メンターとの闘い〜その5
郊外の地図に出ておらず、わざわざ検索しないとたどり着けない場所にその研究所はあった。
ミサは、車を運転してそこまで行ったのだが、ゲートが閉まっていて、入れなかった。
ロボットが出てきて、運転席側の窓をぎこちなくノックした。
「予定にない訪問ですね。ご用件は?」
ロボットの胸にスクリーンがあって、警備員の姿が映っていた。
ミサは窓ガラスを下ろすと、「オリトに会いに来ました。ミサです」と言った。
ゲートがすんなり開き、ロボットは戻っていった。ミサは車を研究所の構内へ入れた。
駐車場はがら空きだった。そのうちの建物に近いところにとめて、ミサは車を降りた。
不思議なことに、どちらへ行けばいいのか迷わなかった。
吸い寄せられるように長い廊下を進み、研究室の一つのドアをノックした。
やあ、来たね。
オリト?
薄暗い室内に明かりが灯った。
オリトは椅子に座って待っていた。
オリトの頭にコードが何本もつながっていて部屋の奥の巨大な箱に続いていた。
「オリト」
バチン。
ミサがオリトに触れた瞬間に雌雄が決した。
その幻は、オリトが軍服を着て、戦争の指揮をとっているものだった。ミニチュアの軍隊が闘って均衡をとっている。いつまでも続く、ある意味、平和な世界。
また、別の幻は、ミサが抱いている家庭の理想像。あたたかい両親と自由に遊ぶ子どもたち。これも平和な世界。
そして、もう一つ。幻が見えた。赤い血管が張り巡らされた羊水の中で泳いでいる胎児の見ている世界。
オリトは胎児を見ていた。いつしかオリト自身が胎児になって、無垢な心に戻った。
オリト。私のオリト。今からでも遅くはないわ。生まれ変わりましょう。
俺、俺はいつからあんな恐ろしい考え方を当たり前だと思うようになったんだ?!俺は君の兄さんを死なせてしまった。なんてことだろう?!
研究室の箱から負荷がかかりすぎて煙が出ていた。オリトは自分の頭にくっつけられたコードをむしり取り、ミサの手を引いて研究室から飛び出した。
職員が何人もいたが、オリトたちには手を出さなかった。彼らは研究室の箱をどうにかする方を優先した。
「車をとめているの」
「ああ」
運転席にミサ、助手席にオリトが乗った。幸い消防車が入ってくるのと入れ替わりでゲートを抜けることができた。
「子ども?俺の?」
「私達の」
オリトはうっとりとミサのお腹をみつめた。
「君の兄さんの生まれ変わりかな?」
「いいえ、違うわ。新しい一人の人間が生まれてくるの」
「俺はもう思い残すことはないな」
「バカ言わないで!あなたはこれからが責任重大なんだからね!」
「そう、か。はは」
オリトは自分のこれまでの考え方では対処できないことを悟った。
Brake through! Next Exit!
「新しい体制を俺たちの手で創り上げよう」
頼もしい新たなメンターの誕生だった。




