春に還る
もうすぐかえります。春に還ります。春はすべてが孵ります。
懐かしい声がしますね。誰の声でしょう。あなたの声でもありますね。
もうすぐかえります。春が孵ります。すべてが還るときです。
聞こえるでしょうか。あれが芽吹く音ですか。これがつぼみの開く音でしょう。
もうすぐかえります。春の還りです。すべてが変わる春です。
優しい音がしますね。水の音です。火の燃える音かもしれません。
もうすぐかえります。春で孵ります。あなたのすべてが還ります。
音がしませんか。静かですね。静かな音がたくさん騒いでいます。
春に還ります。春はすべてが孵ります。もうすぐかえります。
土の中で眠る、虫や蛙やあなた。
春が孵ります。すべてが還るときです。もうすぐかえります。
霜降る夜明けを耐えて、かたく凍った草木と花。
春の還りです。すべてが変わる春です。もうすぐかえります。
しのぎを削り合って消える、ふたつの温度。
春で孵ります。あなたのすべてが還ります。もうすぐかえります。
はげしい静寂と、静かな喧騒。
もうすぐ、もうすぐかえります。
もうすぐ、春に還ります。
もうすぐ、ぜんぶが孵ります。
あなたに出会うすべてのいのち。
巡り合いましょう。そして願わくば、さようなら。
春に還るすべてのいのちへ。
かれこれ六年ほどになったでしょうか、長く続けてきたラジオ連載でしたが、この春をもちましてその連載も、お断りしようかなと考えております。ここ二年ほどは学業が忙しく継続の厳しい状況が続いておりました。ご迷惑をおかけしつつも、なんとかかんとか誤魔化して持ちこたえて、ここまで連れてきてくれたやる気のラジオ様には感謝ばかりです。
今までの集大成といえるものでは到底ありませんが、それでもここらで一休み、ひといきいれようか、という気持ちは込められたんじゃないかなと思います。
ラジオを通じて私の作品に触れたすべての人に、またどこかで出会いたいなと思います。