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私立叢雲学園怪奇事件簿【第三部 朱雀編】  作者: 来栖らいか
【第六章】キャタリスト
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〔1〕-2

 優樹からは「篠宮家跡継ぎとして優樹を渡すように祖父に言われたが、両親が拒んだため無理に奪いに来た祖父の部下から逃れようとして母と共に海に落ちた」と聞いていたからだ。

「ある組織って……」 

 思わず身を乗り出した遼を遮るように、アレクセイが手を上げた。

「うん……それ、については私から説明させて下さい。改めてレディ・シュラには、我々の組織が果たすべき役割を御理解いただいた上で、ご協力願いたいのでね。まず、誤解のないよう最初に断っておきます。我々はユーキを危険から守るため本部から派遣されました。組織の名は明らかにできませんが、レディ・シュラは我々を〈ウオッチャー〉と呼んでいます」

「ウオッチャー……観察者、番人ということですね?」

 篠宮理事長が亡くなった事故の時、耳にした名だ。

 遼の言葉を微笑みで肯定し、アレクセイは続ける。

「リョウは既に気付いていますね? ユーキは生まれながらに少々、一般の人々とは異なる特異な性質を備えていることを。我々は、そのような特異性を有した人々を〈キャタリスト〉と呼び、必要最低限の干渉を厳守し見守っているのです」

「優樹が、その〈キャタリスト〉だということですか?」

 その意味の重要さを伝えるためか、アレクセイは真摯な表情で頷いた。

「さて、ここからが本題です。我々の組織は世界各国に存在する〈キャタリスト〉を見つけ出し観察すると同時に、社会的に望ましくない影響を与えると判断した場合は先ほど申し上げたとおり、やむを得ず必要最低限干渉することがあります。ですが、彼等の特異性を利用して混乱や争いを引き起こし、利益を得ようとする組織もあるのです。彼等が悪用されないように保護するのもまた、我々の役割でもあります」

 アレクセイの言葉の意味は、容易に察することができた。

 民衆を扇動する力、強大な破壊力を持つ兵器を発明する頭脳。干ばつや洪水を操る能力。

 本当に、そのような特異能力を持つものがいるとしたら?

 遼の背に、冷たい戦慄が走る。

 自分は既に、その片鱗を目撃しているからだ。

「少し解らないことがあるんですけど……本来、狙われていたのは朱羅さんですよね? ところが現状では朱羅さんが表立って活動することを厭わないのに、優樹の動向に関しては慎重だ。つまり、いま狙われているのは朱羅さんではなく優樹……」

 確信を持って向けられた視線を、朱羅は真っ直ぐ受け止めた。

「ええ、秋本くんの言う通りよ。そもそもなぜ、私や優樹が組織のターゲットになったのか。本来なら、お爺さま……篠宮理事長との会食で全てを話す予定だった。でも、こんなことになるなんて……」

 一瞬、言葉を詰まらせた朱羅は浅く呼吸を整えると紅茶を一口飲む。

「叢雲学園館山校の裏手、切り立った岬の先端に奉られている〈村雲神社〉を知っているでしょう? あの神社は本来、叢雲学園本館が建っている場所に建立されていたの。この国、日本は昔から台風や大風被害が多く、関東平野には大きな川もある。そこで、大波や大風から関東平野を守るために建立されたと謂れているわ。御神体は今でも学園の地下に奉られていて、岬にある神社は形だけ。そして篠宮家は代々、〈叢雲神社〉宮司を務めていた……。でも、叢雲学園横浜校創設者である篠宮星華さまが六十三代目の女性宮司を務めていたとき第一次世界大戦が起きて軍に土地ごと神社を徴収されてしまい、防空壕や武器弾薬資材保管に利用されたのだそうよ」

 学園創設者の篠宮星華さまの話は、倒れた事故の時に少し聞いている。しかし〈叢雲神社〉の謂れや宮司、軍の徴収の話は初めて知った。学園の地下にある広い倉庫や開かずの鉄扉は、大戦の名残なのだろう。

 アレクセイが訳知り顔で朱羅の後を続ける。

「ん~、その〈叢雲神社〉の建立理由とレディ・セイカの存在が、好ましくない組織の目を引いてしまったようです。第二次世界大戦前、彼等は某人物を使い世界情勢を混乱に導くことに忙しかったのですが、活動範囲はヨーロッパ圏に集中していました。ところが少し活発に動きすぎて組織の存在が明るみになりかけたので、大戦後は拠点を分散し情報収集のみの活動をしていたのです。そこで見つけたのが、今から約一〇〇年前、ニホンでは大正の時代に一人の女性のため組織から離反したトウヤ・クオウとレディ・セイカの存在です。彼等はレディ・セイカの特異性を知り、系譜を調べ、篠宮の血筋に辿り着いた。軍国主義に染まりつつあるニホンに自らの特異性を利用されるのが嫌で逃げたはずなのに、一〇〇年も後に自分の所為で一族に危険が迫るとは考えてもいなかったでしょうね!」

 アレクセイが状況を楽しんでいるように見えて不快感から遼は眉をしかめたが、朱羅は意にも止めていないようだ。

「篠宮家は主に女性が特異性を持つらしくて代々、巫女としての役割を担っていたそうよ。お爺さまが何をどこまで知っていたか、今となっては解らないけど私に危険が迫っていると判断して手元で保護するつもりだった。ところが私に特異性が表れる様子はなく、私と間違われ海に落ちた優樹は怪我一つない身で助かった……お爺さまは事件を知ると即座に二人を隠し、偽りの情報を彼等に与え、何らかの手段を持って追い返したらしいわ。海に落ちた子供は篠宮の巫女の子孫として死に、私は一五歳まで親族の庶子として育てられ、優樹は守られていたはずだった」

「うん、ユーキは高校生になっても特異性が表れず、もう狙われる危険は無いと判断して篠宮理事長はレディ・シュラに事情を話し籍を戻しました。しかし篠宮家のMark(監視)は継続されていたらしく、秋月湖の事件でユーキはTarget(標的)になってしまった。我々がニホンに来たのは、イギリスにある彼等の本部に動きがあったからです」

 否応なく……と言い足してアレクセイは肩をすくめた。

 叢雲神社の謎、篠宮の系譜。

 優樹の特異性を狙う者……。

 まだ多くのことが解らないが、全てを解明する必要は無い。やるべきことは一つだ。

 深く息を吸い、遼はアレクセイに向き直る。

「大体の事情は理解しました。僕は、僕の出来ることで優樹を助けます。そのためにも、優樹を狙う組織の名を知りたい。名前を知っていた方が、明確に敵として認識できるので」

 遼の言葉にアレクセイは、喉を鳴らすように笑った。

「ん~、彼等の存在は他言しないRule(決まり)なのですが、遼のDetemination(決意)に免じて教えましょう。正式名は未だ不明なので、我々は彼等を〈エクスペリメンター〉と呼んでいます」

「エクスペリメンター……探求者、ですか」

「そう、変化を求める者。この世界に混乱を、もたらす者たちです」

 見つめ返すアレクセイの瞳が冷たく光った。







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