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サーディンラン

その日は待機だったけれど、スクランブルがかかった。


急いでオペレーションルームに向かうと、緊迫した雰囲気が少し怖かった。


「きよ、工藤隊も出動した。二宮隊、江橋隊とともに、カタクチイワシを捕獲しろ」


カタクチイワシで三隊も出動!?

宇宙魚介類の中でも小型なカタクチイワシは、動きが俊敏で手こずることはあるが、一隊で対応可能な種類だけどと思っていたら、映し出される画像を見て納得した。

群れだ。

しかも、初めて見る大規模な群れ。

何百、何千かもしれない大きなカタクチイワシが空を黒く染めている。


「空中での捕獲は無理なので、海上で打ち落とし、船で回収させる」


「わかりました」


二宮隊と江橋隊のオペレーターと並んで座り、レーダーを確認する。


「追い込む場所は(ウィスキー)地点だよ」


二宮隊の野村さんが教えてくれた。

お礼を言って、早速みんなに情報を流す。


オペレーターも含め、連携を試みるも、カタクチイワシの群れはうねうねと避けるだけで、出現場所から数キロしか移動していなかった。


「工藤隊長、土田さん、中川さん、多田さん、四機は群れの下で円を描くように飛行してください。筒井さんは8時の方向から、雪間さんは10時の方向から、私の合図で群れにギリギリまで近づいてください」


「きよ、何をやるつもりだ?」


私の指示を不審に思った上司が、側に寄ってきた。


「サーディンランというのをご存知ですか?」


「…いや、聞いたことないな」


「イワシの大群をサーディンラン、またはベイト・ボールと言います」


地球産のイワシは体の側面に感覚機能があり、水圧や水流、仲間の動きまで感知できるので、ぶつからずに泳ぐことができる。

また、群れをなすのは希釈効果といって、外敵が来ても、一匹でいるより狙われにくくなるらしい。

しかし、捕食者たちも賢い。

クジラは空気の泡を使って、イワシを水面付近まで集め、その大きな口で海水ごと食べてしまう。


「そのクジラが使う方法をバブルネットフィーディングと言います。それを真似てみようかと」


「なるほどな。ここは専門家に任せようか」


いえ、専門家ではないです。

ただ、大学で海洋生物を学んでいただけ。

気を取り直して、レーダーで各機の配置を確認する。


「群れの上空は飛ばないようお願いします。二宮隊、江橋隊も、工藤隊より大きな円陣で飛べますか?」


『二宮隊ラジャー』


『江橋隊も了解した』


「W地点への方向を少し開けてください」


腕のいい隊員たちは、すぐさま円を描き、向かわせたい方向にわざと隙間を作りながら飛び続ける。


「雪間さん、ギリギリまで近づいたら、下へ回避してください」


『ラジャー』


「スリー、ツー、ワン、GO!」


雪間さんの動きを見守る間もなく、筒井さんにも同じ指示を出す。


「GO!」


連続して急接近された群れは、少し小さくなりながら、空いている隙間の方へ動きを変える。


「これを繰り返していきます。予測されないよう、接近する方向はその都度変えていきます」


サーディンランを囲みながらの急接近を何度も繰り返して、ようやく作戦のW地点へと来た。


「海上の回収部隊はすでに近くで待機しているそうだ」


「この数だと、銛が足りませんけど?」


「安心しろ、補給母艦も用意してある」


ようは空母みたいに大きな船ではあるが、捕獲用戦闘機は昔の戦闘機と違い、エンジンの向きを変えて方向転換するので、ホバリングも可能だ。

つまり、戦闘機の敏捷(びんしょう)さと、全方位動くことができるヘリコプターの特性を合わせた機体でもある。

ホバリングができるので、空母のように滑走路を必要としないため、母艦という言葉を使っているらしい。


「捕獲地点です。(タンゴ)地点に補給母艦が待機しています。銛や燃料は各自の判断で補給してください。全機、発射用意!」


全機、準備が整ったのを確認して、次の指示を出そうとしたとき。


「発射っ!」


いいところを上司に取られた。

恨めしい顔で上司を見ると、ニヤニヤしながら言った。


「この瞬間は、出世していてよかったと思えるな」


オペレーターとして、一番楽しみな瞬間を奪われ、二人のオペレーターからも慰められた。

あの人は、ああいう人だからと。


画面では、次々とカタクチイワシが海に落ちていく。

どれも、目やエラを一発で貫かれていているのはさすがだ。

新人の土田さんは手こずっているようだが。


「土田さん、落ち着いてください。陣形が崩れているので、少しスピードをあげましょう」


土田さんを工藤隊長もフォローアップしているが、それでも何匹か逃してしまっている。

サーディンランから離れてしまったものは、江橋隊の砲手が引き受けてくれた。


「下方向に広がっています。筒井さん、雪間さんは下からアタックかけてください」


少ししたら、筒井さんが銛がきれたというので、一時離脱した。


「江橋隊長、筒井君が戻ってくるまで、雪間のフォローアップお願いしますね」


江橋隊のオペレーターが、すぐに抜けた穴を埋めてくれた。

さすがである。

雪間さんと同期の彼、藤田さんは千里眼という二つ名を持っているらしい。

それからは、どんどん打ち落として、順番に補給して、また打ち落すの繰り返し。

ついに、最後の一匹になった。


『土田、譲ってやるから、一発で仕留めろよ』


驚いたことに、二宮隊長がうちの新人にとどめを譲ってくれた。

これで、土田さんがちゃんと仕留めることができれば、一人前として認めてもらえる。


『はいっ!ありがとうございますっ!』


声がちょっと上ずっている。

やっぱり、緊張しているよね。


「土田さん、まだまだたくさんいるうちの一匹だと思って打ってください」


捕獲開始から比べると、慣れてきた後半の方が命中率は上がっていた。

その感覚を思い出せば、きっと仕留められる。


『ラジャー!』




捕獲用戦闘機が戻ってくると、なぜか土田さんがボロボロだった。


「やったな、つっちー!」


「拓己みたいな砲手にはなるなよ」


筒井さんや雪間さんを始め、出動していた隊員たちにお祝いのスキンシップを痛いほどもらったようだ。

今も、筒井さんがバシバシと頭を叩いている。


「それくらいにしてください。今日は、イワシのつみれ汁だそうですよ。あと、お祝いにフグを出してくれるそうです」


調理部隊から教えてもらったことを伝えると、みんなが歓声を上げる。

フグだもの。

いくら宇宙フグとはいえ、これもめったに食べられるものじゃない。

私も、凄く楽しみにしている。

フグの唐揚げと一夜干しが大好きなの!


今日も日本国は平和ですね。

タイの漬け茶漬けが食べたい(>_<)


ザトウクジラのバブルネットフィーディングは動画で見ても凄いので、ぜひ検索してみてください!

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