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私立叢雲学園怪奇事件簿【第三部 朱雀編】  作者: 来栖らいか
【第三章】傷ついた銀翼と届かない碧
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〔4〕

 リュシーの歓迎会を兼ねた、「船上バーベキュー」前日。日が落ちる頃になって空は荒れ、強い雨風が海上の波を高くうねらせた。

 当日、空模様は早朝から雲一つ無い快晴に一転したが、波の高さを心配した田村がツテを使い、予定より大きなクルーザーを調達して計画通り行われる事になった。かつての田村の親友で、いまは亡き大貫氏が社長を務めていた海洋レジャー会社『バウスピリット』所有の最上級クルーザーだ。

 その会社は現在、大手観光会の傘下に入り田村はコンサルタントとして経営に関わっているらしい。

 キョーコから、用具も食材もクルーザーに用意してあるので準備はいらないと聞いたリュシーは、着替えを入れたバッグを手にペンションの送迎用大型ワゴン車に乗り込んだ。

 ユーキの不参加を危惧したが、ワゴン車の助手席に座る姿を見てホッとする。

 この機会を、逃すわけにはいかなかった。

 マリーナのある館山港に向かう車中、キョーコが窓を開けると昨夜の雨のためか、真夏にしては風が涼しい。一夜にして空気が洗われ、鮮やかに煌めく海と澄んだ空、爽やかな空気は自然がリュシーを歓迎しているように感じられた。

 三十分ほど車を走らせ午前十時前にクルージングを予定している館山港鏡ヶ浦につくと、出港準備は『バウスピリット』スタッフの手で既に終わっていた。係留されている四十五フィート級の美麗な大型クルーザーを物珍しそうに見上げているリュシーの横に、荷物を運び込む手を休めて田村が歩み寄った。

「クルージングは初めてかい? この船は大きいから、あまり揺れないと思うけど、もし気分が悪くなったり怖いと思ったら我慢しないで直ぐに言うんだよ?」

「大丈夫です、ヨットも大型船も気分悪くなりません。そう……質問あります。今日、海に消える太陽、観られますか?」

 リュシーの質問を聞いた田村は腕を組み、空を見上げて思案顔になる。

「うぅむ……今日は昼ぐらいに湾の出口付近で停泊して、外洋を眺めながらバーベキューをする予定なんだ。夕日を観るなら湾から出た方が良いけど、昨日の天気で外洋の波が心配でね……しかし、風向きに問題なければリュシーちゃんのために船を回してあげるよ。約束は出来ないけど」

「夕日、観られたら嬉しいです!」

 無邪気に喜ぶリュシーに、田村は笑顔を返した。

 リュシーが夕陽を観たいと言い出したのには理由があった。予定では日が沈む前に帰港すると聞いたので、少しでも長くユーキと接触していたかったからだ。

 ふと、視線を感じて顔を上げると、いつの間にか水着にパーカー姿になったユーキがフライデッキから田村とリュシーを見ていた。

 思惑を、悟られただろうか?

 警戒して表情を読み取ろうとしたリュシーは次の瞬間、ユーキが取った行動に狼狽える。

 宇宙に抜けるほど蒼い空を背景に、ユーキが手を振り笑ったのだ。まるで、親しい友人に挨拶するように。

 まわりを見回した所、田村は既に背を向け荷物を運びに戻っている。近くにキョーコも、その友人もいない。まぎれもなく、自分に対する好意的挨拶だ。

 慌てて手を振り返しながら、不快感とは違う胸のざわつきに戸惑う。

「リュシー! ミカとコトミが来たよ! キャビンに行こう!」

 キョーコの声に我に返り、キャビンに向かいながらリュシーは、胸の動悸を抑える事が出来なかった。 

 リュシーがキョーコ達と一緒にキャビン階下のゲストルームで水着に着替えてラウンジに戻ると、ソファに見慣れない初老の男性が座っていた。いち早く男性に気が付いたキョーコが嬉しそうに駆け寄る。

「濱田さん、来てくれたんだ! 神崎さんは?」

「神崎は仕事から抜けられなかったんだよ、爺さんだけで悪いなぁ」

 ハマダと呼ばれた男性を、リュシーは素早く観察する。

 白髪で小柄ながら、頑丈そうな体躯。優しそうな面立ちにみえて、油断ない所作と目配り。会話に出てきたカンザキという名は、ユーキの友人であるリョウに関わる事件を担当した刑事だ。データには記されていなかったが、カンザキの関係者という事は千葉県警の人間だろう。

「日本へようこそ、リュシー。今日はよろしく」

 少し警戒しながら差し出されたゴツゴツとした手を握ると、ハマダは誠実な笑顔を返した。リュシーに関して、何も疑いは持っていないようだ。

「全員揃ったから、出発するよ!」

 コクピットからタムラが叫ぶと同時に、エンジンの回る低い振動音が聞こえた。

 いつの間にか桟橋に降りていたユーキが係留ロープを外し船体を押すと、船体は一度、大きく揺れる。その傾きにタイミングを合わせ、ユーキはアフトデッキ(後方デッキ)に飛び乗った。

 後進離岸で桟橋を離れた船体は徐々に速度を上げ、太平洋側ながら水平線に沈む夕陽を鏡のように美しく映し出す事から別名「鏡ヶ浦」とも呼ばれる波穏やかな館山湾を、滑るように航行してゆく。

 空気を巻き込んだ美しい波線を後方に引いてスピードが増してくると、舞い上がる水しぶきが太陽光を反射してダイヤモンドのように輝いた。

 マリーナを出てから賑やかだった女性陣は、しばらく経つと音楽を聴いたり動画を見たり海を眺めたりと、各々で好きなように過ごしはじめた。キョーコから映画を観ようと誘われたリュシーは、「少し気分が悪いから風に当たってくる」と言って断り、フライングブリッジに上がった。

 真上に輝く太陽の眩しさに目を細め、遠い水平線を眺める。雄大に、何処までも広がる美しく蒼い海。大きな翼を広げた白い海鳥が数羽、クルーザーを案内するように風の流れに身を任せていた。

 この鳥は、何処まで行くのだろう? 

 自由に、水平線の終わりにまで飛んでいけるのだろうか?

 飛ぶ事に疲れ、波間に落ちたりはしないのだろうか……?

「寒くない? 日差しは強いけど海上は結構、風が冷たいからさ」

 掛けられた声に驚き振り向くと、後ろに立っていたユーキが大判のタオルを差し出した。

「ダイジョブ……です。ちょっと、気持ち悪くなって、外に出てきました」

「フライトデッキは揺れるんだ、ハンドレールに掴まったほうがいい。酷く気分が悪いなら、叔父さんに頼んで停船してもらおう。アンチ・ローリング・ジャイロが付いてるから、止めたらかなり楽になると思うけど……」

「もう、気分は良くなりました……慣れなくて、緊張してたと思います」

「それなら、良かった」

 安心したのか、ユーキが明るく笑った。真夏の太陽のような、眩しい笑顔。

 白いパーカーの下、初めて会った時よりも日に焼け引き締まった身体は、まるで若いサラブレッドのようだと思った。

 しかし何故、急に親しく接してきたのだろう?

「うちに来た最初の日、顔に大きな絆創膏貼ってたけど……怪我、治ったみたいだな。横浜で会った時、何か格闘技をやってると思ったから、それで怪我したのか少し気になってた」

 なるほど……どうやらユーキは、自分に挑んできたオスカーについて情報が欲しいようだ。

 ユーキは人の悪意や嘘を見抜く事が出来ると言ったキョーコの言葉を思い出し、リュシーはオスカーを利用する事にした。オスカーには悪いが、事実は事実だ。

「ワタシの学ぶハイスクールは主に工学系に特化したカリキュラムが組まれていて、アメリカ軍の士官学校と協力関係にあります。成績優秀で将来性のある学生は士官学校に編入するケースもあるので、基礎的な戦闘訓練も行われているのです。ワタシもオスカーも、選ばれた学生。顔の怪我は、オスカーと模擬訓練中にナイフで切られました」

「えっ? 訓練で本物のナイフ使うのか?」

「ワタシは訓練用ナイフを使いました。でもオスカーは、本当のナイフを使いました。彼はワタシの肌の色が嫌い……傷付るつもりだったと言いました。オスカーはアレクセイに、たくさん怒られました」

「なんだよ……それ! 最低だな!」

 リュシーは激しい怒りの感情を前にして驚く。

 アレクセイと再会し、挑発されたユーキが怒りを表したとき、それは深い闇の奧に沈んだ氷のような冷たい怒りだった。

 しかし、いまオスカーに向けられた怒りは理不尽に対する真っ直ぐで熱く、強い憤りだ。他人に対して、何処までも本気になれる不思議な青年だと思った。

「問題、アリマセン。過去に何度もあった事……ワタシの肌、綺麗ではナイ。傷も目立たないです」

「リュシーは綺麗だよ。俺には、オスカーのやった事が許せない」

「あっ……」

 何かを、言おうとしてリュシーは言葉に詰まり、ユーキから目を逸らした。こんな時、どう反応すれば良いのか誰も教えてはくれなかったからだ。

 治ったはずの頬が熱い……最適な言葉が見つからない……。

 落ち着いて考えろと、脳内に声がした。ユーキが優しく接してきたのは、おそらくキョーコからリュシーの不幸な生い立ちを聞いたからだ。オスカーの仕打ちに身を案じる素振りをするのは、情報を得るために違いないのだ。

 それなのに、なぜ動揺する事がある? ハンドレールを掴んだ指先が震え、強く握り直す。

「リュシー! ここにいたんだ? あっ、優樹も!」

 キャビンから上がってきたキョーコの声で、リュシーは慌ててユーキから距離を取った。

「まだ気分悪い? っていうか……あっ、優樹に何か言われた? ちょっとぉ! 優樹ってば、何かヘンな事言ったんでしょ? リュシー、困ってるみたいじゃん!」

 二人の間に流れる微妙な空気を、いち早く察してキョーコがユーキに詰め寄った。

「えっ? オレ、なんかヘンな事言ったか?」

 からかうようにキョーコが、ユーキをハンドレール側に追い詰めたとき。

 突然、船体が大きく揺れた。

「……っ、きゃぁああぁあっ!」

 キャビンとは違う揺れの激しさに、油断していたキョーコが大きく体勢を崩してハンドレールに寄りかかった。次の瞬間、バランスを崩し外側に大きく仰け反る。

 リュシーとユーキの反応は、同時だった。

 だが、距離が近かったリュシーの行動が早かった。助けを求め宙に伸ばされたキョーコの手を掴み、素早くユーキめがけて投げ飛ばす。キョーコを抱き止めたユーキを目の端に確かめ、同時に体勢を整えようとしたところで……。

「アッ……!」

 踏み込んだ足は、微妙に傾いたデッキの床を捉えられなかった。

 二、三歩、よろめいたリュシーの身体が、背中からハンドレールを乗り越える。

「リュシー!」

 ユーキの、叫ぶ声が聞こえた。

 落下を認識し、めまぐるしい速度で思考が廻る。

 身体を反転させ、アフトデッキに着地……は無理だ、キャビンのハンドレールを掴めるか? キャビンには警察の人間と、キョーコの友人。

 アレクセイの言葉が、脳裏に浮かんだ。「普通のジョシコーセーの振る舞いを」とは……。

 一瞬の迷いが、リュシーの判断を鈍らせた。

 ガツ……ッと、鈍い音が聞こえ、全身に衝撃が走る。

 アフトデッキのステップに、後頭部を打ち付けたのだ。

 冷たい水が背を叩いた。遠のく意識の中に一瞬、「死」の文字が浮かぶ。

 だめだ、諦めるな。まだ任務は完了していない……この国の人間と友人になり、信用させ、それから……?

 身体が重い……沈んでいく。早く水面に出なくては、息が限界だ。暗い海の底を背景に、ひらひら揺れている自分の腕が妙に白く見えるのが不思議だった。

 友達って……なに? 私に友達なんかいない……だって必要ないから……でも、もしも……。

 ハンマーで殴られたように頭が痛む、判断力が低下していく。水圧に敗北した肺が、最後の空気を押し出した。

 視界から光が消える……。

 朦朧と水に身を任せていたリュシーは、急に強い力で腰を引き寄せられ五感を取り戻した。

 逞しい腕が片手でリュシーを抱き、片手で水を掻きながら海面を目指し勢いよく上昇していく。

 ……誰? アリョーシャ?

 いや、違う。

 海上に頭が出た途端、胃が飛び出るほど嘔吐いた反動で一気に空気が肺を満たした。

 脳に酸素が廻ってようやく、リュシーは自分の身体を強く抱きしめているユーキの存在を認識する。

 ユーキは船上から投げられた救命胴衣をリュシーの首から被せ、浮き輪に繋がれているロープを手繰って楽々と身体をアフトデッキに引き上げた。

 タムラがリュシーの身体を抱え上げてリビングに運ぶと、手厚く毛布でくるんでから重篤なダメージがないか慎重に確かめる。

「ふむ……頭を打ったせいで海面に落ちた際、肺に海水を吸い込まなかったようだ。おかげで呼吸回復が早い、不幸中の幸いだったな。傷は……少し切れているが、深くはないね。念のため帰港したらCTを撮ろう」

 冷静に診断したタムラは、しかし急に格好を崩しリュシーの肩に腕を回した。

「良かった……無事で、本当に良かった! 心臓が止まるかと思ったよ……」

 責任感? 義務感? 

 いや、タムラは心からリュシーの無事を喜んでいる。

 複雑な気分だった。信頼するアレクセイ以外の男性に触れられて、違和感や嫌悪感を抱かないのは初めてだ。

「ちょっとぉ、パパっ! リュシーに抱きつかないでよっ! セクハラっ! リュシーが困ってるでしょ!」

 怪我を負い溺れかけ、ユーキに助けられた事。そして、初めて抱いた感情にリュシーが呆然としているところを勘違いしたのだろう、キョーコが慌ててタムラを引き剥がす。

「おっと、いかんいかん。つい、娘と同じ気になって……」

「えぇーっ? アタシだって、パパにくっつかれたら嫌ですぅ!」

 顔をしかめ頬を膨らませたキョーコに、ついリュシーは吹き出してしまった。すると安心したようにタムラやキョーコが笑った。

 彼等と一緒にいると、柔らかく穏やかで温かな空気に包まれ心地よかった。この空気に身を任せていたかった。

 ……でも、だけど、だって。

 視線を感じ振り向くと、ユーキがリュシーを見つめていた。

 後ろには、何処までも遠く、果てしなく広がる透明な蒼。清く潔く、強く優しいユーキのようだと思った。

 どれだけ手を伸ばしても、届かない碧……。

「リュシー……どうしたの? どこか痛いの? 気持ち悪いの?」

 キョーコの友人、コトミに声を掛けられリュシーは、ようやく自分が涙を流している事に気が付いた。

「ゴメンナサイ……ワタシのせいで、クルージング中止になりました」

 コトミの後ろから姿を現したミカが、そっとリュシーを抱きしめる。

「心配ないよ、誰もそんな事気にしてない。みんなが思ってるのは、リュシーが無事で良かったって事だけ。小枝子さんがハーブティー用意してくれたから、これ飲んで港に着くまで喋ってよっか」

 渡されたマグカップをリュシーが口元に運ぶと、低いエンジン音と共に床が僅かに振動した。やがてエンジンの音は大きくなり、推進力を得たクルーザーは大きく旋回し港を目指し速度を上げた。

 景観の良いコースを選んだ往路と違い、帰路は半分の時間で港に帰り着いた。港近くの大きな病院でCTを撮り詳しく検査をした所、大事ないと診断されたため、一行は『ゆりあらす』に帰ってから海を見渡せる庭でバーベキューをする事になった。

「アレクセイに連絡を入れたら、信頼しているので任せると言われてね。このままホームステイを続けて欲しいのだけれど、リュシーが帰りたいというなら帰ってもいいんだよ? アレクセイには、私から説明するから」

 帰りの車中でタムラからの提案を受けたが、リュシーは首を横に振った。任務の遂行のためには、少しでも長く彼等と一緒にいる必要がある。

 だがそれは、本当の理由なのだろうか……? 

 夕刻になり、バーベキューの準備が出来たとサヨコに呼ばれてリュシーは、キョーコ達と一緒に食堂の外にある広いサンデッキに出た。庭のバーベキューコンロで焼かれた肉や野菜が、芳ばしく良い匂いを漂わせている。サンデッキに置かれた無骨な造りの長椅子では、ハマダが既にビールを飲んでいた。

叢雲が覆う水平線の彼方が、美しい茜色に染まっている。暗くなりつつある山際には等星の明るい星が瞬き、涼しい風が高く結い上げたリュシーの髪を揺らした。

「浴衣、似合ってるよ」

 掛けられた言葉に心臓の高鳴りを感じたリュシーは、一呼吸してからようやく声の主を見た。

「アリガトウございます……また、助けてもらいました」

 ユーキはリュシーの隣に立ち、炭酸飲料の入ったプラスチックカップを手渡す。

「うん? あれは杏子が不注意だったからなぁ……杏子を助けてくれてありがとう。海に落ちたのがアイツだったら、もっと大変な事になっていたかもしれない」

「……」

 リュシーが皆と少し離れ、一人になったタイミングでユーキは近付いてきた。身体能力を揶揄したところをみると、何か言いたい事があるのかも知れない。

「ところでさ、リュシーって以外とドジなんだな! ホント、怪我も大したことなくて良かった。おまえやアレクセイさんが何の目的があって近付いてきたのか知らないけど、俺は悪意や危険性を感じないんだ。まぁオスカーには、ちょっとした敵がい心はあるけど、単にオレと手合わせしたいだけだと思うし。だから……」

 警戒していたリュシーは意外な成り行きに面くらい、目を見開いてユーキを見つめた。

「だからさ、ここにいる間はリュシーに楽しんで欲しいと思ってるんだ。短い期間だけど、よろしく頼むよ」

 ユーキの笑顔に、全身から力が抜けていく。

 任務とは何だ? アレクセイはいったい、リュシーに何をさせたいのだろう?

「リュシー、優樹! 早く食べてよ! このあと、花火するんだから! あ、優樹は自分の分、自分で取ってきてね。急がないと、お肉無くなるよっ?」

 キョーコが肉と野菜が山盛りの皿をリュシーに手渡し、ユーキを追い払う。

「おまえ、ダイエットはどうしたんだよ?」

 ユーキは軽口で応えてからリュシーに軽く手をあげ、バーベキューコンロの方に走っていった。

「今日はホント、ごめんなさい。助けてくれてありがとう。沖は潮の流れ速くて水温も低くいし……。優樹がフライデッキから直ぐに飛び込んだけど、二人が上がってくるまで凄く恐かった。怪我、まだ痛い? 優樹、何か言ってた?」

「怪我も体調も問題アリマセン、大丈夫です。ただ、ユーキにはワカラナイ言葉、言われました。ドジ……とは、意味なんですか?」

 首をかしげるリュシーに、杏子が笑った。

「優樹にドジ……って言われたんだ? たぶんアイツが言いたかったのは、完璧そうに見えるけど、少し心配な所があって可愛いって意味じゃないかな?」

「カワイイ……」

「うん、リュシーはすごく可愛いよ。浴衣も似合ってる。みんなと御飯食べたら、花火しようねっ! 日本の手持ち花火、初めてでしょ?」

 キョーコはリュシーの手を取り、皆が集まって歓談しているバーベキュー会場を指さした。

 遠い海上にあった日の名残が消え、濃紺の彼方に煌々と輝き始めた数多の星を見つめたリュシーは、笑顔で振り返るとキョーコの手を握り返し、友人達の元へ走って行った。



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