている常春はくたびれたりしなかったものの、いつもの頼子とは違うアグレッシブさとハイテンションさに驚かされていた。


「ねぇ、ねぇ、伊勢志摩! 今度あれ乗ろうよ!」


 明るい笑顔を浮かべた頼子が、常春の裾をクイクイ引っ張りながらアトラクションを指差した。


 常春はそれを見て苦笑しつつ、


「……アレ、さっき乗らなかった?」


「もう一回乗りたい! ねぇいいでしょ!? 行こうよ!?」


 いつものクールビューティーな印象は、すでにキラキラした笑みの下に隠れてしまっていた。


「しょうがないな。行こうか」


「うんっ!」


 もうこのお姫様は止められないと悟った常春は、観念してついて行くことにしたのだった。


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