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楽して生きたい。だれか俺を養って! ~民間ギルド中間管理職奮闘記~  作者: たらこ
プロローグ:ポンコツ部隊、結成です!
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1

 

 翌朝。酒の飲み過ぎでガンガンする頭を押さえながら、カナデは帝都の駅構内にいた。

 異動先である『南エスポリス共和国』へは、この駅から出発する特急魔鉱機関車で帝国の最南端――ダグリス港へと向かう。

 そこから船で半日渡った場所が、カナデの新しい職場である共和国中央支部だ。


 帝国は、大陸最大規模を誇る超大国だ。

 時速百キロメイルの乗り物でも終点まで丸一日かかる。

 明日の朝にダグリスへ到着し、そのまま船で半日。明日の夕方に支部へ顔を出すことになるだろう。


 移動自体は、小旅行のようでやぶさかでもない。とカナデは考えていた。

 しかし。


「……昨日付けで、南エスポリス共和国中央支部、部隊後衛職に任命されました。黄金の林檎所属、ユーミル=アルニスです。今日からよろしくお願いします」


 カナデを待っていたのは、小柄な美少女だった。

 髪は透き通るようなシルバーカラ―。

 少々気の強そうな猫目。


「あぁ、こちらこそよろしく。カナデ=クルシュマンだ。カナデって呼んでくれ」


 精一杯愛想を良くして、握手を求めてみる。


「……いくら遠方への左遷でやけになっても、お酒を飲み過ぎるのは社会人としてどうかと思います。服もだらしないですし」


 昨晩飲み過ぎたせいか、アルコール臭がするようだ。

 カナデが差し出した右手は、誰に掴まれることもなく、気まずそうに引っ込めた。

 んんッとわざとらしく咳払いをし、カナデは体裁を保とうと服の襟を正す。


「アルニスさんは、今まではどこの支部に?」

「第八支部です」

「そっかー。まだ若いのに、シングルの部署だなんてすごいねー」

「昨日からカナデさんと同じ、隣国の、聞いたこともない支部ですけど。あと、若いとか女性に対して気軽にいうのはセクハラです」


 ――まもなく、南方行き特急魔鉱機関車が到着します。

 ――終点はダグラス港。終点はダグラス港。乗車のお客様は、九番線ホーム内側でお待ちください。


 初部下とのコミュニケーションは、最悪のものとなった。

 カナデは、この目の前のつんけんしているお嬢様と、仲良くなれる気が全くしなかった。

 ちくしょう! 気を使って「幼い」じゃなくて「若い」って言ってやったのに!

 どう見たって目の前の少女は、「社会人」というより「学生」である。

 まぁ、流石に中等部卒を黄金の林檎が雇用するわけがないので、どれだけ見繕っても高等部卒だとは思うのだが。


「……はぁ。まぁとりあえず、道中よろしく。汽車も来たことだし、行くぞ」

「あ、ちょ」


 ユーミルの、これでもかと荷物を詰め込んだ大きな鞄をカナデが持つ。

 この少女を前に、取り繕ってもどうせボロが出るとわかったカナデは、先ほどまでの精一杯の愛想をぶん投げて通常運転に切り替えた。


「どうした。さっさとしろー」

「……ありがとう、ございます」


 荷物を持ってくれたカナデに、しぶしぶお礼を言うユーミル。


「素直なことはいいことだ」

「……というか、カナデさんの荷物それだけですか?」


 ハンドバッグひとつ。

 中には、お気に入りのウィスキーの小瓶。財布。煙草。のみである。


「俺は効率主義者なんだよ。あとのもんは現地で必要なときに、必要なものを買えばいいんだ」

「は、はぁ」


 ユーミルにとって、社会人とは、大人とは。

 もっと『しっかり』している人ばかりだと思っていた。

 いや、現に第八支部の先輩方は優秀だった。酒の臭いをさせて出勤なんてしないし、無精ひげを生やしたまま外には出ないし。襟だってこんなよれよれになっていない。

 まだ、決めつけるのは早計だ。

 きっとこの人は、急な左遷でやさぐれているだけなのだ。

 そう自分に言い聞かせるユーミルだった。

 なにせ、あの()()()()に五年間も在籍をしていた人物だ。

 きっと、きっと。



 ◆



 ――本日はご乗車、誠にありがとうございます。

 ――当汽車は、南方ダグラス港を終点とし、へブニル、タンバート、ギルスタントへと停車します。


 アナウンスが静かに流れる。

 始発ということもあってか、汽車の中の乗客はずいぶん少ない。


「さて。落ち着いたところで」

「ちょ、なにお酒飲もうとしてるんですか!?」


 ハンドバッグからごそごそ酒を取りだそうとするカナデ。


「いいじゃないか。もうあとは終点まで待つだけだろ?」

「良くないです! 朝からお酒なんて! みっともない!」


 まるで母親のような口ぶりだ。


「ギルドカードを確認し合うとか、いろいろあるじゃないですか! 一応移動も就業時間なんですよ!」


 母親というより、委員長だな。

 どうやら、うすうす感じてはいたが、ユーミルはカナデと対極の位置にいる真面目な女の子だ。

 むしろ、なんでこんな子が俺と一緒に左遷もどきの辞令を受けているのか不思議でならない。

 もし、カナデのお目付け役としてギルドが采配したのだとすれば、ユーミルに一生恨まれそうである。


 黄金の林檎の支部は、現在百を有する。

 その中でも、本部を除いた第一から第九支部はシングルと呼ばれ、高単価の依頼を率先して取り扱う。いわば会社の花形部署だ。

 優秀な人材は、入社してまずこのシングルへ振り分けされる。


「なぁ、ユーミルはなんで南方支部なんかに配属になったんだ?」

「もう呼び捨てですか……。まぁいいですけど」


 そう言って、ユーミルはギルドカードをカナデに差し出す。


「それを見ればわかります」


 ――――――――――――――――――――――――

 N:ユーミル=アルニス

 S:黄金の林檎

 L:28

 M:407

【才能】

 :代償

 ――――――――――――――――――――――――


 ギルドカードは、自身の簡易ステータスが表示されている民間ギルド社員の社員証である。

 細かなスタータスは、住民票のある役場にまで届け出を出さなければ照会できないが、L (レベル)M(魔力適正値)、そして【才能(ギフト)】を見れればある程度の戦闘適正は把握できる。


才能(ギフト)】は、この世界における人類にのみ()()()()与えられた、超常的な能力のことを指す。

 有史以来、様々所説はあるものの、帝国においては『人類神クヌム』が人々が魔物や魔族に打ち勝てるよう与えてくださった――というのがポピュラーな説だ。


「レベルに対して魔力適正が異常に高いな。そりゃシングルにいたわけだ」


 素直な感想だった。

 ユーミルも褒められて、悪い気はしない。


「この才能(ギフト)が問題なのか? 代償ってのは初めて見るな」

「……はい」


 ギフトは多種多様であり、単純な身体向上能力もあれば、開発・発明に特化した能力もある。

 噂によると、初代皇帝は『不死』のギフトを持っていたのだとか。

 個人により、本当に千差万別なのである。


「私の才能(ギフト)は、使った魔法・魔術に対して、半強制的に代価を払うものです」

「……それは、また」


 難儀な才能だった。


「ヒール一回で、三千リラ。精霊系統の上位魔法だと、一回約五万リラです」

「……まじか」


 黄金の林檎の平社員平均月収は、約二十五万リラ。

 そこからギルド組合費、所得税、家賃を支払って手元に残るのはだいたい十八万リラである。

 上位魔法を月に三回もぶっぱなせば、赤字必須である。


「よく今まで生活できてこれたな……」

「帝都に実家があるので、生活はなんとか。ただ、メンバーから『頼むから極力魔法は打たないでくれ、心が痛む』と……」


 ま、まぁ年頃の女の子が身銭を切ってまで回復や戦闘支援をするのは流石にな。

 ユーミルは話しているうちに、情けなさからかどんどんと小さく屈んでいた。

 こう言ってはなんだが、明らかに前線部隊には向いていない才能(ギフト)だった。



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