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他所は他所、うちはうち②

画面の目標から、物凄い量の血が滴っている。

この出血量なら、弱るのも早いかもしれない。


「少し様子を見た方が…」


「いや、銛をもっと打て」


他のオペレーターに意見を聞こうとしたら、司令官がそう言ってきた。

しかし、こう暴れられては当たるものも当たらないし、最悪仲間に被害が出かねない。


「ですが…」


「命令が聞けないのか?」


仕方がない。

作戦変更しよう。


「中川さん、塗料弾装備していますよね?」


『あぁ。高嶺さんに言われた通り、載せたけど?』


万が一と思い、中川さんにだけ、ステルス性を持つ宇宙魚介類に使う特殊塗料を装備してもらっていた。


「難しいとは思いますが、それを目標の鼻に付着させて欲しいんです」


『…わかった。やってみよう』


上手くいけば、これで目標が大人しくなるかもしれない。


「工藤隊長、中川さんのフォローアップお願いします」


『ラジャー。だいぶ、高嶺らしくなってきたな』


私らしいとはどういうことなのか。

いつも通りにやっているつもりだが。


「勝手な指示は出すな!」


「銛を打てと言われたので、銛が命中しやすい状況を作るんです」


すべて司令官の指示を受けてからだと、捕獲できるものもできなくなる。


「私たちオペレーターは、砲手、甲板(こうはん)の技術を把握し、彼らが捕獲しやすいよう状況を伝え、彼らを無事に帰還させることが仕事です。最善ではないアタックは指示できません」


本当に、こんな司令官の下では働きたくない。

うちの上司が神様のように思えてくる。


「貴様、私の命令に逆らえば、即刻処罰対象だぞ!」


「お好きにどうぞ。ただし、規則ではこの出動が終わってからしか、処罰処分は行えませんよ」


そして、規則では、所属の違う者に処罰を与える場合、所属の上司の許可がいる。

今回の場合なら、この司令官が処罰すると言ったら、工藤隊長かうちの上司、どちらかの同意が必要というわけだ。

このオペレーションルームでの会話もすべて記録されるので、私が命令違反をしているかどうかはすぐにわかる。


「塗料弾命中しました!」


別のオペレーターが知らせてくれたので、私は画面へと意識を戻す。

目標は数回頭を振ると、大人しくなった。


「雪間さん、今です」


私の指示と同時に、銛が打たれる。

その瞬間、目標は再び暴れだすが、最初のような勢いはない。


「すぐに銛を回収してください。反対側の目、いける方はお願いします」


私の指示を聞いていた、第2区の砲手がチェーンつきで銛を打つ。

そちらも目に命中すると、すぐに銛が回収された。


「あとは砲手の皆さん、お願いします」


勝手がわかれば、あとは指示を出さなくても大丈夫。

何度も目を突かれ、目標は抵抗すらできなくなっていく。


「これなら、損害少なく捕獲できますね。あと、もう何本かエラに打って、血抜きをしてください」


内臓とひれが無事なら、十分な成果…いや、釣果と言えよう。


「フカヒレのために、頑張ったかいがあります」


「フカヒレだと?」


「はい。たとえ、討伐が推奨されるホオジロザメであろうと、捕獲できるならそれにこしたことはありません。今や、地球の水産業は宇宙魚介類が(にな)っているんですから、無駄にはできません」


地球産のホオジロザメは一時期絶滅の危機に瀕していた。

ホオジロザメだけではないが、ホオジロザメは時に人間をも襲うので駆除対象だったからだ。

フカヒレ目的で乱獲されたサメは、ひれを取ったあと、海に捨てられることも多かった。

さすがに、今ではそんなことはないが、宇宙サメのフカヒレが庶民にとってどれだけありがたいことか。


今回は、比較的状態がいい。

これなら研究所の面々も喜んでくれるだろう。


「甲板の皆さん、どうにか基地まで運べそうですか?無理なら解体部隊を派遣しますが」


『血も抜けて、少しは軽くなったから、なんとか大丈夫だ。高嶺さんだっけ?的確な指示、助かったよ』


第2区の隊長が褒めてくれた。

しかしだ、あれくらいの指示、第1区ではできて当たり前だ。


「工藤隊長、私これから暴言吐くんで、うちの上司への報告お願いしますね」


『暴言って…おい!何をやるつもりだ!?』


「まぁまぁ。回線はオープンにしておくので」


処罰の面倒臭い手続きを押しつけてしまうであろう隊長には、先に報告をしておく。


「司令官は連合軍からの出向で間違いないですよね?」


「あぁ。だが、それがどうした?」


「だから、私たちのことを下に見ているのですか?」


「なんだと?」


司令官の顔が、ますます険しくなる。


「先ほど、少し調べさせていただきましたが、第2区は他の区に比べて、漁獲量が少ないですよね?」


SEAFOOD(シーフード)での漁獲量とは、捕獲した宇宙魚介類を市場に卸した量だ。

捕獲方法によっては、損傷が激しくて使えない部位が出たりもする。

それゆえに、なるべく損傷がない捕獲方法を日夜研究しているのだが。

この第2区では、それが見られない。


「それがどうしたと言うんだ?」


要領を得ない話にイラついているようだが、それはこちらも同じである。


「私たちはSEAFOODです!魚介類と名乗っている者が、魚介類を大切に扱わず、命を粗末にするなんて言語道断です。宇宙魚介類がいなければ、今頃、ほとんどの魚介類が絶滅していたでしょう」


どんなに制限をかけたところで、欲深い人間がそれを求めれば、欲深い人間が犯罪と承知でそれを獲る。

宇宙魚介類がいるからこそ、地球の魚介類が守られている。


「それが理解できない人間が、SEAFOODの司令官でいいわけがない!」


「貴様っ…」


「貴方は戦いに関してはプロかもしれません。でも、宇宙魚介類の漁なら、私たちの方がプロなんです。SEAFOODの人間がなんて呼ばれているか知っていますよね?」


司令官はどこか嘲笑うように言う。


「フィッシャーマンだろ」


そう。フィッシャーマン、つまり漁師だ。

でも、これは私たちSEAFOODを辱めるものではない。


「えぇ、漁師です。私たちは海の男たちから漁師と認められているんです」


フィッシャーマンと最初に言いだしたのは、北欧の諾維(うべない)王国の漁師だという。

それが、遠洋漁業の漁師たちが寄港先で別の国の漁師に話して、というふうに世界中に伝わり、世界中の漁師たちが呼ぶようになった。


私は、この話を聞いたときに、SEAFOODに入ろうと決意した。

制限が厳しくなる中で、一生懸命海に出て魚を獲る。

宇宙魚介類が出現して、SEAFOODという新参者が市場荒らしていると思われても仕方ないのに、漁師の仲間として認められているって凄いことだと思う。


「貴方は部下たちを信じて、任せていればいいんです。あんなに威圧的にこられては、オペレーターだって仕事ができません。そんなに命令が出したいのなら、うちの上司みたいに、発射命令だけにしてください!」


『…おたく、発射命令、司令官がやってんの?』


『えぇ。オペレーターの一番美味しいとこ持っていくんです』


『うわぁ。可哀想。一番の醍醐味取られるのか…』


「回線オープンなんで、聞こえてますからね!!」


他のチームにまで同情されるとは…。

やっぱり、うちの上司は酷い人だ!!


結局、私はお咎めなしだったし、あとで第2区の人たちからお礼を言われた。

第2区は少しずつだが、漁獲量が増えているらしい。

あの司令官が改心したのならいいけど。


ただ、私は別のことで怒られた。


「きよ、第2区で俺の悪口言ったらしいな?」


「そんな事実はございません」


「第3区の司令官が、オペレーターには優しくしろよ、とか言ってきたんだけど?」


上司にネチネチやられて、ランチをおごるはめになった。


今日も日本国は平和です。私以外は!


なぜか真面目な話になってしまった…。


サメはフカヒレなどの食用以外にも利用できないかと、様々な分野で研究されています。

最近では、美容業界が注目されているようです。

あと、地域によっては、サメを食べるところもあります。

サメの天ぷらを食べたことがあるのですが、美味しかったです!

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