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楽して生きたい。だれか俺を養って! ~民間ギルド中間管理職奮闘記~  作者: たらこ
プロローグ:ポンコツ部隊、結成です!
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4

 

「結局こうなるのか」

「もう観念してください」


 カナデとユーミルは、炭鉱車に乗って落盤したとの情報がある場所まで向かっていた。

 国立ギルドのメンバーと一緒だ。


「隊長のバンス=トータスだ。急な依頼を受けてくれてありがとう。心より感謝を申し上げたい」

「一応、隊長のカナデ=クルシュマンだ。つっても俺たちは二人だけだぞ。大丈夫なのか」


 カナデとバンスは、炭鉱車の上で握手を交わす。


「状況は、先行して国立ギルドの土木チームがいま落盤撤去作業を行っている。力づくで岩盤をえぐった後から魔物の危険性を考慮してな。まぁ念のため、緊急で戦闘チームの派遣要請が出たのさ」

「力づく……ですか」


 ユーミルは天井を見上げる。

 土魔術で完璧に洗練された天板に、魔物除けの魔鉱石ライトが散りばめられている。

 通常、低レベルな魔物ならば、近づくことすらできないほど頑丈な作りになっている。


「想定できるのは、ロックワーム。それも大型のだな」

「そういうことだ。場所も手狭だ。できる限り少人数で、ハイレベルの人員が望ましい」


 カナデは思案を巡らす。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「ああ、そうだ。バンス、ダガ―ナイフを貸してくれ」

「別に構わないが……。お前、まさか手ぶらで来たのか?」

「急だったからな」

「……すいません。うちの隊長が、だらしなくて本当すいません」


 ユーミルは有事に備えて、当然だが自身が使うマジックアイテムや、詠唱に使用する杖は準備していた。

 比べてカナデは、財布と嗜好品のみ。

 ユーミルはチームメンバーのせいで――それも自己責任による恥をかくという経験を、初めて味わった。


「よし。あとは」


 そんなユーミルをよそに、カナデはダガーを受け取り、炭鉱車に積んであった魔鉱石に手を伸ばす。


「……カナデさん、なにをしているんです?」

「有事の際の、下準備だよ」


 カナデは、ダガーの柄を使い魔鉱石を砕く。

 手のひらサイズになったそれに、なにやら文字を刻んでいるようだ。


 カナデが文字を刻み終える頃。

 炭鉱車も目的の場所に到着した。


「バンス隊長! お疲れ様です。来ていただいて、ありがとうございます」

「気にするな。仕事だ」


 先行していた土木チームとの合流を果たし、バンス率いる部隊と、カナデ、ユーミルは周辺警戒へと当たる。

 落下した岩盤の撤去作業が順調に進んでいた中。


「カナデさん! 起きてください! し、信じられませんこの男! 仕事中になに堂々と寝ているんですか!?」


 壁にもたれ掛り、腕組をしたままカナデは寝ていた。

 先刻から動く気配のないカナデに気付いたユーミルは押し倒す勢いでカナデを揺さぶった。


「ん、ああ。おはよう。……終わった?」

「こ、この、この男は」


 ユーミルの顔は真っ赤だった。

 社会人失格(だめにんげん)を前に、怒りを露わにする。

 遠巻きで、バンスたちもそのやりとりを見ていた。


 ……かわいそうに。


 ユーミルに対する同情しかなかった。


「よーくわかりましたッ! あなたが左遷された理由! なにが優秀すぎるからですか! ただ単にサボり癖が抜けないからじゃないですか!」

「ほほう。よくぞ見破ったな」

「やかましいですよ!」


 けたけたとユーミルをあざ笑うカナデ。

 真面目な反応が新鮮で、からかうのが楽しくなってきたのである。


「このギルドカード詐欺! 張りぼて! ダメ人間!」

「はっはっは。なんとでも言えー」


 およそ隊長と部下とは思えないやり取りを前に。

 ()()()はやってきた。


「ぜ、前方より魔物探知に反応あり! 大きいです!」

「きたかッ! 総員戦闘準備に移れッ!!」


 ――おお!


 バンスの掛け声と共に、国立ギルドメンバーは統制の取れた動きを見せる。


「……私たちはどうするんです。た、い、ちょ、う」


 怒鳴りすぎて、涙目混じりのユーミルがカナデを見上げる。


「どの道お前は後衛職で、俺は中衛だ。ますは国立ギルド様のお手並みでも勉強させてもらおう」

「またそういう……」


 この男には勤労意欲とか、使命感はないのか。


「やはりロックワーム……! し、しかしこれほどの大きさは」


 バンスは驚愕する。

 通常のロックワームは、成人男性と同じくらいの大きさだが。

 目の前の大型種はそれを遥かにしのぐ。全長で言えば、十メイルはある天井にすら届かんばかりの大きさだ。


「ま、魔法。放てッ!!」


 バンスの掛け声で、後衛部隊のメンバーが一斉に水魔法を唱える。

 水圧でロックワームの体が押し出されるも、致命的なダメージには繋がっていない。


「くそ、やるしかない」


 バンスは自身の武器――ロングソードを抜き、果敢に斬りかかるが、表皮が岩で覆われているロックワームには物理ダメージはほぼ入っていない様子だ。


「か、カナデさん! 私たちも援護を!」


 苦戦する国立ギルドメンバーを見て、ユーミルは居ても立ってもいられなかった。


「いや、ユーミルはここで待機だ」

「まだそんな悠長なことをッ!」


 カナデに食ってかかるユーミル。

 ぽん、とユーミルの頭に手を置くカナデ。

 落ち着け、と言わんばかりに。


「大丈夫だ」


 そういうと、カナデは。


『この場に()いて宣言する』


 ――鉄は、岩より硬い。


 カナデがそう唱えた瞬間。

 カナデの足元から、ユーミルが今まで見たこともない魔術式が展開された。

 術式はカナデの足元から円上に地面を駆け巡り、()()()()()()へ移った。


「な、なんですか今の!?」

「あとはこれで仕上げだ」


 ポケットから、炭鉱車で作成した魔鉱石を取り出す。

 それをカナデは、ロックワーム目掛けてぶん投げた!


『加速』『自動追尾』の術式を刻んだ魔鉱石は、ロックワームの表皮を軽々突き破り、今までで一番のダメージを負わせた。


「バンス!あとは頼む!」


 カナデはそうバンスに向けて言い放つ。

 呆気に取られていたバンスだったが、その言葉で我に返った。

 突然表皮を砕かれたロックワームは、わけもわからずに怯んでいる。


「おおぉぉぉッ!!」


 雄たけびを上げ、バンスは力いっぱいロングソードを振りぬく!

 先ほどまで弾かれていた剣が、ロックワームの岩ごと斬り裂いた。斬ったハンス自身が驚くほど、ロックワームの表皮がウソみたいにもろく感じた。


 真っ二つになったロックワームの頭を、バンスは油断せず切り崩し、止めを刺した。


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