モザイク必要か
待機だったが、私だけ急に呼び出された。
何か怒られるようなことをしてそまったのだろうか?
「すみません、もう無理ですっ!!」
オペレーションルームから、転がるように出てきたのは、二宮隊のオペレーターだった。
なぜか号泣している。
上司にパワハラでも受けたのだろうか?
走り去っていく後ろ姿を見送るしかなかったが。
「失礼します。鵜飼さん、どうなされたんですか?」
オペレーションルームに入って、上司を問いただすと、しかめっ面で画面を指差してきた。
「あぁ」
確かに、あれを大画面で見せられるのは辛いだろう。
「鵜飼の代わりに、二宮隊のオペレーションやってやれ」
「まぁ、いいですけど」
正直、自分のチームでないことは不安だ。
個々の能力もわからないし、上手くできるのか?
「鵜飼さんと交代しました、高嶺です」
『きよちゃんか。悪いね。あいつ、ゲテモノ系だめなんだよ』
ゲテモノかと言われれば、違うような気もするが、苦手な人が多いことには間違いない。
「大丈夫です。でも、それ、高級食材なんで、確実に捕獲願います」
『はぁ?これが高級食材!?』
二宮隊の砲手、佐々木さんが驚いている。
『以前捕獲したやつは、そんなこと言っていなかったけどな』
二宮隊長も不思議そうにしている。
「おそらく、赤ナマコだったではないでしょうか?今回の目標は、青ナマコと呼ばれるなかでも、極一部しか育たない黒ナマコですよ」
『…確かに、前見たのよりは黒っぽいが。そんなに高いのか?』
「地球産だとキロ五十万以上で取引されていますよ」
『マジか!!』
これにはあちこちから驚きの声があがった。
あまり知られていないようだが、黒ナマコは別名黒いダイヤとも呼ばれるくらい高価なもの。
お隣りの華国では、干物にしてから料理に使うらしい。
「キュビエ器官っていう内臓を出して、動きを妨害してきますから、気をつけてください」
『ラジャー』
ナマコは身に危険が近づくと、キュビエ器官という内臓組織を肛門から放出する。
これが白く粘ついていて、動きの邪魔をする。
この内臓攻撃があるゆえに、捕獲はナマコの後ろからと決まっていた。
甲板の二機が、機体から下げているナマコ用の網を被せる。
この網は、ナマコのキュビエ器官を外に出さないように、網目が細かくなっている。
『高嶺さん、どっちが後ろかわかりますか』
甲板の一人が質問してきた。
じっと画面を見つめ、最大まで拡大してみるも、どっちかなのかはわからなかった。
「おい、きよ!いい加減アップはやめろ!」
理不尽だ。
こちらは仕事をしているのに怒られた。
「すみません。私にはわかりません」
『じゃあ、一回放出させるしかないか』
二宮隊長はそう言うと、ナマコに急接近した。
どちらが頭で、どちらが肛門なのか、調べるために飛び回る。
素晴らしい操縦技術で、ナマコの映像も撮ってくれたので、詳しくない私でも判断することができた。
「今、飛んでいる方が…」
伝えている途中でナマコが動き、勢いよくキュビエ器官が放出された。
まだ、二宮隊長がナマコに接近していたため、息を飲んだが、一瞬で二宮隊長は回避していた。
それと同時に、甲板の二機が動き、あっという間に網で捕獲してしまった。
「お役に立てなくてすみません」
このチームなら、私がいなくても捕獲を成功させていたと思う。
役に立つどころか、チームワークを乱してしまったようで、いたたまれない。
『そんなことないですよ。高級食材とわかって、みんなのやる気も上がりましたし』
『そうそう。でもまぁ、他チームとの連携を取ることもあるから、もう少し俺たちのこと知っておいてよ』
以前のカタクチイワシのように、大群が出現すれば、他のチームをオペレーションすることもあるだろう。
まだまだ、みなさんから学ぶべきことは多いということか。
無事、基地への帰還を確認すると、調理部隊のもとへと急ぐ。
「神坂さん!ナマコは!?」
魚であれば、種類ごとによって定められた手順で捌き、捕獲量の10%を基地で消費することが許されている。
希少部位は無理だが、どこの部位を取るのかは、調理部隊の隊長の判断で行われる。
「残念だったな。せっかく、凄いものを捕獲したのに」
やはり、高級すぎて基地での消費が認められなかったのか。
黒いダイヤ、食べられるかと期待していただけに、ショックは大きい。
「そう、落ち込むな。今回の捕獲に関わった者には、特別ボーナスの支給があるだろ?」
そうでした。
SEAFOODでは、市場価値の高い宇宙魚介類を捕獲すると、その捕獲に関わった全員にご褒美がある。
クエ、アンコウは宇宙魚介類でも需要が多く、地球産養殖とほぼ値段が同じらしい。
ピンポイントの品種で、シロアマダイ、マツカワガレイといった、幻の魚と呼ばれるものにもつくらしいが、それらが出現したという情報はいまだにない。
「ボーナスで、何か美味しいもの食べてきます…」
今日の日本国は、一部の人以外は平和でした。
ナマコも不思議な生き物ですよね…。