食べくらべ
「工藤隊長、いいんですか?」
「遠慮はいらんぞ。誕生日なんだから、好きなだけ食べろ」
「ありがとうございます!」
今日はうちのチームは休日で、工藤隊長のお声がけで私の誕生日を祝ってくれている。
「回らないお寿司がよかったなぁ」
筒井さんが文句を言い、工藤隊長に拳骨をお見舞いされる。
「お前たちはオマケだ。ちゃんと高嶺に感謝しろよ」
工藤隊長が、誕生日祝いに何が欲しいかと聞かれたとき、チームのみんなと食事したいと言ってしまったのが始まりだ。
うちのチームは総勢7名。
工藤隊長を筆頭に、砲手の筒井さん、雪間さん、甲板の中川さん、多田さん。新人の土田さんと、オペレーターの私。
砲手は、目標に銛を打つ人たちで、ご年配の方々にはてっぽうさんって呼ばれている。
捕鯨船での呼び方なんだとか。
甲板は、空で甲板っておかしいけど、銛を射た目標が落ちないよう、チェーンで吊り上げる人のこと。
捕獲用戦闘機のホバリング技術とチェーンをつける操作技術がないとできない職人でもある。
「あ、大トロの食べ比べセットっていうのがあるぜ!」
筒井さんに言われ、メニューを見てみると、確かにあった。
お値段がお高いけど。
「天然と養殖と宇宙だってよ」
SEAFOODから卸された地球外生命体は、宇宙マグロや宇宙サンマと明確にわかるように販売しなければならない。
これは国際法で定められており、違反すると一発終身刑確定と非常に重たい罪なのだ。
一部反発の声も上がっているが、地球産という一つのブランドにするための政治的なやつではという話もニュースになっている。
月や火星に住めるようになれば、火星産の牛肉だとか、月産の小麦粉とか出回ることになるのかもしれない。
結局、筒井さんのおねだりに、工藤隊長は根負けした。
「天然の大トロって初めて食べます!」
「招和だと、普通に食べれたけどな。もっと昔は、鯨も食べてたんだぞ」
早速、天然物の大トロを頬ばる。
思ったよりも、あっさりしていて美味しい。
「鯨って、海にいるアレですよね?」
天然物をじっくり味わっている間、雪間さんが驚いたように工藤隊長に質問していた。
「今では害獣みたいに扱われているけどな」
お茶を一口飲んで、口の中をリセットする。
「そりゃ、片っ端からイワシやらアジやら食われちゃたまらないですからね」
「今とは逆だな。昔は鯨が貴重な資源だったんだよ。肉は食えるし、脳みそは油になるし、皮や骨は民芸品に使われたりしてな。無駄になる部分が一つもないっていう珍しい生き物だったんだ」
次は養殖。
こっちはこってりしているかな?
ちょっと脂がくどいかも。
でも、味が濃いのが好きな人は、こっちの方が好きそう。
「その技術が、こうして今役に立っているじゃないですか」
工藤隊長の次に年かさの、多田さんが言う。
彼も平政生まれのはずだけど、漁港の街で育ったらしいので、詳しいのかもしれない。
「まぁな」
あとは同じみの宇宙産。
大トロの部分はなるべく市場に流したいからと、私たちでもそうそう食べさせてはもらえないんだけど。
うーん、やっぱりこの味が一番好きかな。
私みたいな庶民には、庶民の味がしっくりくるってことか。
脂って感じはなくさっぱりしていて、でも旨味はしっかり伝わってくる。
「うめー!!」
筒井さんは養殖がお気に召したようだ。
「やっぱり、この味だな」
工藤隊長は天然物。
この世代の人たちにとっては、馴染みの味なのかも。
「こうして比べると、だいぶ味が違うんですね」
それから、みんなでしゃべりながら回転寿司を楽しんでいた。
「あ、山内から連絡きてる」
調理部隊の山内さんと同期の中川さんが、メッセージ画面を見せてくれた。
『さっき、二宮隊がタイを捕まえてきた!漬け茶漬け用意して待ってるよってきよちゃんに伝えて』
タイの漬け茶漬け!!
この間から、ずっと待ってたんだよタイ!!
「締めは茶漬けに決まりだな」
「はいっ!」
今日も日本国は平和でよかった。
養殖というか、近大マグロを食べてみたい。