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楽して生きたい。だれか俺を養って! ~民間ギルド中間管理職奮闘記~  作者: たらこ
プロローグ:ポンコツ部隊、結成です!
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3

 

 カナデとユーミルが食事を終えて汽車に戻ると、なにやら人だかりができていた。

 商人らしき男たちが、駅員に詰め寄っているようだ。


「どうしたんですかね」


 ユーミルが不安そうにカナデに聞いてくる。


「ただ事ではなさそうだな」

「私、ちょっと事情を聞いてきます」


 どこか他人事のカナデを置いて、ユーミルは小走りで人だかりに混じっていった。


「す、すいません。どうかされましたか?」

「あぁ、お嬢さんもダグラス港行きの汽車かい?」

「はい」

「この先のトンネルで落盤事故が起きたそうでね。復旧がいつ終わるかわからないって言うんだ。まったく困るよ。明日までには荷物を関税に通さなくちゃいけないのに……」


 商人らしき男は、心底困った様子でため息を吐く。


「誠に申し訳ございません。今、上の者が国立ギルドへ依頼を出したところです。今晩中には安全確認も含めて出発できる支度を整えますので……」


「ほーら散った散った。そーいうことなら俺たちが今ここで騒いでも、余計に彼の仕事が遅れるだけだ」

「カナデさん」


 いつの間にか、ユーミルの後ろにカナデが立っていた。

 カナデの言葉に商人たちは肩を落として落胆する。

 彼らも分かっている。今彼に八つ当たりをしたところで、現状はどうにもならない。


「しゅ、出発は明日の始発には必ず! 皆様には誠にご迷惑をお掛けいたします」


 その言葉で駅員に詰め寄っていた人だかりは、ぽつぽつと解消された。

 幸い、ギルスタントは宿も多い。明日の朝まで、という言葉に渋々納得せざる負えなかった。


「ほらユーミル、俺たちも行くぞ」

「え、あ、はい。……あの」


 ユーミルは、汽車の先にある、落盤があったと言われたトンネルを見た。


「駄目だ。却下だ」

「ま、まだ何も言ってません!」


 カナデ、ユーミルは『黄金の林檎』所属のギルドメンバー。

 こういった交通機関での事故対応の依頼も、少なからず経験がある。

 だが、それゆえに。


会社(ギルド)を通さずに依頼なんて受けれるわけないだろ」

「それは……そう、ですよね」

「さっき駅員の彼も、国立ギルドに依頼をしたと言っていたし。ここは彼らに任せればいい」

「……はい」


 国立ギルドは、大きな街には必ず支部を置いている。

 民間ギルドより、こういったインフラ――帝国の行政に関わる依頼を中心に受けているのだ。

 カナデの言うことは正しい。


「たしか、この街にもギルド支部があったはずだ。この状況なら、宿も経費で落ちるだろう」


 ギルドカードがあれば、こういった時でもギルドの恩恵を受けることができる。

 大手企業さまさまだ。

 ユーミルは、まだ少し不満があるものの。カナデが言っていることには納得した。


 ――困っている人を助けたいからです!


 納得はしたが、ふと。

 自分がギルドの面接で言った言葉を思い出した。



 ◆



「カナデ=クルシュマン隊長と、ユーミル=アルニスさんですね。長旅、御苦労様です」


 黄金の林檎、ギルスタント中央支部。

 採掘産業が盛んなギルスタントは、人の集まりがいい。

 依頼もそれだけ多く集まるため、下手な帝都支部よりも立派な建物、数多くのギルドメンバーがいた。


「すごい立派なところですね……。私がいた第八支部よりも大きい」

「ま、帝都は土地の物価も高いしな」

「カナデさんはここに来たことがあるんですか?」

「昔な。古代種ドラゴンの化石があったとかなんとかで、各ギルドがこぞってこの街に人員を派遣したんだよ」


 ドラゴン自体、ハイレベルモンスターとして有名だ。その鱗一枚でも市場価格100万リラはくだらないとされている。

 その中でも『古代種』は、学術的に存在していると確立されているだけで、未だにその存在を裏付ける物証は何一つ見つかっていない。

 化石であろうが、発見・採取されればその価値は計り知れない。


「ありましたねー。あの時は流石に申請書類の山に殺されると思いました」


 受付のお姉さんが、朗らかに恐ろしい単語を吐く。


「結局、ガセネタだったけどな」

「な、なるほどです」


 ――ガチャ


 カナデたちの後ろから、扉が開く音が聞こえた。


「ナシュリーさん、こんばんわ」

「あら、ジーニスさん。こんばんわ」


 受付のお姉さん――ナシュリーは突然の来訪者に慌てることなく、にこやかに挨拶を返した。

 ジーニスと呼ばれた男は、カナデたちの存在に気付くとふかぶかと頭を下げた。


「突然失礼した。私は帝国ギルスタント支部営業部課長、ジーニスと申します」

「わ、私は黄金の林檎所属、ユーミル=アルニスです」

「同じく、カナデ=クルシュマンだ」


 ジーニスに合わせて、ユーミルもふかぶかと頭を下げる。

 カナデは、右手をへらへらさせて挨拶をした。


「ナシュリーさん。急ですまないが、黄金の林檎に依頼を申し込みたい」

「あらあら。本当に急ですね」

「す、すまない。君と私の中だと思って、失礼を承知でお願いしたい」


 カナデは、この時点で嫌な予感がした。


「先ほど鉄道会社より落盤撤去の依頼を受けたんだが、どうやら自然落盤ではなく、魔物が絡んでいるようだ。落盤規模から考えると、大型クラスが絡んできているともわかった」

「なるほど。うちに依頼は、落盤撤去作業時の護衛・または魔物の討伐、ですか」


 ナシュリーは腕を組み思案する。

 大型ともなれば、Bクラス以上の部隊で望むのが好ましい。

 現在、当直で残っているギルドメンバーは全員Dクラスだ。

 通常のDクラス部隊平均レベルは30前後。これでは二次災害の可能性が高まるだけだ。

 ちらっと。

 ナシュリーはカナデを見る。

 先ほど、カナデのギルドカードを見て驚愕したばかりだ。

 レベルだけで言えば、値千金、一騎当千の猛者と捉えてもなんら不思議はない。

 カナデは、それが分かっていたかのようにナシュリーの方向は一切見ない。

 いやだ。やだ。絶対いやだ。


「カナデ=クルシュマン隊長?」


 そんなカナデの心境を見透かすかのごとく。

 ナシュリーはカナデにプレッシャーをかける。

 カナデは、わざとらしく咳払いをした。


「な、ナシュリーさん。宿の手配は、まだかね」


 そう言いながら、後ずさりをするカナデ。

 がし。

 と腰の服を力強く握られた。


「カナデさん?」


 ユーミルだった。

 ここまでくると、ユーミルも流れは察知した。

 先ほどは、『会社を通さずに依頼は受けられない』とユーミルを納得させたが。

 それももう通用しない。

 ちくしょう!


「ユーミル」

「はい」

「俺はな。働きたくない」

「出会ってから今までで! 一番まっすぐな瞳でそんなこと言わないでください!」


 しかし。

 カナデも分かっていた。


「そんなカナデ=クルシュマン隊長には」


 ナシュリーが手元の書類を猛スピードで書き上げる。

 よせ。やめろ。やめるんだ!


「はい。『正式』なギルドからの依頼書(めいれい)です。報告書が上がるまで、隊長への給与は支払いがストップしますから、がんばってください」


 悪魔のような頬笑みだった。


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