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2話



「今言った話に乗るとしても、村人達や俺の死に様を見るってのだけはとてもじゃないが許容できない。俺たちは死にたくはない。」

彼女の言い方じゃ俺たちに報酬として死ねって言ってるようなもんだよな。

「報酬が死に様ならば、勿論貴方達の命を報酬とはしません。貴方達への要求は生き様と始めに言いましたから。まあその要求も取り下げますが。私が死に様を見るのはその悪徳領主相手です。彼なら貴方達は気にしないでしょう?」

「そうだな。これっっぽっちも気にならん。だがいくらだめだめ悪徳領主とはいえ相手は貴族だ。爵位は男爵だったと思うが...。」

世の中、平民が貴族に歯向かうことなんて自殺行為だ。相手は私兵を抱えているし、なにより俺たちは武器なんかも持っちゃいない。無闇矢鱈に突撃したところで返り討ちにされるし、なによりも他の村人達にも迷惑がかかってしまう。

「大丈夫です。貴方達には迷惑をかけないように別方向からきっちり叩きのめします。それに今の提案を断られたとしても、貴方達の現状を聞いた私としては彼を潰さないと気が済まないですから。」

そこはかとなく黒い笑みを浮かべるエルキール。

...これは詳しく聞かない方が良さそうだな。

「断っても結果は変わらずか。分かった。じゃあよろしく頼む。」

「はい。任されました。叩き潰すための下準備があるので少々時間をいただきますが、必ず解決してみせます。」

何だか恐ろしい救世主(?)が現れたが素直に喜ぶべきなのかどうか悩ましい....。そこでふと思いついたことを口にした。


「そういえばエルキール、君は武器を持っていなさそうだがどうやって野盗やドボノシを倒したんだ?まさか解体するのに使っていた短剣しかないのか...?」

普通の旅人達は自衛手段として大体剣を持っている。ドボノシを解体するのに短剣を使っているのは見た。だが彼女の腰元に剣はなかった。

「ああ、今は持っていないですがちゃんとありますよ。」

「そうなのか?昨日うちに訪ねてきた時もそれらしいものを持っていなさそうだったが...。」

「私の場合、持ち歩く必要はないんです。いつでも出せますから。」

「は?出せる?」

それはどういうこった?

「ええ。ちょっと見ていてください。」

そう言うと彼女はどこからか一枚の黒い羽根を取り出した。

まさか羽根が武器だなんて言わないだろうな?

そんな俺の考えが伝わったのか彼女は少し苦笑しつつもその羽根に目を向けた。

するといきなり羽根が輝き始め、瞬く間に黒い長剣へと変わった。

「なっ...何じゃそりゃ!」

俺はかなり驚いてちょっと腰が抜けそうになった...。

いきなり目の前でただの羽根が剣になったんだ。誰だって驚くだろう!

「これが私の武器です。ドボノシを解体するのにもこれを使いました。今は長剣に変えてみせましたが、他のものにも変えることが出来ますよ。」

そんな俺を見て楽しそうに笑っているエルキール。

ちくしょう。

「普段は邪魔になるので武器は持ち歩かず、必要になったら今みたいに羽根を剣にして応戦しているんです。まあ白兵戦もそこそこ得意なのでそこまで必要に指し迫られることもありませんが。」

......俺はそろそろ彼女への考えを改めなくちゃな。

破茶滅茶なところがあっても美人なら許されると思っていたが、ここまでくると美人でも許されないな。うん。

怖すぎてもう突っ込む気力が無くなってきた。だがこれだけは聞いておかないと。

「君は魔術師だったんだな。」



魔術師。彼ら魔術師はとても希少で滅多にお目にかかれない。

体内に魔力を有している者達はいるにはいるが、それで魔術師になれるかどうかと聞かれると答えは否だ。

訓練によっては保持できる魔力量を上げることは可能らしいがそれでも魔術師になれるほどの魔力量には達しないらしい。つまり、生まれた瞬間の魔力量によって魔術師になれるかが分かるということだ。ちなみに俺を含むここの村人達は誰も魔力を持っていない。

魔術師は隔世遺伝らしく、魔術師の子供だからといって同じく魔力を持って生まれるとは限らない。魔術師同士の子供ですら確実ではないという。逆に魔術師とは無縁だと思われていた親から魔術師の才能がある子供が生まれることもある。そういう事情があるので魔術師はとても貴重だ。

「そうですね。一応魔術師と呼ばれています。ですが私にとってこの力は旅の目的を果たすための手段に過ぎませんけれど。」

なん...だと......。

「もったいないものがどんどん増えていってるな...。美人なのに恋愛に興味がない。魔術師として生活すれば贅沢出来るってのに、その力はただ目的を果たすための手段...。」

「ふふ、よく言われます。どうしてもっとそれらを有効活用しないのかと。」

「...君の旅仲間の苦労が知れるな。ってエルキール!仲間はどうするんだ!?」

すっかり忘れてた!

「彼らなら恐らく目的地の城下町へ向かっていると思います。迷子になった場合は一晩たっても見つからなかった時点で目的地へ向うように言ってあるので。」

「迷子って...いや間違っちゃいないのか…?」

俺は頭を抱えた。



それからしばらくして彼女はうちを出発した。宿泊代と、話し終えた後にまた狩ってきたドボノシを置いて......



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