調理部隊とは
スクランブルもなく、上司とまったりお茶をしている。
「お前、明日オフだったよな?」
知っていることをわざわざ確認するということは、何かあるな。
「そうですけど、用事が……」
もちろん、用事なんてない。
彼氏いない歴=年齢の私。
明日はお買い物と水族館にでも行こうかなぁって考えていたくらいだ。
「調理部隊が都のイベントに出るらしいから、手伝ってこいよ」
なんですと!?
「手当ても出してやろう」
そこまで!!
どうした上司!?
「わかりました、行きます」
「助かる。SEAFOODでも、女性が活躍しているのをアピールしろとか言われてさぁ」
確かに、現場では女性が少ないだろう。
特に、捕獲用戦闘機に乗っている女性は日本国でも二、三人だ。
SEAFOODの女性のほとんどが裏方、事務処理や広報といった部署に固まっている。
危険もなく、お給料もいい。
急に呼び出されることもなく、現場からしたら羨ましい限りである。
イベント当日。
「今日はよろしくお願いします」
「高嶺さんが来てくれて助かったよ。ま、気楽にやろうや」
調理部隊の隊長、神坂さんが優しく迎え入れてくれた。
イベント会場には、SEAFOODのロゴが入った大型トラックが三台もとめてある。
ブースの設営に必要なもの、大型の調理器具はわかる。
残りの二台、まさか全部宇宙魚介類とは思わなかった。
そのほとんどが、宇宙魚介類の宣伝のため格安で販売する分だって。
荷役に特化した特殊重機が、次々と宇宙魚介類をトラックから運び出していく。
宇宙マグロの頭が出てきたときには、周りから歓声が上がっていた。
さすがに、宇宙マグロの解体ショーはできないので、頭だけ持ってきたのか。
宇宙魚介類の解体シーンは、解体というより工事現場のような雰囲気が漂うらしい。
イベント開始一時間前だが、来場者に無料で配る海鮮鍋の準備に取りかかる。
マグロ、サケ、エビといった定番の魚介類と、白菜、人参、ネギ、しいたけ、豆腐といった鍋には欠かせない具材。
すでに、食べやすいサイズにカットはされている。
出汁はカタクチイワシの頭からとる。
頭の原型はないものの、なんとも言えない光景だな。
丁寧に灰汁を取り、裏漉しすると、透き通った美味しそうなスープのできあがり。
そこに昆布を入れて、旨味を増していく。
昆布を取り出したら、酒などで味を整え、火の通りにくい具材から入れていく。
それらを調理部隊の人たちがやっている間、私はひたすらエビの殻を剥いていた。
エビと言っても、アキアミという小さなエビだ。
地球産なら1センチくらいの小さなエビだが、宇宙産になると20センチはある。
有名なブラックタイガーは、普通にメートル越えの大きさだ。
しかし、アキアミやプーバランといったエビは人気が高い。
地球産のエビと大きさが同じなので、調理しやすい、食べやすいといった手軽さと、やはり味が美味しいからだろう。
生だと、エビ特有の甘みがしっかりと味わえる。
頭と尾を残し、何百というアキアミを剥く作業の前には、腸を抜く作業が行われている。
殻がついている方が、腸を取りやすいらしい。
頭と腹の境目に串を刺し、すっと取り出す。
一匹に対して一秒もかからない早業は、見ていてほれぼれする。
全ての具材を入れてしばらくすると、いい匂いが漂いだす。
ちょうどイベントが始まったようで、テレビで見たことのあるタレントがMCをしていた。
SEAFOODの広報部が、日頃の活動内容を紹介したり、宇宙魚介類の年間漁獲量と消費量の推移、また地球産の水産物の回復数値などを説明している。
ここ10年でだいぶ回復したとは思うが、やはり人気のある種類はまだまだ厳しいようだ。
マグロ、サンマは制限つき、シマホッケは制限解除されたようだが、マホッケは制限変わらずか。
そして、ウナギはまだ絶滅危惧種のまま。
海外で出現した宇宙ウナギも、ほとんどが日本国に輸出されているにもかかわらず、供給が追いついていないとは……。
うな重、美味しいから。
ふっくらとしたウナギと一緒に、タレが絡まった米を頬ばる瞬間!
また、あのタレがいい。
お店によって味も違うし、炭火の香ばしさと、タレに溶け込んだウナギの旨味と。
思い出したら食べたくなってきた。
ウナギ、出現しないかな?
「高嶺さん、これからショーをやるから、近くで見てなよ」
神坂さんに呼ばれると、舞台の上では何やら用意が始まっていた。
「ショーですか?」
「そうそう。俺ら調理部隊の腕の見せどころってね!」
神坂さん、凄く楽しそう。
というか、ショーに出るであろう調理部隊の面々の顔が、生き生きしている。
ところで、あの火炎放射器、何に使うんですか?
近くで見ていろと言われた私は今、熱風を浴びている。
宇宙マグロの頭を、豪快に火炎放射器でファイヤーしている。
調理部隊の笑顔が眩しい。
もちろん、火炎放射器だけでは十分ではないので、頭の下にはセラミックの台と木炭を加工した燃料がある。
ようは巨大な七輪だ。
遠赤外線を利用して、内部に熱を通す仕組みが云々言っていたが、その仕組みを理解することはできなかった。
私が馬鹿なだけではないはず。
とりあえず、宇宙マグロのほほ肉は、ステーキみたいで大変美味でした。
それと、今日も日本国は平和でした。
調理部隊、ちょっと変わった人が多いようです(笑)
アキアミとオキアミは違う生き物です。
カップ◯ードルに入っているエビは、プーバランらしい。