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「……って言っても、近くに友達の宿があるから案内してあげるわ? お腹も空いているんでしょう?」
ギルドを出ること数分、商店が並ぶ、賑やかな路地。その一角に、マスターの言う宿があった。小さめだが、綺麗に手入れされている。
「こんにちはー、冒険者ギルドのマスターに紹介されたんですけど」
宿の扉を開けると、据え付けられたベルが、からからん、と鳴る。温かい空気とミルクの香りがレキを出迎えてくれた。
「はいはーい! お食事かしら、それともお泊り?」
扉の向こうは、ギルドと同じような広間になっていた。カウンターの後ろの扉から、ふわふわしたおばさんが小走りで近寄って来る。
「泊まりです、お姉さん。あと夕食も」俺は『お姉さん』を強調しつつ、金貨を一枚渡す。
マスターに「若くない」と言ってしまったような失言はしない。俺は成長する男だ。
「あらあら、お姉さんなんて」女将さんは口元に手をやり、おばさんポーズで手をぶんぶん振る。
「名前は……レキ君ね。金貨で払うなんて、何泊するつもりかしら、うふふ。マスターの紹介ってことは、冒険者さん? あら、カードが首に。木製……新米さんね、かわいい! ふふ、それにしても助かるわ。うちって、収穫祭までお客さん少ないから。部屋は二階だけど……あ、お腹すいた? ご飯にする? 今日ね、娘が初めてお料理を作ったのよ。クリームシチュー! うちはこの辺では珍しく、タリー種の乳牛を育てる農家さんと取引してて……飲んだことはある? それはもう、普通とは全くコクが違う絶品で! ……って、ご飯よね、ごめんなさい。私、たまに喋り過ぎちゃって。……レーニー。レーニー! あなたのシチュー、お客さんが食べたいって!」
女将さんは一気に喋ると、奥の扉に向かって呼びかけた。程なく、足音を響かせながら小さな女の子が顔を出す。
「今持ってきますので! です!」レーニーと呼ばれた幼女はお辞儀をして、また扉の奥へ。女将さんは、二階へとベッドメイキングに向かった。
「すごい人だな」俺は苦笑する。
「悪い人では無さそうっすけどね」ナビも若干圧倒されたようだ。
「しばらく待つか」そう言って、俺がテーブルで一休みしようとした瞬間――。
ドアが開く、ベルの音が鳴り響いた。