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楽して生きたい。だれか俺を養って! ~民間ギルド中間管理職奮闘記~  作者: たらこ
プロローグ:ポンコツ部隊、結成です!
1/5

 

「カナデ=クルシュマン、今日君が呼び出された理由に心当たりはあるかね?」

「いえ、まったく。これっぽっちも」


 カナデと呼ばれた青年は、目の前にいる自分より一回りも体格の大きな男に一切怯えることなく応えた。

 それどころか、定時終わってんのに説教かよ早く終われちくしょう――とさえ思っている。


「……君のチームから、ここ数カ月。クルシュマンくんに対して猛烈なクレームが来ている」

「はぁ、そっすか」


 カナデの前に悠然と座る大男は、カナデが雇用されている民間ギルドのギルドマスター補佐長――アイザックである。

 平社員のカナデにとってしてみれば、部長を前にしているのと同義だ。

 アイザックが、カナデの受け答えに先ほどから眉間のしわがピクピク動いているが、カナデは気にも留めていなかった。


「……私たちの仕事は、帝都から依頼されるSクラスの依頼もあれば、近隣の村から依頼されるNクラスのものまで様々だ。しかし、どの依頼にしても大なり小なりの社会貢献である。討伐した魔物は皮から肉に至るまで市場へと流通し、武器や工具、食べ物として大衆にまで還元される」

「はい」


 ――ドンッ!


 アイザックは思わず机を叩き、身を乗り出す。これはカナデの態度に対する怒りからくるわけではなく、単に仕事に対する熱が溢れたのである。


「いわば! 民衆の基盤を作る仕事と言っても過言ではない!」

「アイザック補佐長、近い。近いです」


 どさ、と椅子に座り直し、手元の書類に目を向けるアイザック。


「それをクルシュマンくん。君は理解できていないんじゃあないかと不安でね」

「お言葉ですが補佐長。自分はこれでも入社以来、無遅刻無欠席です。また、依頼を放棄したことも今までありません」


 死んだ魚の目をして言い返すカナデ。

 学生時代から目に生気がないとよく言われたが、カナデにとってはこれがデフォルトである。


「うむ。それは素晴らしいことだ。が、しかし」


 アイザックは、手元の書類をカナデに差し出す。


「私は遠回りに言うのが苦手でね。読み上げると長くなるからそれに目を通すといい」


 カナデは書類を手に取り、上から目を通した。


 ――〇月×日 ヤルルクゥの村でのゴブリン討伐にて。カナデ=クルシュマンは「索敵に向かう」と言い残し、森へと消えた。定時になり奴が帰還するが、収穫は0。不審に思い奴が向かった先を確認すると、五メイル先に人が寝ころんでいた形跡を発見。尚ゴブリンは奴とは真逆の方向より襲来。


 ――○月×日 ドルニ洞窟での魔鉱石採掘依頼にて。採掘が難航し、チーム全員夜間作業を覚悟していた中。カナデ=クルシュマンの姿を定時以降、見たものはいない。


 ――○月×日 ファナンの森にて手負いのワイバーン討伐依頼にて。中距離援護職であるにも関わらず、後衛のヒーラーへポーションを渡す作業に徹底。いる?それ。


 エトセトラ

 エトセトラ


「……」

「……」


 沈黙がギルド執務室へ流れる。

 己の怠慢がこれでもかと書かれている紙に、思わず目を背けたくなるカナデである。


「クルシュマンくん。君のステータスは決して低くない。むしろ、エース級の魔法技能や才能(ギフト)を持っている。なにしろ、あの魔法士官学校を首席で卒業するほどだ。なのに」


 アイザックはため息を吐く。

 入社以来、熱意と人望、実力を持って今の立場まで成り上がった彼は、目の前のカナデという素材が腐っていくことが我慢ならなかった。

 カナデはというと、あいつら結構根に持ってたんだなぁと書類をパラパラめくっていた。

 そして、一番最後のページだけ、他と様式が違うことに気づく。

 それを目にしたとき、流石のカナデにも動揺が見えた。


「アイザック補佐長。これまじですか」

「まじだ。大まじだ」


 ――――異動辞令。貴君、カナデ=クルシュマンは本日付けで、南エスポリス共和国中央支部への転属を命ず。また、それに伴いD部隊長への昇格を命ず。貴君のますますの成長と、我がギルドへの貢献を祈る。



 ◆



「どーしてこーなった」


 カナデはアイザックから辞令を受け取り、そのまま馴染みのある酒場へと足を運んだ。

 デーブル席へと腰をかけ、キラーベア―肉の煮付けと燻製豆を注文し、いつもより度数のたかいウィスキーを注文した。


「どうしたぁ、カナデ。いつもより目が死んでるねぇ」

「うるせーよ、ほっとけ」


 同じ常連仲間の野郎共が声を掛けてくるが、奴らに相談して解決する話でもない。

 不幸中の幸いとでも言うべきか、カナデは独り身。

 というか奥さんどころか恋人すらいない。

 明日遠方に飛ばされようが特に困る問題はない。ないのだが。

 いくらなんでも急過ぎだ。


 カナデが所属する大手民間ギルド、『黄金の林檎』

 従業員数は末端まで含めれば三千人オーバーの帝国最大規模ギルドである。

 初任給も他と比べれば全然いいし。

 優秀な人材もたくさんいるし。


 ここでなら、俺は楽ができると踏んで魔法士官学校首席まで取ったのに。

 入社して五年。ここまで順当に楽ができたのに。

 おそらく、それを見越した上で補佐長は俺を()()()()()()させたのだろう。


「あぁ……楽して生きたい」


 ぼそっと。

 ウィスキーを片手に、カナデは切実に言葉を吐きだした。

『黄金の林檎』一のダメ人間といっても過言ではなかった。


「よう。カナデ。補佐長の説教は身に染みたか?」


 ブロンドヘアーの短髪。カナデとは対照的なギラギラした目つきが特徴的な男がカナデに話しかけてきた。


「なんだタクトか。説教は、この酒よりかは身に染みたよ」

「お、珍しく上等な酒飲んでやがるなテメ―」


 タクトと呼ばれた青年は、どかっとカナデの対面へと座る。

 彼も、カナデと同じ『黄金の林檎』メンバーである。

 ただ彼は、カナデとは別支部の、それも営業担当だ。

 カナデが所属する前線部隊の他にも、依頼の斡旋を行う営業部、武器防具の修理修繕や馬車の手配を行う総務部など、様々な部署に分かれている。

 カナデとタクトは、同期入社の間柄だ。


「ほらこれ」

「あん? くしゃくしゃの紙……って異動辞令かこれ!?」


 カナデは、ポケットにくしゃくしゃにして突っ込んだ辞令書をタクトに見せた。


「お前もとうとう左遷かぁ」

「左遷いうな。心に刺さるだろう」

「いや、お前の勤務態度の悪さは帝都中の支部に響き渡ってるからな? むしろ今までよく飛ばされなかったよ」


 容赦のないタクトの言葉に、カナデはけっと悪態をつく。


「できる人間が、できる仕事をすればいいんだよ。俺みたいな怠け者は、サボるくらいで丁度いいんだ。第一、部隊がやばいときは俺だってちゃんと働くさ」

「テキトーなこと言いやがって。お前らはいいよな。ノルマとかないもんな。俺たちなんて、毎月毎月依頼を取りに大変なんだぞ!」


 タクトはカナデからウィスキーを奪いグラスを空にする。


「おっちゃーん! ブランデーロック二つ追加だ!」


 そこから先は、いつもの仕事の愚痴トークだった。

 夜が更け。出発の時がやってくる。


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