Чему быть, того не миновать(起こることは起こるべくして起こる)
夏休み明けの最初の日曜日。朝十時。
すでに九月で秋は目前だが、そうとは感じさせない残暑が空気を焼いていた。立っているだけでも汗ばんでくるほどの気温であった。
けれど、十喜珠神社の周囲には、静謐で濃厚な杉の木立が広がっており、その広い木陰から流れてくる空気のおかげで境内は涼しかった。
とはいえ、天然の冷房があったとしても、いや、もっと効率よく涼気をもたらせる人工の冷房であったとしても、激しい運動をしていれば、暑さからは逃れられない。
「次、六路『双展』!」
常春の指示が暑気を震わせると、黒Tシャツにジャージ姿の頼子がその指示に内包された技の流れ——套路を行なった。
短い技の流れを、左右の手足を入れ替えて交互に行い、それによって境内の端から端へと往復を繰り返す。
全部で十路の短い套路がある、『弾腿』。中国武術の名門拳の一つにして、北派拳法の基礎を養う基本拳。……彼女が現在繰り返し練っているのは、その十ある套路の一つ『双展』であった。
常春は、そんな頼子に見惚れていた。
それは、暑気と度重なる運動による発汗で黒Tシャツが濡れて浮かび上がった、頼子のブラの輪郭にではない。
彼女の洗練された動きにだ。
——人とは、こうまで劇的に成長できるものなのか。
頼子の練習に立ち会うたび、そんな思いを抱かずにはいられない。
すでに夏休みは過ぎているが、それでもなお頼子は「教わりたい」と言った。なので常春もそれに応えている。
最初は教養の一つとして終わると思っていた。そもそも金勘定が全てであるこの現代社会で、古臭い伝統武術の地位などそれしかない。枯れ木も山の賑わい、で終わる者は実に多い。中国武術も日本武術も等しく衰退の一途をたどっているが、その原因はやはり現代人が金勘定にしか興味を示さなくなったからだ。
しかし、頼子はそうはならなかった。むしろ、意欲すら示すようになった。
——これも『戈牙者』の血の影響なのだろうか。
武を好むということが『戈牙者』の性なのかは分からないが、この常春がうらやましくすら思えるほどの驚異的成長速度は、間違いなく「血」だろう。
頼子の動きには、もはや夏休み中の面影が残っていなかった。
確実に無駄な動きが無くなっている。
拳が、蹴りが、鋭さを秘めている。
もはや常春が手直しをする余地などどこにも無い。微調整の要らぬ、完全に正しい形。あとはより高い功夫を得るべくひたすら反復練習するのみ。
息切れも、ほとんどしなくなっていた。
やがて終わり、十二時。
さんさんと輝く昼空の下、常春は頼子へボトルを投げて寄越した。頼子はそれを見もせずに片手でキャッチし、キャップを開いて中のスポーツドリンクを一気に飲み干した。
「なんか、今日って優しめ? 練習」
自慢でも高慢でもない、あっさりした頼子のその言葉に、常春は冷や汗を覚えつつもふるふるとかぶりを振って、
「ううん、いつも通りだよ。僕の練習が優しくなったんじゃなくて、頼子の体力が向上したんだよ」
「ふーん…………あ、そうだ常春、ちょっと聞きたいんだけど」
「なに?」
「『双展』って套路でさ……こういう動作あったじゃない?」
頼子は記憶の中の套路の一部を体で表現する。それから再び常春へ向いて「これ、どういう意味があるの?」と訊く。
ああ、と常春は声を出し、
「教えてあげるから、ちょっと打ってきて?」
「打ってきて、って…………いいの?」
「当たり前だよ。そうしないと教えられないもの。さ、早く」
常春が手招きする。
頼子は数秒ためらうような仕草を見せたが、やがて覚悟を決めたのか、その切れ長気味な瞳が一層の鋭さを得た。——と思った瞬間には、左拳左足を重心もろとも同時に進ませる順歩捶で突きかかってきた。
速い——
一ヶ月ちょっとの練度ではこうはいかない。そう舌を巻きつつ、しかし常春は適切に対処してみせた。右足で踏み込むのに合わせて、ヘソを隠すように並行に構えた右前腕を進める。その前腕は重心の重みで頼子の左拳を下へ摩擦で逸らしつつ、ガラ空きとなったその胴体に重心ごとぶつかった。
あうっ、という微かな呻き声とともに、頼子の体が後方へ押し流された。二回ほど境内の地面を後転してから、尻を地面についた状態で座り込んだ。
「——こんな感じで、相手の攻撃を摩擦で下へ逸らしながら突き進んで吹っ飛ばす。……大丈夫?」
「うん。ちょっとびっくりしたけど、常春、手加減してくれたんだよね」
「まあね。本当なら女の子にこんなことしたくなかったけど、武術っていうのは使うために学ぶものだから、そうやって自分の身で一度受けて技の用法を知らないと話にならないんだ。特にこの弾腿は、一見すると地味だけど、使い方は多彩だ。何せ蟷螂拳と同じ山東省出身の拳法だもの、喧嘩に強いんだ」
常春は頼子へ歩み寄り、その白い手を掴んで引っ張り上げてあげる。……夏休み前は石膏みたいに白かった肌が、今ではほんのうっすらとだが日に焼けている。
「やっぱり頼子、日に焼けてるね」
「い、言わないでよ……気にしてんだからさ」
頼子はパッと常春と手を離すと、腕の素肌を見られまいとばかりに背中に庇う。
「別に過度に気にする必要は無いと思うけどな。健康的でいいじゃない」
「……常春は、そっちの方が好み?」
「うん?」
「な、なんでもないっ」
自分の発言を後悔したように、頼子が強引に流れを打ち切った。その顔はさっきより赤い。
「そ、それよりさ、あたし一回お家帰りたいんだけど。シャワーくらい浴びたいし……」
「そうだね。頼子、ちょっと汗臭いし」
「ええっ!?」頼子はショックと驚きを同時に感じたような顔をすると、常春からぴょいんと大きく距離を取った。それを見て常春は小さく吹き出し、
「冗談だよ」
「もーー!! ばぁーかぁーー!!」
境内の土を蹴っ飛ばしてくる頼子。
常春は笑いながら、飛んでくる土塊を軽やかに避けようして、
「——っ」
足を止め、鋭く鳥居の方を振り向いた。
頼子の蹴飛ばした土塊が、常春の横っ面に浴びせられる。しかし常春は微動だにしなかった。
「常春っ? ご、ごめんっ」あっさり避けると思っていたのに見事に直撃したから、頼子は逆に驚いて、思わず謝ってしまった。
しかし、常春はなおも動かない。
ただただ、鳥居の向こう側を凝視していた。
「常春……どうしたの?」
いよいよ心配そうに声をかけてくる頼子の声で、常春はようやく我に返った。
「ううん。なんでもないよ」
顔の汚れを拭いつつ、常春はそう告げた。
気配を感じた——そんな本音を内に秘めながら。
その発生源だった鳥居の向こうからは、すでにその気配は雲散霧消している。
けれど、確実に、いた。「誰か」が。
その「誰か」は、自分を見ていた。まるでこちらを戦略的に品定めするような、そんな視線を感じた。
それからすぐに煙のごとく消え失せた。
何者かはわからないが、こうもあっさり気配を消して雲隠れできる時点で、油断ならない相手であることは確かだ。
……胸騒ぎがする。
気のせいであって欲しい。そう思った。
しかし「非日常」はすでに——常春の「日常」へ侵攻を開始していた。
——同時刻。
「ぎゃ————っはっはっはっはっはっ!! あっははははははは!!」
「麗剣、笑い過ぎだ。女がそんな大口を開けて馬鹿笑いするものじゃあないぞ」
閑静な昼の住宅街を歩いている三人組。その右端を歩行する孫麗剣の大爆笑を、真ん中を歩く李響がたしなめる。
羞恥で赤い頬を不機嫌そうに膨らませながら左端を歩く曹宝仁。麗剣はその男子中学生とは思えないほど可憐な容姿を一瞥し、再び「ぶふっ!」と笑声を吹き出した。
「いいぃっひひひひひっ…………だ、だってさぁ響兄ぃっ……!! この子っ、この子ったら…………くふふっ、ふふふ、ふふはははははははははっ……!!」
「もぉぉぉっ! いい加減にしてください麗姉さんっ! いくらなんでも笑い過ぎですよっ!?」
「ふは————はっはっはっはっはっは!! やっば! マジやっば!! 怒った顔もめっちゃ可愛いよあんた!! こりゃ男にモテるわけだわさ!! あっははははははは!!」
可愛らしい顔を可愛らしくぷりぷり怒らせる宝仁を見て、またしても笑声を大爆発させる麗剣。
——これは、ちょうど十分前の話である。
部活帰りの宝仁を見かけた麗剣と李響は、声をかけようと近づいて……足を止めた。
『ずっとお前が好きだった!! 俺と付き合ってくれっ!!』
女なら誰もが一度は振り返って一瞥するであろうイケメン男子生徒の、熱烈な告白を目撃してしまったのだ。
対するは、宝仁。
女子が相手だったら無意識のうちに頷いてしまいかねないほど、見事な告白であった。
だが男だ。
宝仁は慎んで「ごめんなさい!」して走り去った。その途中で兄弟弟子二人に捕まり、こうして笑いの種にされていた。……笑っているのは麗剣だけだが。
麗剣はひーひーと笑いを落ち着かせ、(一時的にだが)収まった後に言った。
「あんたあの時、満更でもなさそうだったわよねぇ。試しに付き合ってみれば? 新しい世界が開けるかもよ? ついでに後ろの穴も開けるかもよ?」
「開きたくありませんそんな世界! いや、その、確かに好いてもらえるのは悪い気はしませんけど…………でも、受けるかどうかは別ですからっ! ボクは普通の趣味嗜好の人なんですっ!」
真っ赤な顔で否定する宝仁。「下品だぞ、麗剣」とたしなめる李響。
麗剣は「ぶふっ!」と再度吹き出し、抑えていた爆笑を再度弾けさせた。
「……もぉっ!! 麗姉さんなんて知りませんっ!! ばかっ!!」
とうとう本格的に怒ってしまった宝仁は、どすどすと大股で先へ早歩きしだした。
「あ、やっべ……怒らせちゃったかね」
「当たり前だ。宝仁の気持ちも少しは考えてやれ。男に求愛されて顔を青ざめさせなかっただけでも、あいつは心根の優しい子だ」
プチ反省する麗剣と、それに批判を淡々と告げる李響。
宝仁はいまだ怒りが冷めず、二人のかなり前を歩いて、曲がり角を通り過ぎようとした瞬間——その怒りが急激に冷却された。
宝仁は、背筋に走った絶対零度の悪寒の命じるがまま、後方へ退いた。
一瞬後に、宝仁が通過しようとした曲がり角から、柳葉刀の刀身がギロチンのごとく振り下ろされた。
「えっ……?」
麗剣にからかわれた怒りはすでに忘却し、宝仁は曲がり角の奥から危険な匂いを感じて身構えた。
曲がり角から伸びる柳葉刀持ちの右腕。そこを先にして人が出てきた。
一人、二人、三人……七人の男達がぞろぞろと曲がり角から湧いて出る。
服装は一致しない。しかし、刃物や鈍器で武装しているという点では共通していた。
「なんだ、貴様らは?」
後方から聞こえた李響の声に反応し、宝仁は背後を一瞥。
兄弟子姉弟子の後ろにある曲がり角からも、武装した集団が次々と出てきていた。
挟撃——そんな単語が頭に浮かんだ。
先ほどの刀といい、この連中は間違いなく、自分達をターゲットにしている。
三人はその結論を得た。
「——お前達が、『正伝聯盟』の門人であることは、承知している」
男の一人が発したその言葉に、李響は目を大きく見開いた。
理由は二つだ。
——中国語。それも、この辺りの在日華人がしないであろう方言である。
——こいつらは、李響たちが『正伝聯盟』であることを承知している。承知の上で、宝仁に斬りかかった。『正伝聯盟』が、この辺りの在日華人のコミュニティを守る役割を担っているにも関わらず。
それらの理由から、李響が敵の正体を推理するのに、さほど時間はかからなかった。
「貴様ら…………さては『Z房間』だな?」
「いかにも」という肯定の言葉が返ってきた瞬間、麗剣も宝仁もそろって驚愕を顔に浮かべた。
李響は敵意と侮蔑を隠すことなく剥き出しにし、再び問うた。
「貴重な中国武術を権力闘争で穢したコミュニストの狗ッコロが、俺達にいったい何の用だ? 今の宝仁への一太刀、明らかな敵対行為だぞ」
「もう答えは出ているじゃあないか。……そうだ。「敵対」だ。我々は今日、お前達『正伝聯盟』に戦争を仕掛ける。全員惨めに死ぬか、大人しく降伏して神奈川を開け渡すか、どちらかを選ぶといい」
「はっ。とうとう病気が脳味噌に回って、強弱の区別すらつかなくなったというわけか? 狗ッコロではなく狂犬だったか」
そんな李響の侮蔑の発言に対し、中国人たちは揃ってゲラゲラと哄笑を上げた。
李響はその態度にカッとなり、
「何が可笑しいっ!? そんなに叩きのめされたいかっ!!」
「我々がお前達に大きく劣っていたのは、すでに過去の話だ。今の我々は違う。我々『Z房間』は、今やお前達を伍するほどの戦力を得た。……これは脅しでも妄想でもない。お前達『正伝聯盟』が我々より優位に立てていたのは、ひとえに「三老」の存在があったからこそだ。つまり、だ——「三老」さえ消してしまえば、お前達の戦力はガタ落ちというわけだ」
「馬鹿が、それこそ妄想だろう!! あの御三方が貴様らごときに負けるものか!! 貴様らの方が挽肉にされるのがオチだ!!」
「狭い島国でせせこましく蠢動しているうちに、視野が狭まったようだな。……「三老」は確かに化け物だが、最強ではない。上には上がいる。それが世界だ」
口車に乗るな——そう自分に言い聞かせるが、李響は焦りを禁じ得なかった。
ここでハッタリを言うメリットは無い。ここまで自信満々な様子は、きっと「裏付け」があるからだ。
それでも、「「三老」が負ける」……そんなイメージが浮かびにくかった。
同時に、そのイメージが崩壊するかもしれないことに、そこはかとない恐怖を抱いていた。
しかし、今はそれよりも。
「殺せ!!」「やっちまえ!!」「今まで散々見下しやがって!!」「「三老」の前にまずは貴様らからだ!!」「おおおおっ!!」
この目の前の連中を、退く方が先だった。
——同時刻。至熙菜館にて。
「王手だよ、景一」
「ぬぅ……やるなぁ! だが、この飛車を右端まで動かせば……」
「それをやれば、私の歩か桂馬に討ち取られる」
「では、この秘蔵っ子の歩の出番だ! こうすれば、ワシの飛車は守られる! そして次に飛車が桂馬を——」
「二歩だよ」
「ぬおおおぉぉぉぉぉ……」
ひたすら落ち着き払った郭浩然と、頭が痛そうに唸っている小樽景一が、客用のテーブルを挟んで向かい合って座っている。
テーブルの上で行われている駒同士の戦は、景一側が敗色濃厚の有様を見せていた。そこからさらに戦況は悪化の一途をたどり、やがて勝負は決した。
「詰みだね」
「うむぅ……まいった! 我が首級を持っていくといい!」
形勢不可逆に追い込んだ浩然が、勝利を得た。
『至熙菜館』の中。浩然と景一はその客席の一箇所を長時間陣取り、ひたすら将棋で遊んでいた。
将棋セットは至熙菜館の、つまりこの飯店の主である郭浩然のものだ。今やっていたのは日本式の将棋だが、中国の象棋も置いてある。そして、その両方で景一は負け続けていた。
「景一は突撃戦法ばかりじゃなくて、もう少し工夫して打ってみないかい?」
郭浩然が呆れ半分、笑い半分といった声でそう言った。
景一は渋面を浮かべながら、
「ううむ……そうしたいのはやまやまだが、どうにも突撃くらいしか思いつかんでなぁ」
「飛車を顎で使うより、飛車そのものの方が向いていそうだからねぇ、景一は」
浩然の冗談混じりの言葉を受け、景一は元気を取り戻して笑い飛ばす。
「そうだな! ワシは人を使うより、自ら矢面に立つ類だしなぁ! ボクシングでもプロモーターより、選手をやりたい!」
「……変わらないね。昔から」
そうこぼした浩然の口調は、懐かしむような響きを持っていた。
それを聞いて、景一もつられて微笑む。
もうすっかりお互い年寄りになってしまったが、二人は若い頃から一緒にいる。
若い頃、それぞれの理由で大陸中国から逃れ、日本に渡り住んだ。
日本に来て間もない頃から、二人は親友だった。
正伝聯盟も、この二人から始まった。そこへさらに後から晃徳が加わり「三老」となったのだ。
三人の出会いは、本当に、偶然の積み重ねだった。
しかし、その偶然の累積がなければ、正伝聯盟は生まれなかっただろう。
人の運命とは、本当に分からないものだ。
がちゃん……と、店の扉が開く。
「ああ……どうも、いらっしゃい」
浩然は瞬時に気持ちを切り替え、来客へ向いて挨拶をした。
二人組の男女だ。しかも、どちらも日本人ではない。
男の方は、初老ほどの年代。
顔つきはアジア人と西洋人の中間のような、丸みと彫りの深さが同居した感じ。特に、深い泉を思わせる静謐な青眼が印象的だった。
半袖ワイシャツとスラックスという夏仕様のビジネススーツじみた装いをまとう体はスマートだが、内側に極太の鉄芯でも宿しているような、見た目以上の質量のようなものを感じる。
女の方は、おそらく十代の終わりか、二十代の始めに差し掛かったくらいの年だろう。
百五十に達するか否かというくらい小柄な、とびきりの白人美女だった。
ビスクドールを思わせる、愛らしくも妖しさのある美貌。黒曜石を糸束にしたような長い黒髪は、先端で緩いウェーブを描いていた。
半袖の黒いドレスから伸びる腕や顔の素肌は石膏じみた白皙。ドレスはゆったりしたサイズだが、内包している抜群のプロポーションを誇る肢体の存在は隠しきれていない。
性別も年齢も見た目の華やかさも大きく異なる二人だったが、一つだけ共通した特徴があった。
隙が少しも無い。
仮に予告もなく打ち掛かりでもすれば、あっという間に体の自由を奪われて頭から地面に叩きつけられる——そんな物騒な想像が嫌でも思い浮かぶ。
これほどの逸材に会える機会など、そうそう無い。
しかし、今は自分が店主で、この二人は客なのだ。
「お二人ですね。好きな所に座って、ゆっくりと注文を決めてください」
浩然はそう穏やかに告げて厨房へ向かおうとして、止まった。
——殺気。
「あたしの注文はね……」
たどたどしい日本語で話す美女の袖口では、何かが光っていた。
銃口。
「ваш жизнь」
美女の持つ拳銃——マカロフPBのサプレッサーが火を吹いた。
侵略が、始まった。