悪役令嬢リナ②
本日、2話目です。
リナをどこまでやるか悩み中・・・
しばらくして泣き止んだリナは恥ずかしそうに視線を反らしていた。
リナは幼い頃からあまり泣かない子供だった上に人前で泣くという経験がなく、その上さっきあったばかりの男に見られたというのはなんとも恥ずかしいのだ。
そんなリナを男・・・カインは微笑ましそうに見ていた。
カインが魔の森にいたのは本当に偶然だ。
たまたま魔の森の近くに用事があって、その帰りにリナを発見したのだ。
ギリギリで助けに入れたがタイミング的には言うほど簡単ではなかった。
咄嗟にカインが剣で切り飛ばさなければリナは死んでいただろう。
そう考えると、目の前で恥ずかしそうに視線を反らしている少女を助けられて本当によかったとカインは笑顔になれた。
と、しばらくして、リナは落ち着いたのか咳ばらいをしてから改めて頭を下げた。
「助けていただいて本当にありがとうございます。私はリナと申します。」
「ああ、うん。俺はカイン。まあ・・・冒険者かな?」
「カイン様ですね。それで、今さらですけど魔の森に何故いらっしゃるのです?」
「用事があってね。魔の森・・・というよりもその先に住んでる人にね。その帰りにたまたま君を見つけたんだ。」
「そうなのですか・・・」
リナは思わず考えてしまう。
魔の森に単独で入れるということはカインは凄腕の冒険者なのだろう。
ここに用事というのか気になるが、それよりもリナはこの先の行動について考える。
森を抜けるならカインに着いていけばいいだろう。
しかし、そのあとが問題だ。
家には帰れず、お金もない。
少し魔法が使えるだけの無知な令嬢たる自分がどう生きていけばいいのかを。
そんなリナの様子からなんとなく察したカインは一瞬考えるそぶりをみせてから決めたという表情で提案をしてきた。
「あのさ・・・もしよければ一緒に来ない?」
「えっ・・・?」
リナは一瞬その言葉の意味を理解できなかった。
そして、すぐに森を抜けるまでだと悟り返事をする。
「えっと・・森を抜けるまでですよね。お願いします。」
「あ、いや、そのあとも宛がないなら一緒に行かない?」
その言葉にリナはフリーズしてしまう。
そんなリナの様子を知ってか知らずかカインは言葉を続ける。
「無理強いはしないけど、話の限りだと前は貴族のご令嬢だったんだよね?いきなり街にいってもわからないだろうし、リナがいいなら一緒にどうかなって思って。貴族のような生活は無理だけど、生きることに不便な思いはしないと思うし。どうかな?」
呆気に取られるリナ。
リナはどうしてカインがここまでしてくれるのかがわからなかった。
下心があるようには見えないし、純然たる好意で言ってるならどんなお人好しなのだろうとふいに考えてしまう。
カインはカインで確かにお人好しならではの好意での台詞でもあるが、少しばかり下心もあった。
リナの見た目はとびきりの美少女なのだ。
銀色の長い髮と、肉付きのいい、でもバランスのとれたプロポーション。
顔立ちは若干吊目ではあるが、それもリナの印象をクールにさせるほどで実はカインの好みのタイプなのだ。
しかも、リナの性格は話した限りだと真面目で優しく、そしてどこまでも繊細な性格のようだ。
そんな彼女をカインは一人にはしたくなかった。
迷っていたリナはカインの優しい微笑みをみてから、覚悟を決めたように頭を下げた。
「カインさんにはご迷惑かけることになるかと思いますがお願いします。」
「気にしなくていいよ。それじゃ行こうか。」
「はい・・・いたっ・・・!」
立とうとしたリナは捻っていた足のことを忘れていて体勢を崩して倒れそうになる。
「よっと・・・大丈夫?」
しかし、そこでカインはすぐにリナの体を抱き止めた。
結果二人の体が接触して、カインはリナの柔らかい感触を、リナはカインの男らしいがっしりとした筋肉質な感触をそれぞれ感じることになった。
「あ、ありがとうございます・・・すみません・・・」
「いや。大丈夫だよ。」
互いにドキドキしながらも平静を装う。
カインはリナの足を一瞬確認して歩けないと判断してから、ひと事「失礼。」と言ってリナの体を横抱きした。
いわゆるお姫様だっこだ。
「えっ!あ、あの・・・」
「足痛いんでしょ?嫌かもしれないけど、落ち着けるところまで我慢してね。」
「い、嫌ではないですが・・・」
「えっ?」
「な、なんでもないです!その・・・お願いします。」
「あ、ああ。うん。了解。」
リナをお姫様だっこしてカインは森を抜けるために歩き出す。
リナの体温と見た目より軽いがたしかな人の重量を感じながらカインは先へ進んでいく。
一方、リナはカインに人生初のお姫様だっこをされて頭の中が混乱していた。
先程からカインに感じる見知らぬ感情と不思議な胸の高鳴り。
リナ自身それで気づかないほど鈍感ではない。
そっと、リナは見上げるようにカインの顔を盗み見る。
その表情は前をみていた。
リナを大切なもののように運んでくれて、リナの体に負担をかけないように慎重に運んでいた。
カインはリナの諦めていた物語の王子様のようだった。
ピンチに颯爽と現れて、助けてくれた上に、リナ自身の心を温かくしてくれた。
常に、優しく接してくれて、リナのことを考えてくれる。
そんなカインにリナは恋をしてしまった。
こうして触れあっているとカインの熱が伝わって安心するのと、ドキドキするのでよくわからなくなる。
それでも・・・リナはこの時間が今までで一番幸せだと断言できる。
「カインさん。」
気付けばリナはカインに声をかけていた。
こちらを見たカインにリナは真っ直ぐな瞳で見つめた。
今、素直には言えない。でも、これだけは伝えたかった。
「ありがとうございます。」
その一言がリナは言いたかった。
助けてくたこと、優しくしてくれたこと、これからのこと、そして・・・恋をさせてくれたこと。
すべに関しての感謝だ。
そんなリナの気持ちを察したのかカインは少し照れ臭そうな表情をしてから微笑んだ。
そんな温かい雰囲気を二人は感じながら森の出口まで進んだ。