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3話


フィリア・オランジェスタは深々と溜息をついた。

「とてもじゃないけど、この候補者達の中からは選べないわね...。」

只今お見合い相手の掘り出し作業の真っ最中。現実主義なフィリアは手元にあるお相手の肖像画とその人物の詳細を見ては即却下するという流れ作業をしている。この中には彼女のお眼鏡にかなう相手はいなかったようだ。

「まったく。お父様もお父様よ。何故もっと早くからお見合いのお話を進めておいてくれなかったのかしら。おかげで優良物件はほぼ完売。あとに残った方達は一癖二癖ある方ばかり。この中から探し出すなんてどれだけ難しいことか分かっていらっしゃるのかしら?」

まったく困ったお父様だことと再度溜息をつく。


フィリアは男爵位の令嬢だがそこそこの歴史がある家に生まれ育った。おかげで他所の同等の爵位持ちの令嬢と比べると多少格は高い。

そんなオランジェスタ家だが、昨年フィリアの祖父が亡くなり、父親が爵位を継いでからというものどうも雲行きがあやしい。父親は散財するのが趣味と言えるほどにあちらこちらに出向いては遊び呆け、無駄な出費を重ねていた。

昔から遊び呆けてはいたけれど、祖父が亡くなって爵位を継いでから、さらに悪化している。

幼い頃に母親を亡くしていたフィリアは一時期母方の祖父や祖母に預けられ、教育を受けていた為に父親とは違い、どこに出ても恥ずかしくない立派な令嬢へと成長した。だが、父親とは折が合わず、父親の悪癖も諌めてはいるものの聞き入れてもらえない。そんな状況が続き、フィリアは徐々に鬱憤が溜まってきている。


「けれども何もしなければお父様はきっとご自分にとって都合の良い方を連れてくるんでしょうね...そんなことになったら我が家はますます相手の家まで巻き込んで没落へと進んでいってしまうでしょうし...。」


前男爵の祖父はとても素晴らしい方で、領民のために色々と手を尽して彼らが住み良い土地にしようと奮闘していた。

そんな祖父とやさしかった祖母からどうしてこのような父親が生まれたのか不思議でならない。

「まあ、この際皆さんに会ってみてから再度検討するしかないでしょうね。とにかく領地をしっかり統治でき、お父様のように無駄に散財しない方というのを最低ラインにしましょう。」

我ながら聞いていて本当に酷い最低ラインだなと思いつつ、控えていた侍女に指示を出す。

「お父様がお帰りになったらお見合いの件でお話がありますと伝えておいてちょうだい。」

「畏まりました。」

そう言うと侍女はさっと部屋を出ていった。

(さて、お父様はどう出るかしらね...)

フィリアはゆっくりお茶を飲みながらお父様の帰りを待つことにした。



それからしばらくして、父親が帰ってきたと侍女が告げにやって来た。

フィリアは淑やかにけれども凄まじい速さで父親の部屋へと歩を進めた。

「お父様、フィリアです。」

ノックをしてから来訪を告げる。

しかし部屋から物音はするけれど誰も出てこない。不審に思ったフィリアはもう一度来訪を告げた。

「お父様、フィリアですが入室を許可して頂けませんか。」

するとようやくドア越しから声がかかった。

「ああ、入りなさい。」

「失礼致します。」

「見合い相手の件で話がしたいと聞いたが?」

座るように指示を出しつつ娘へそう問いかける。

「はい。肖像画やその方の詳細を読むだけでは判断がつけられないと思いまして。つきましてはその方達を直接見て判断したいので、お見合いの場を用意していただきたきたいのです。」

「なるほどな。だが以前私が薦めた者とも見合いをしても結果はあまり芳しくはなかったが?」

「以前は前情報がなく、いきなりだったので心の準備が出来ていなかったのです...」

そう言うと少し苦笑した。

フィリアは今年で18歳になった。しかし父親が薦めてきたお見合い相手はフィリアと歳が30歳も離れているかなり肥った中年男性。

父親が薦めてきたのなら悪いようには出来ない、そう思っていたフィリアだが、流石にそこまで歳が離れていてる相手は厳しかった。しかも話をしてみると、話の内容は頭が足りないと丸わかりな事ばかりを言い、極めつけはこちらを見る目がとても粘着質でフィリアは鳥肌がたった。

生理的に受けつけられない。そう判断を下し、父親へ直談判して婚約話は流れた。


(あれは...あの男だけは今まで会ってきた中でもかなり最低ランクの男だったわね...財力と権利を持ったただのアホは本当に恐ろしいわ...)

年下趣味という特殊な性癖を持った者は貴族の中では意外と多く、その男も例外ではなかったのだ。

(あんなぶくぶくと肥えた豚のような頭の足りない中年男性が夫となるとか考えたくも無いわ。婚約を無事回避出来て本当に良かった...。)

まあ多少我が家への心象等が下がったかもしれないが...

(本当は噂が流れるからこんな方法で婚約を回避したくはなかったのだけれども。)

貴族にとって家への悪い噂は致命傷になりかねない物だ。だがオランジェスタ家にとってその程度の噂話は絶賛急降下中の評価をほんの少しだけ下げる程度のものだとフィリアは判断したのだった。

(何せお相手と30歳も離れていればね...)

実際のところ、世間では相手の家にも問題があるとのことでそこまで評価が下がらなかったのである。


「...まあいい。丁度今日ウィンフレイ伯爵家から見合いの打診を受けたところだ。一先ず伯爵家の三男のロスト殿との見合いをしてこい。」

「ウィンフレイ伯爵家のロスト様ですか。」

「ああ。なんでも以前お前を見かけた際に気になったそうだ。あの家と婚姻出来ればこちらにとってかなり旨味がある。是が非でも婚約をもぎ取って来て欲しいものだな。」

(えぇ...まさかの一目惚れ説?私はロスト様とお会いしたことは一切なかったと思うのですけど…私を見かけて気になったということは本当に見かけただけだったのでしょうね。)


ウィンフレイ家のロスト様というとその人物像から存在まで謎に包まれた人である。

なにせ今まで一切社交の場に出てきたことがないのだ。恐らく他の家の人々も名前だけは聞いたことある程度の認識だろう。一切社交の場に出ないとなるとかえって目立ちそうなものだが、今まで噂話も一つとして聞いたことがない。


対してウィンフレイ家は有名だ。

オランジェスタ家よりも遥かに歴史のある家で、優秀な騎士を輩出してきた騎士の家。当代伯爵自身も近衛隊の隊長になった程の腕前だ。今は近衛隊を引退し、たまに若者たちを指導するだけだと聞いている。

そんな伯爵家の長男、次男も優秀な騎士だという。

...三男の話は伯爵の武勇伝が多過ぎて埋れてしまって流れないのかもしれない。


伯爵の武勇伝は嘘か誠か定かではないが、貴族達の間では有名な話だ。


曰く、入隊直後絡んできた先輩騎士達をボコボコにして性格矯正を行なったとか。


曰く、その騒ぎに駆けつけた当時の隊長すら倒したとか。


曰く、その足で国王陛下に今の近衛兵達の現状は良くないと進言し、近衛隊内にいた使えない名ばかりの者達を全員辞めさせたとか。(よく不敬罪で捕まらなかったなと感心してしまった。)


これらはウィンフレイ伯爵の武勇伝として広まっているが、これはほんの一部。聞いてる限りでは無茶苦茶しまくっているだけという印象しか持てないが、ファンの方の説明だと彼はとても正義感が強く、先走りしやすいだけなんだとか。

まあそんな伯爵の三男ならそう悪い人ではないだろう。

「わかりました。お受け致します。」

「ああ。ちなみに日程は五日後だそうだ。しっかり準備をしておくように。では下がれ。」

「はい。わかりました。」

必要な話が終わったらさっさと部屋から立ち去る。

とにかく五日後にむけてやることをしなくては。

どんな人か分からないからちょっとだけ会うのが楽しみになってきたフィリアであった。




その頃フィリアの父親であるオランジェスタ男爵は...

「まったく。あいつは扱いにくくてかなわんな。」

そう言いながら先程フィリアが訪ねてくる前に隠していた書類を取り出す。

「こんなうまい商売だが、あやつに気づかれてしまえばやりにくくなるどころか邪魔をされかねん。」

感ずかれる前にあいつを嫁がせなくては。そう呟きながら彼は書類を捌いていった。



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