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私立叢雲学園怪奇事件簿【第三部 朱雀編】  作者: 来栖らいか
【第六章】キャタリスト
23/27

〔1〕-1

 篠宮剛志朗の葬儀は早急に近親者のみで密葬を済ませ、九月に入ってから大掛かりな社葬を執り行うこととなった。

 篠宮理事長、密葬の翌日。

 秋本遼は朱羅に呼び出され、叢雲学園横浜校・理事長室に向かった。

 密葬に参列した優樹の世話人である田村から聞いたところでは、社葬の世話役代表として関連グループ企業一番の大手である『篠宮商事』代表取締役社長が名乗りを上げたが、朱羅は「企業経営から退いた祖父が最も愛し大切にしていたのは、叢雲学園に学ぶ生徒達と熱意を持って働く教職員の方々です」と主張し喪主兼世話役代表を頑として譲らなかったそうだ。

 守るべきものを遵守する朱羅の気高さと頼もしい姿が優樹と重なる。朱羅と同じ立場なら、優樹も自ら表に立つだろう。

 数分、立ち話をしただけでも篠宮理事長からは魅力的な人柄と尊敬できる人物像が伝わってきた。優樹から聞いた印象とは大きく違う。

「優樹は誤解している」と、朱羅は言った。

 悲惨な事故が起こらず夕食を共にする事が出来れば、真実に近づけたかもしれない。

 何より、もっとたくさん話してみたかった……。

 理事長室を前に遼は、少し居住まいを正してから緊張気味にドアをノックした。すると、意外なことにドアを開け出てきたのはアレクセイだった。

 アレクセイに招き入れられ、応接セットの革張りソファに腰をかける。

「うん……そんなに恐い顔で睨まないでください、リョウ。レディ・シュラは社葬の打ち合わせで少し遅れてきます。待つ間、ワタシの自慢の紅茶を入れて差し上げましょう」

 しばらくして香りの良い紅茶を二人分運んできたアレクセイは、正面のソファーに腰掛け落ち着いた様子で微笑みながらティーカップを口に運んだ。

 得体の知れない人物だ。

「敵では無い」と言われたが、どこまで信用できるか解らない。

 そもそも、敵とは何だ? 

 いったい優樹の回りで、何が起きているのだろう?

「お待たせして、ごめんなさい」

 美しく張りのある声に思考を中断し遼が立ち上がると、部屋に入ってきた朱羅は手振りで着席を促した。少し疲れた顔をしているが、影の落ちた表情が美しさを一層引き立てている。

 アレクセイが朱羅のために紅茶を入れてテーブルに置き、自分のティーセットを持って遼の隣へ席を移した。

「レディ・シュラはお疲れのようですから、ユウキ・シノミヤの現状と今後の懸念される問題点及び対処の提案を私からリョウ・アキモトに説明を……」

「待ってください」

 遼に発言を遮られ、アレクセイは眉根を寄せた。

「朱羅さんと、アレクセイ先生は優樹に関する重要な情報を共有しているようですが、僕にはまだ解らないことが多い。そしてアレクセイ先生が話す情報が信用するに足るかどうか確かめる術もありません。僕の協力が必要ならまず、僕が納得できる形で疑問を解消させてください」

「うん……どうやらリョウは、私のことが信用できないようですね。いいでしょう……協力し合うためには信頼関係が重要です。我々は、リョウが納得いくまで質問に答えたらいいですか?」

「はい、お願いします」

 改めて遼が朱羅に向き直ると、表情を強ばらせながら朱羅は小さく溜息をついた。

「解ったわ、何から聞きたいの?」

「田村の叔父さんから聞きました。優樹は篠宮理事長の密葬に参列できなかったそうですね」

 優樹は祖父である篠宮剛志朗を嫌っているが、葬儀となれば話は別である。

 連絡を受けた叔父の田村から祖父の死を知った時、優樹には参列の意思があったそうだ。

 ところが朱羅から、優樹は参列しないようにと通達があったという。

 優樹の父親は既に亡く、母親は意識の無いまま入院中。田村は母親の実兄であるが、直系である優樹を葬儀に参列させないのはおかしい。

「朱羅さんは優樹の存在を、なるべく表沙汰にしたくない……そうですね?」

 朱羅は気持ちを落ち着かせるように、大きく息を吸ったあとに遼を真っ直ぐに見つめた。

「十二年前……お母様と優樹は、ある組織に追い詰められ村雲神社の岬から海に落ちた。でも、本当に狙われていたのは私だったのよ。私は早くから身の安全を確保するため、御爺様の元に引き取られていたの。つまり優樹は、私の身代わりになってしまった……。そして組織は私が死んだと思い込み、優樹は今まで認識されないままでいられた」

「えっ……?」

 遼にとって朱羅の話は意想外のものだった。



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